都会のある街
フカフカのベッドで、目が覚めた。
「今までの人生で一番良い目覚めだわ…」
え?布団に課金するだけでこんなに変わるの?俺の今までの人生って何だったの?というか昨日のお風呂も最高だったんだが…流石三つ星…泊まってよかった…。
「最高だっただろう?」
「最高でした。ありがとう」
朝飯を食べにレストランに降りに来たら悪魔が先に席に座っていたので相席した。
そういや昨日いた街は結局消えてしまったのだろうか。
「消したよ、ちゃんと。君は俺の同行者ということになっているから、記憶は全て残っているだろうけど、他の人はあの街に行こうと思うことがないように、いろんな調整が入ってる」
「ふーん。まあ特に思い入れがある街でもないからいいけど。会社があるくらいで」
俺はウインナーを食べながら言う。うまい。シャウエッセンよりうまい。
「てか街が消えるって何?具体的にどうなってるの?」
「端的にいうと君のいた会社は無くなってるし、君は今日からニートってことになる。っていうかスマフォとかであの街のことを検索しようとしても出てこなくなってる」
「マジ?」
試しに会社のあった街を検索するが、たしかにそもそも街の名前が上がってこない。ついでに会社のホームページも探してみたが無くなっている…。
「俺1人のためのドッキリにしては手が混みすぎてるよなあ…」
「信じる気になった?世界が後6日で終わるって」
「そうか、もう1日使っちまったのか」
後6日で世界が終わる。当然俺は死ぬ。もはやそういう次元じゃないんだろうけど。
それでもじゃあ、世界が後6日で終わるんだと言って、誰かが信じるわけでもない。というか、俺だったら信じない。信じるリスクよりも、日々を送る安定もとってしまう。
「結局、よくわからない君と過ごすことしかできないんだよな」
「そういうこと。世界を閉じる作業って孤独でさ。だから世界を終わらす最後の七日間は、その世界の誰かと、一緒にいる権利が与えられるんだ」
悪魔はプチパンケーキにメープルシロップをかけながらいう。いいなそれ。俺も次はそれを食べよう。
「後、今日無くなるのはこの街だから。夜にはまた隣町のホテルに移動してね」
「うい。隣ずつ攻めていく感じね。というか、残ってる街が隣町って感じか」
たとえ虫食いに街が消えていても、消える街が残ってる街から何千メートルも離れていても、間の街が消えてしまえば、もうそれは隣町なんだろう。
「夜まで暇だけど、なんかする?」
「そうだな…ゲーセンでも行くか。ここ、都会だし」
「いいのかい?残り6日のうち1日をそんな使い方をして。もっと有意義なー」
「いいんだよ」
どうせやりたいこともない。会いたい人がいないわけでもないが、そう都合がつくわけでもない。それに、残された街にもしいるなら、そこで会えば良いだろう。会えるのなら、だが。
「じゃあ、一緒に遊ぼうかな。ゲーセンなんて行くの初めてだよ」
「お、そうか。まあ音ゲーとか楽しいから一緒にやろうぜ」
太◯の達人やma◯ma◯など、誰かと一緒にやるのが楽しいゲームは、腐るほどある。
「世界が残り6日で終わるって言うのに、誰かと一緒に太鼓の達人ができるってのは幸せなことだな」
俺は悪魔と都会に繰り出していくのであった。