『邪空の王(上・下)』マーガレット・ワイス&トレイシー・ヒックマン著。早川書房
本作は上下巻の2冊(1冊400ページ以上)、三部からなるハイファンタジー作品です。
下巻に書かれた「解説」によるとこの作品は、ファンタジイTRPG(テーブルトーク・ロール・プレイング・ゲーム)<至高の石>を基に描かれた物語で、この2名の作者は有名な<ドラゴンランス>シリーズの作者でもあります。
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主人公は2人──第二王子のダグナルスと、その王子の身代わり少年のガレト(「身代わり少年」とは、触れることが許されない王子の代わりにたたかれる少年のこと)。
上巻では10歳の主人公たちの話からはじまり、第二部になると20歳に成長した主人公たちの物語が展開します。
気の弱い少年ガレトは、主であるダグナルスに強く依存し、逆らえないような状態のまま、学問の嫌いな王子に変わって秘術師になるよう命じられる。
そしてガレトは城の図書館で謎の魔術書を手にし、内容をまったく理解できないその本の内容を、ある経験をしたダグナルスが描いて見せた図が、その謎の本に描かれていたものだと知る。
そこから「邪空」という禁じられた宗教──隠された魔法──に、ガレトもダグナルス。お深く関わっていくことになっていき……
ダグナルスと兄ヘルモスの確執、国王タマロスの願う理想と現実の対立。そしてしだいにヘルモスとのあいだにもすれ違いが生まれ……
上巻の第二部では、美しいエルフの女性ヴァルラ(人妻)との愛欲に溺れたダグナルスが、彼女と不義密通をし、だんだんとこの傲慢で愚かな王子の「邪空」に染まりはじめた魂が、多くの人々の運命を巻き込んで破滅へと向かっていく様が書かれます。
「邪空」とはなんなのか。
その力を研究するようダグナルスに言われたガレト。
彼の運命もまた邪空へと堕ちてしまうのか。
上巻ではほかにも神々の力を持つ<至高の石>や、神から力(魔法の甲冑)を与えられる変容の儀式など、この世界の神や邪空といった幻想的な話が語られています。
なにより自己中心的で勉学を嫌う王子ダグナルスの傍若無人ぶりが、物語の主人公なのか──それとも悪役なのか、という疑問が、読み進めていくうちに読者の心に沸き上がることでしょう。
ちなみにこの世界観に登場するエルフは日本人をモデルにしており、日本庭園や侍的な(規律に厳しい)生活、あるいはどこか男尊女卑的な思想がかいま見えたりします。
ほかにもドゥワーフ(解説によるとモンゴルをイメージする)やオルクなどといった種族が存在する世界。彼らと人間の対立もまた要注目です。
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どうでしょうか、読みたくなるような紹介文になっていたでしょうか。
主要キャラクターのダグナルスは頭がパーですが、戦士として優秀で見た目は美男らしく、かなり奔放な、ただれた生活をしています。──いわゆる典型的なダメ男ですね。
ガレトは顔に痣のある、醜い見た目をした暗い、劣等感にあふれた少年といった感じで、この極端に違う2人が友人となり(明確に上下関係がある友人関係といういびつなもの)、やがて「邪空」や神の力をめぐる渦中に引き込まれていく。
権力欲旺盛なダグナルスはさまざまな悪知恵を働かせ、父親を説き伏せたり、混乱を巻き起こしていきます。
この2人が最後はどのようになっていくのか(ガレトはダグナルスの兄ヘルモスを尊敬している)。
気になった人はぜひ本を手に取って、その結末を見届けてください。
ここでいったんこのエッセイを完結にしておきます。
今後も投稿するか未定なので。
ただ、まだまだすばらしいファンタジー作品はありますし、紹介するのもやぶさかではありませんが。
このほかにもおすすめしたい作品として『ゴーメンガースト』。これは幻想文学といったものでしょうか。重厚なファンタジーを味わいたい人におすすめ。
ファンタジーではなくSFのカテゴリーですが、ロジャー・ゼラズニイの『光の王』もインド神話を基にした傑作です。
強烈なクセはありますが、テリー・グッドカインドの『真実の剣』シリーズなども(読み手を選びますが)壮大な物語と世界観、個性的なキャラクターに引き込まれるでしょう。
ほかにも現実世界を舞台にした作品の幻想的な物語といえばハワード・フィリップス・ラブクラフトの「クトゥルフ(クトゥルー)神話」を題材にしたさまざまな物語群。このクトゥルフ神話を組み込んだ世界観はほかの作家にも多大な影響を与え、共通するモンスターが登場する作品が書かれています。
もしこのエッセイを読まれた方の中に、「この作品もいい」というものがありましたら、教えていただけるとうれしいです。