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第三話「危機」


「誕生日…。」


やばい…どうしよう。わからないっ!

まさか、クラウルの誕生日を聞かれる流れになってしまうなんて...。


ベッドの上で仰向けになりながら、考えるそぶりをするが...。

自分はミスしてしまったのだということに気をとられ、この先の展開をうまく想像できない。


自分に向けられた疑いが晴れたのも束の間、私は再び窮地に立たされた。

この状況をどうにかしてやり過ごさなければ、彼女はもう私を信用してはくれないだろう。


…とはいえ、わからないものは仕方ない。ここは[頭痛が想像以上に深刻であるためそれすらも思い出せない]という体で話を進め、何とか誤魔化すしかない。


「ええっと...。いつだったかな...。」


とりあえず、私は慣れない笑顔を作って誤魔化した。

対して、ファニーは表情を少しも変えず、ただ私の顔に視線を送ってくるだけだが...。

その視線が徐々に焦燥感を生み出す。心を見透かされているのではないかと思えば思うほど。


彼女から目線をそらし、天井を見つめながら次に発する言葉を考える。

そして今更ながら、自分の言動によってこんな状況に至ってしまった事を激しく後悔する。


原因はやはり、ファニーを変に引き留めてしまったこと。

彼女の口から[回復魔法が使える医師]という単語がでるとは思わなかった。

私は、その医師の魔法によって仮病がばれてしまうかもしれない…という危険を予測し、その場で咄嗟に彼女を引き留めた。

記憶が云々というのは、たとえ魔法が使える世界であっても、さすがにそういう治療はできないだろうと思い、つい言ってしまったのだが...。


しかし、それが裏目に出た。


考えるそぶりをしてから数秒後、今まで姿勢を低くし目線を合わせて会話をしてくれていた彼女が、何の前触れもなく突然立ち上がった。

そんな彼女を見て私はさらに焦る。落ち着いてなどいられない。


ファニーが私に向けた殺気は本物だった...! 

疑われたら今度こそ弁解はできないっ! 

今すぐ何か言わないと...。

でも、何を言う? あてずっぽうに発言しても、返って逆効果よ...。



…いや待って。そういえば、ゲームが始まる前、待機部屋で画面のモニターに私の名前がフルネームで表示されていた。何も入力した覚えは無いのに。

そして、そこから解ることは、もう既に、このゲーム[回生のクラウル]にプレイヤーである私の個人情報は全てバレてしまっている可能性が高いということ...。

しかし、同時に疑問が浮かぶ...。何故、プレイヤーの個人情報を取得する必要があるのか。

だけど、今思いついた! その問いの答え! それはつまり、クラウルと私の意識を同期させる為...!

理由は不明だが、クラウルと私が一体化するために個人情報が必要なのだとしたら...!

もし、この仮説が正しければ、クラウルの誕生日は私と同じ——


…いや、でも根拠は無い。大体それなら主人公の名前もクラウルじゃなくてカノでいいし。

というか、それだとこのゲーム自体が洋風な雰囲気なのに、主人公の名前が和風っぽくて違和感ある...。


って、そんなことどうでもいいよっ! あああ、どうしよう。良い案が思い浮かばないっ!


今まで生きてきた十七年間、これほどまでに頭をフル回転させたことはあっただろうか。

自問自答を繰り返し、最善のセリフを考えるが...。


駄目だ。もう時間がない。これ以上返答を待たせるのは、かえって不自然だ。


…こうなったら、成り行きに任せるしかないっ。


「そ、そう…! 思い出したわ! 誕生日は——」

「…これ、見て下さい。」

「…え?」


私は意を決し、適当に何か言うつもりで喋り出したところーー

ファニーは特に疑いの目を向ける様子もなく、ある物を私に見せた。


「こ、これは...。」


彼女が棚から手に取り持ってきたもの…それは写真であった。いや、写真のようにリアルな絵だと言うべきか。

或いは、写真までは少し届かない極まった人間業と表現するのが正しいのか...。

とにかく、写真と絵の境界線上に位置するものであったことは間違いない。


そして、その絵には、ある少女が二人並んでおり、無邪気な笑顔をこちらに向けている。

また、背景は野原のような平地であり、辺り一面に咲く多彩な花々に少女たちは覆われている。

…それはまるで、彼女たちを要に扇状の虹がかかっているようだった。


「ふふっ。懐かしいですね...。もう四年も経つの...。」


ファニーは微笑みながらそう言った。

…どこか儚げにその絵を見つめながら。


「前日まで大雨だったのですが、この日だけ奇跡的に晴れて...。それで、今日は天気も良いし特別な日であるから、久々にあの丘に行こう…という話になり、私たちはそこへ向かいました。そうしたら今度は、この絵に写っているような綺麗な花たちが出迎えてくれました。

この虹のような花の並びは、当時の私たちの感動を表したものだと思うのですが...。敢えてこの形にして描くあたり、やはりあの御方は才能の塊ですね。」


「………?」


なるほど...。そんなエピソードがあったとは。

尚更、クラウルとファニーの関係が羨ましく思う。


…それは置いておいて。でも、どうして絵師は花の並びを敢えて虹のように描いたのだろう?

それも、[私たちにとって特別な日]と言うのは...。

いったい何の意味が——


あっ...。まさか。でも、それって...。

いや、だけどこれ以外に考えようがない。


…私は意を決した。



「七月十六日。」


「...! そうです! ちゃんと覚えてくれていて良かったです。」


彼女の反応を見て、私は安堵した。それと同時に押し寄せたのは、学校のテスト期間が終わり勉強漬けの毎日から解放された時のような疲れに似ているものであった。


…しかし、腑に落ちない。


日本では、梅雨明けの時期に虹がかかることが多いため、それにちなみ、七月十六日を七と十六の語呂合わせで七色の日、つまり虹の日と呼ぶこともある...。

だが、今回の語呂合わせは、ファニーがヒントを出してくれて、尚且つ、私が日本人であるからこそ答えを出せた。

ゲーム内の世界観ではなく、日本を基準にして考えた結果、クラウルの誕生日がわかった。

もし外国人がこのゲームをプレイした場合、[七色の日]の語呂合わせなんてわからず、ここで詰むということが容易に想像できる...。


…このゲームは、ターゲットを日本人に絞って制作されているということなのだろうか。

でも、だとしたら何故——


「少しほっとしました。この絵は私にとっても大切な思い出なので…。それはそうと、やはり、あなたの体調が心配なため、医師を呼んできま——」


「呼ばなくて大丈夫っ! ついさっき頭痛も治ったし、記憶もある程度戻ったから! それに、私めちゃくちゃ元気だから! これだけ元気なら多分、走ることもできるし! 試しに高尾山でも登ってこようかなって...あ、いやいや、今の無しで...。と、とにかく何ともないから。医者なんて呼ばないで...。御父様も心配して大事になっちゃうし...。」


私はベッドから勢い良く起き上がり、自分が健康であるということ身振り手振りで表現した。


「………………。」


ファニーは、私の変わり様に啞然としていた。

…豆鉄砲を食らった鳩のようであった。


彼女は我を取り戻すのに数秒はかかっていた。


「ご、ごめんなさい! 少しばかり呆気にとられてしまいました。そこまで言うのなら、医師はお呼びしませんが...。でも、代わりに約束してください。何かあったら直ぐ私に申し出るということを。」


私が頷くのを見た後、ファニーは貴方の体調を王様に報告してきます…と言って部屋から出た。


…それを見届けた後、私はベッドに倒れこんだ。

ブックマークをよろしくお願いします。


…寝違えて首が痛い(泣)

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