prologue
Prologue
一人、二人……一人いない……?
どういうことだ? 屋敷には4人しかいない、あと一人は一体どこに消え……
「よお、クソガキ」
「っっなっ!?」
後ろから強い衝撃を受け、前方へ吹き飛ばされその勢いのまま棚に衝突する。
「っかぁ~……痛ぇなあ、畜生……」
ガラスの破片を払いながら正面の人物と向き合う。顔は影で見えないが外見では片手に金属バット、背丈160センチ、黒のコートと縞々のズボン、そして黄色い帽子だ。ひとつ付け加えるのならばかなりくさい、ものすごく臭い。放置した生ごみような異臭がする。
「気配はしたんだよ、うん。こそこそネズミみてえな気配がこの屋敷にな? まあ、そのネズミがガキだとは想定外だけどな、うん。」
気配ったって隣の屋敷だぞ、どんだけ堪がいいんだこいつ……否、運がいいだけだと信じたい。どうやら潜入捜査は限りなく失敗に近そうだな、ここから逃げ出せば成功で捕まったら失敗、というか殺される。ポケットにあるのは親戚の爺からパクった2つの煙幕玉と催涙スプレー、背中には仕込みのスコップだけ、隙さえ作りだせばできないことはないな……
「……ッ、俺も想定外だった。まさか後ろから奇襲してくる卑怯で体臭きつめの汚いおっさんとは思わなかったしな。」
「アニキに言われて屋敷に来てみりゃとんだネズミが入ってたなぁ……薄暗い空間じゃ後ろから奇襲すんのは常識だろうが、うん。それともなにか? 肩でもたたいて欲しかったのかボウズ。」
「っ……クソっ……まずいな……」
正直ここで見つかるのは想定外だった、多分こいつは【アニキ】というやつが偵察でこちらに向かわせた刺客でありそいつが今回の主犯格ということでもある。この町が変貌し始めたのは奴らがここへ来てからであり、宗教活動だの慈善行動だと御託を並べて次々と町の人たちを洗脳していき規模を拡大し始めた。奴らは……こいつは洗脳した人々からお金を啜り人生そのものを食い物にする怪物【モンスター】だ。
「俺はあんた達がやったことを絶対に許さねぇし、許す気もない。人の人生を食い物にしてるあんた等は俺にとっちゃモンスターそのものだしな。正直、ここで一発ぶん殴りてぇっ!」
「っならやってみろよぉ!!」
汚臭男がバットを振りかざしこちらへ突っ込んでくる。奴の目からは迷いが見えず、確実に殺【フルスイング】しにくる腹積もりなのだろう。ただ恐怖はない、正直これくらいの大振りならば避けることも容易い、仕込みスコップで反撃してもいい……が
「っでも今は逃げるっっ!!」
ポケットに入っていた煙幕玉を一つ取り出すとともに地面へ叩きつける。煙幕は一瞬で室内へ充満し辺りは白い世界へと包まれる。
「っごほ……このクソガキっ……煙幕なんて汚ねぇマネしやがって!」
煙幕が引かない内に屋敷のガラス へ突っ込み出口へと駆け抜ける、奴等の顔と声は覚えたし今はまだ【時期】じゃない。この情報を【ハイ&ロー・クラブ】へ伝えるまでが俺の仕事なんだ、こんなとこで捕まるわけにはいかない。屋敷の侵入したルートからなんとか脱出し拠点へと全速力で向かった。
ー煙幕が引いた後の屋敷ー
「……くそっ、見失った! あんにゃろう、次あったら覚えとけ……」
「逃がしたのか、クレソン。」
「ア……アニキ……違うんだ。野郎、煙幕玉なんてもんを隠し持ってやがって……ムグッ!?」
「クレソォン……私の嫌いなことは言い訳と悪臭だと言わなかったか……? これで6回目だ、気をつけろ。7回目の警告で厳重処罰【けじめ付】だからな。
「すっ……すんません。」
「別にお前がヘマしたのは責めていない、私が気に入らないのは言い訳を盾にして結論から逃げる奴なんだよ。お前はまだ改心の余地があると俺は踏んでるんだ、くれぐれも私を失望させるな。」
黒づくめの男は胸ポケットから10ドルを取り出し、クレソンへ渡す。
「ペーパーズショップで香水買ってこい、お前の体臭は臭くて敵わん。」
「アニキ……俺、ワキガ……」
「お前ら、準備しろ! 教祖様が来る前にここの地域囲う【シマにする】ぞっ! ウィスパー、お前はボスに連絡だ。囲いの許可もらっとけぇ! ボンド、お前はホコリ食ってねえでチャカ集めと兵隊呼んで来いっ! シコル、お前は近場の公民館獲って【略奪して】こい! そこを第二の基地にするぞっ! 遊びじゃねえんだ、お前ら気合入れろっ!!」
「トゥースっ!! 神に誓ってっ!」
屋敷の中はさらに騒がしくなり始める。それはまるでこの町の断末魔のように……