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Reliveir  作者: そうのく
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第一章


「ヴィア、大切な事を……見失っては駄目よ?」

「………?」

 ミューリアのその言葉を、ヴィアはよく分からなかった。

 大切なことってなんだろう……?

「貴方の周りに見えているのは、どんな光景?」

「………。」

 その吸い込まれそうな瞳を、ヴィアは不思議に思った。

 木々の精霊や、風と木の奏でる音……。

 それらと話をするように過ごしていたミューリア。

 ミューリアは青く綺麗な瞳をした女性だった。

 いつもそうして、何かを教えてくれた。自分が魔装術士兵を目指しいた時も……。

 彼女はいつも遠くを見ていた。遠い目をして、どこか別の世界を見ているようだった。

 それは、もしかしたら先の世界を見ていたのかもしれない。

 自分の未来の世界を――。






 暗い瘴気が辺りを包む。その中をヴィアは歩いていた。

「この辺りか……」

「主。瘴気が濃くなりました」

 自身の隣にいる式神であるリユネが――注意を促している。

 ヴィアは手に握る魔装弓に魔力を込める。気配に気を配り、リユネのサポートを頼りに辺りを探る。

 戦闘用の制服。胸元には魔装兵士の証明であるバッジが張り付けられている。

 しっかりとした一人前の魔装兵士――その傭兵スコーリアーであるヴィアが、警戒を強めていた。

「警戒する……。解析を急げ」

「……分かりました!」

 ヴィアも神経をとがらせて辺りを察知する。この瘴気の正体は……悪意……?

 とにかく、あまり良いものではない。


 ――大切なことを見失わないで、ヴィア。


「………。」

 過去のミューリアの言葉が脳裏に浮かぶ。

 辺りの瘴気が景色を包む。人の目を眩まし、闇で全てを飲み込んでいく。

 瘴気は黒い霧のように辺りを暗闇に覆う。

 光の届かない闇が、辺りを覆う。 

「………。」

「主……。」

 心配そうな目をリユネが向けてくる。辺りの見えない瘴気の中では、慎重な行動が要求される。視覚に頼らない感覚だけが必要になる。

「………!」

 その時、ヴィアは何かを感じた。同時にリユネにも何かの気配を察知する。

『ゴガアアアアアアアッッ!!!』

 叫び声が響く。

「ッ――!!」

 すぐさま機装弓を構えるヴィア。声のした方向へと目を向ける。 

 だが――その姿がまるで見えない。闇の中で動く影だけを捉える。

「怨念だ……」

 その姿は巨大な影そのものだった。黒く覆われた影は、確かな赤く光る瞳を宿している。

 闇から覗くその眼光は、何故か四方八方からこちらを覗いているように錯覚させる。

 どこにいるのかを曖昧にしたまま、こちらを覗きこんでいる。

 闇の中から――。

機装弓きそうきゅう展開」

「はい!」

 リユネのサポートが働く。魔力が行き渡り、矢が装填される。滅怪の術式が込められた矢だ。機装兵器である弓を、ヴィアは構えた。

 そして、照準から的を絞る。

「……!」

 矢を放つヴィア。叫び上げた怨念に対して矢が飛来する。

「リユネ!」

「はい……!」

 ヴィアの掛け声と同時に、リユネが辺りに探知魔術を張り巡らせる。

 怨念には意志がある。まだ未熟なものなら、その意志を汲む事で、浄化することが出来る。

 しかし――。

『ゴガアアアアアアッっ!!』

 その叫びに全てが掻き消される。闇の中から鋭い斬撃が飛んできた。

 それを躱すと、先程まで立っていた地面が抉れているのが目に見えた。ヴィアはその斬撃が飛んできた方向へと突進する。

 闇の中を走り、怨念の姿を探す。

「くっ――!!」

 蠢く影を目の端で捕らえる。大きな怨念だ。闇の中で姿を変化させるように曖昧になり、こちらを攻撃しようと藻掻いている。

 大きな爪が、目の前に突き出された。

「リユネ!」

「はい!」

 それでも、呼びかけを行うリユネ。戦闘しつつ、相手の姿を探る。

『ゴガあアアああアアッ!!』

「ぐっ……!」

「主!」

 しかし、それでも怨念は激しさを増すばかりだった。攻防はより苛烈になり、怨念の勢いは衰えない。鋭い爪が、ヴィアの体を襲い続ける。

「っ――!」

 ヴィアは機装弓と刃を持ちつつ反撃している。

 だが――見る限り、これ以上時間を引き延ばす事は出来ないように思えた。

「これ以上は、無理かもしれんな……」

「……!」

 覚悟を決めるヴィア。怨念が呼び掛けに応じない領域にまで来ている。

 それは、放っておくことは許されない存在になったという事だ。

 ただ破壊の限りを尽くし、更なる力を溜める化け物に……。

 放置しておけば、さらに被害が増える。

 生かしておくのは許されない存在に――。

「殺すしかないのですね……」

「ああ……」

 悲しい表情を見せるリユネ。本来なら、機械である式神が、このような表情を見せるはずは無い。

 だが、リユネは――。

 式神――自身の魂を守護霊として、この世に現生する。そして、魔を退治する存在として戦わせる機械的プログラム。

 それが式神だった。式神は、己の魂の現れだ。

 古代人の技術により、未知の力で発現する守護霊――式神。

「リユネ、大丈夫か?」

 心配をするヴィア。するとリユネは首を縦に振る。

「大丈夫です。私も戦います。目を背けたりしません……!」

 覚悟を決めたその言葉に、ヴィアは息を吐いた。相変わらず、強情な性格だ。機械らしくもない――。




 緊張と同時に戦闘が続く。

 激しく強い瘴気だった。対峙している怨念は、それに応じて力を増している。

 刃と爪が交錯する。鋭利な切っ先がお互いを引き裂く。

「っ!!」

 一筋の瘴気を引き裂き、ヴィアが弓を構える。

『ゴガアああアっッ!』

 雄叫びを上げる怨念。その声は傷付いても尚凶暴だった。強い恨みと一緒に、こちらを引き裂こうと襲い来る――。

「………!」

 リユネと共に応戦するヴィア。魔力を帯びた刃と機装弓で、怨念に立ち向かう。戦闘が続くほど、その勢いはより苛烈になっていく。

「くっ!」

 ヴィアの頬を黒い影が掠める。見えない刃が切り裂いてきたかのようだ。

 闇から、こちらに目を覗かせている――。

「っ!!」

 魔力の矢を放つヴィア。同時に飛び退きつつ反撃する。常に動いていないと的になってしまう。

「………。」

 神経を集中させる。闇の中に目を凝らし、次の攻撃に備える。


 ――ヴィア、大切なことを見失わないで――。


 あいつの声が聞こえる。

 いつも大事なことを伝えようとしていた……。





「っ――!」

 闇の中に気配を感じる。すると、どこからか影の爪が伸びるように襲い掛かっていた。

 それを紙一重で躱すと、瘴気の闇の中へ飛び込むヴィア。

 相手の懐に入る――。

『ゴガアアアアァ!!』

 闇の中から叫びが木霊した。ヴィアが刃で怨念を切り裂いていた。

 辺りに響くその声は、怨念の悲鳴そのものだった。

 苦しみもがく……人の声。

「っ!!」

 何度も怨念に向けてリユネが呼び掛ける。しかし、反応は無い。

「――……。」

 無理を悟るヴィア。他に方法はない。

『ゴアあぁあアアァぁーーっ!?』

 そのまま、ヴィアは怨念を切り裂くと、苦しみに叫ぶ大声が響き渡った。まるで未練を残すように――。

「……リユネ。戸惑うなら、お前は待機状態に戻れ。後はひとりで十分だ」そう言うヴィア。

「いえ……私も手伝います」

 悲しみが沸いてくるも、決意を込めるリユネ。

「私も、見届けなくてはいけないと思うんです……」

 怨念を見据えたまま、リユネは決意を堅くした。

 せめて、目を反らしてはいけない……。逃げてはいけない……。

 この者も人の魂なのだ。確かな命があったことを……最後まで……。

「私が、彼らの分まで悲しまないといけないと思うんです……」

「………。」

「心のある私が……もう悲しめなくなった人達の無念を背負わないと……」

「そうか……」

 それに、何も言わないヴィア。リユネがそうしたいと言うのなら、無理に止めはしない。

 相変わらず、不思議な奴だ……。

 機装弓に魔力を込めるヴィア。


「安らかに眠れ……」


 その言葉と同時に、ヴィアは矢を放った。

 その矢が怨念の体を射抜くと、そのまま怨念は燃え上がった。

『アああアアあアぁッーー!!!』

 そのまま怨念は燃え尽きた。

 しかし、どこまでも残るような断末魔が木霊した。苦しみ、地獄の業火に喘ぐように……。


 辺りに響き、全てを呪うような叫び声が……。






 古代人の残した技術――機装兵器。

 古代人は、害を成す悪霊や妖魔に対抗すべく、多くの魔術兵器を残した。

 この世は怨念や魑魅魍魎が現世に現れる時代。遙か昔から繰り返されてきた、人と怨念との戦い……。

 太古の昔から続く、呪いの輪廻……。怨念や悪霊は、人の魂の成れの果て。

 無念や悪意に捕らわれた者が、そうして化け物となって姿を変える。死して尚、闇を纏い、姿を変えて彷徨い続ける……。

 これは、人と人との戦いだった――。





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