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ソネット集

作者: 白亜迩舞

  「colourless」


 青い残雪が消え去り

 それよりも青い雪解けの水が

 ちょろちょろと可愛らしい音で野を流がるる

 老いた真紅の枯れ草がカサカサと歌っていた


 萌黄色の風が

 紫の空に浮かんだ雲を吹いた

 金と銀の雲

 太陽は黄水晶シトリンと同じ色だった


 ……色あせた草色

 ……枯れ果てた季節の亡骸

 圧制する雪の去った季節の後


 梢にのぞく

 エメラルドの指先、本物の緑!

 おお緑!




  「空の影」


 空の影

 銀の空

 小さな雨粒

 濡れた水晶クォーツ


 今日は太陽がない。

 空は雲に閉ざされた。

 雨雲の影が、

 世界を甘やかに包んでいた。


 影は闇じゃない。

 光を暗示する、光から生まれたもの。

 曇り空の上には……


 パタ、パタパタ。

 薄い光と一緒に雨が降る。

 光の粒のふる空の影




  「桜月夜の祝い」


 春、その夜空は、

 底が抜けたように黒かった。

 漆黒は、

 三日月一つ、浮かべていた。


 月一つ、

 触れれば切れそうな鋭さで、

 真っ黒い空に浮かんで。

 金色に輝いて。


 桜が風に舞う頃に、

 月は、金色の満月に。

 花びらは落ちる、白い月明かりに。


 桜舞う月夜。

 囁く春の、やわらかな風の中で、

 さあ、春を祝おう。




  「little voice」


 砂漠の砂サラサラ流れ、

 囁いている、何か。

 そのうちの一つだけは違うことを言っていても、

 それは耳には届かないだろう。


 木々の葉ザワザワ揺れる。

 きっと何か話している。

 けれど一枚だけ黙っていても、

 喧騒の中では気づかれない。


 小さな声は聞こえない。

 ちょっと大きくしてみる?

 何を訴えている?

 何でわからないんだろうね。


 誰も君一人を意識しない。

 だって君は、小さな存在だから。




  「赫い影 死神の影」


 踊る赫い影

 黄昏 死の時間

 逢魔が時に踊る死神の影

 宵の風はいやに冷たかった


 金色の光

 貫く 身体 心 魂

 タナトスの刃

 星々の下に骸を曝すだろう


 チアノーゼしたような紫の雲

 燃え尽きた青空 黒ずみ残された灰

 やがて変わる 永眠という夜


 ――なぁ、

 眠りのあとに、

 必ず目覚めがあるのか?




  「荒野に坐す」


 孤独とは荒野のただ中

 独りで坐すことだ 日差しは後頭部を灼く

 風のなか私は

 揺られる一本の葦となる


 ――いみじくもパスカルが言ったような

 賢いパンセではないが

 単に無力なだけだが


 孤独であることは脆い

 二本しか手がないのは不便だ

 無力であることを知っているのなら

 二本しかない足で踏ん張る必要も無い


 しかし

 何故ここにいる?

 何故孤独のままだ?




  「空と海のソネット」


 雲一つない

 曇りない、空。

 でもその先にある、

 漆黒の星空を、空は隠している。


 うねり打ち寄せる、

 うなる風に踊る、海。

 波打ち際は泡立って白く、

 その深奥は深い闇。


 表面しか見えない。

 卑小な我らは、しかしそれに心震わせる。

 広がっていく、創造の彼方へ……!


 強い風に砂塵が吹き荒れる、

 轟く波打ち際。世界の端で。

 私はオーと叫んだ。




   「夢」


 夢見ている。

 眠気の靄がかかったこの世界、

 淡い影を落とすアレは、

 本当にあの姿なんだろうか?


 実体の無い霧の中、

 不確かな感覚が揺らめいていた。

 目の前のアレも幻みたいで、

 触れれば消えそうだった。


 一秒一秒の間隔が怪しい。

 ゆらり………ゆらり…………ゆらり……

 微かな歌声。


 アレに向かって歩き出した

 ふらり…………ふらり…ふらり……

 ――そして夢は続く。




   「腕時計」


 道行く多くの人は、

 左手に時間を乗せている。

 しかし私の場合は、

 右手に時間が乗っている。

 何か違うだろうか?

 左巻きの螺子の気分。

 孤立しているだろうか?


 ――左利きは私だけではないのだけど。


  カチカチカチ。

 頬杖をつけば、

  カチカチカチ。

 右耳を時の音が叩く。

 ちょっと違う時間に生きている、

 そう意識するのも面白い。




   「人よ」


 歌えなくなったときに、鳥は死ぬ。

 希望を翼に込め、

 羽ばたき生を謳え、人よ。

 その心は何のためにある?


 見えなくなったとき、獣は死ぬ。

 知性の光を瞳に宿し、

 暗闇でも前を見て駆けろ、人よ。

 その心はなんのためにある?


 流れ行く時は剃刀の嵐。

 心はバターのように容易く抉られる。

 だが、明日になればまた出直せる。


 愛せなくなったときに、人は死ぬ。

 ならば人よ、幾度くじけても、

 愛し続けろ、人よ。




  「生というほのお


 冷たい宇宙に生まれた、

 小さな、小さな火。

 心を込めて名付けられた。

 強い、強い生があるように。


 揺らいでいるようで、

 彼はまっすぐに生きている。

 風の冷たさ重力の重さ雨の痛さ、

 彼は全てを受け止めている。


 どんなに燃えても、

 宇宙は冷たいまま。

 何のために燃え始めた?


 報われるために生きてはいない。

 生きているから生きている。そして、

 誰かのために生きて行けば良い。


 ――胸に宿る暖かい焔を感じよ!




    「影遊び」


 影を踏んで歩く

 時にはジャンプしながら

 影をわたり歩く

 それが遊戯だから


 影になった部分に光を当てて

 弱い部分を受け止めてもらいたい、過ぎた望みだろうか?

 一体どうしたら良い?

 私は一部でしか人前に立てない


 心が孤独だと感じる

 影踏み遊びも 独りでやっている

 切なさの色は黒だろう……


 ホップステップ

 ホップステップ

 ホップステップ

 ジャンプ!


 ホップステップ

 ホップステップ

 ホップステップ

 ジャンプ。


 ありのままの私でいたい

 影を捨てたくは無いけど

 弱さも脆さも結局は亡くすべき短所だから

 時間をかけて影を消していく

 心の遊びを捨てて

 シャープでシンプルな私になる


 丸まってくつろぐ黒い猫

 黙して語らない猫

 私も語らずに生きることにしたいよ




    「雪花」


 雪はひらひら、

 抗いもせずひらひら。

 力を抜いて、

 風に身をまかせて。


 それは「自由」ではない。

 風に左右される身の上。でも、

 雪は「解放」されている。

 争い、抗い、飽くことのない欲望から。


 その心は冷たい。

 生きる暖かさを知れば解ける身の上。

 はたして私は……


 激しい衝突から生まれる刹那の火花。

 決して雪のように長くは生きないけれど、

 それでも、流れ星のような美しさを持ってる。

 

 

個人的には詩集というのは苦手だったり、苦手じゃなかったり。


青くさい落書きです。パスカルでしょうか、少年時代には必ず詩が書きたくなるが、碌なものではないから捨てるべきだと言ったのは。


感想いただけたら嬉しいです。

 

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