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煉獄魔導士は働きたい!  作者: 春井ダビデ
煉獄魔導士の日常
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第八話 会合

 それから間もなくして面接が始まった。さっきの気まずいムードも抜けないままに。

 正面に座っているミラさんは、外見に似合う綺麗な声色で容赦なく暴言を吐いてくる。


「あんたみたいなのに私の手伝いができるの? 面白半分ならさっさと帰って。こっちも暇じゃないんだから」

「す、すみません!」


 ビクッと肩を強張らせて頭を下げる。というかなぜ僕が謝らなければならないの。

 怯えている僕を気遣ってか、セレナさんが耳打ちしてきた。


「大丈夫。ちょっと人見知りなだけで、本当はとっても優しい人よ。今の台詞だって『大変な職場だけど平気? 嫌ならやめておいてもいいからね?』みたいな意味だから」


 えっ、そうなんだ。確かに言われてみればそう解釈できなくもない、かなあ?

 でもやっぱり怖い。

 そのまましゅんとしていると、急にミラさんは立ち上がり、部屋の奥の方へと消えていってしまった。


 僕のオドオドした態度が気に入らなかったのだろうか。早くも不合格決定?

 なんて心配をよそに、彼女はすぐに戻ってきた。ティーポットとカップの乗ったトレイを持って。

 そのままそそくさとお茶を淹れてくれたではないか。

 呆気に取られている僕に、ミラさんは言う。


「何? 来客には飲み物を出すのが普通じゃないの? それとも、私の淹れたお茶じゃ不満だったかしら」

「いえ、滅相もございません!」


 怒らせてはまずい! と、急いでティーカップを取り、口へ運ぶ。

 う、美味い! 味には疎い僕でも分かる、多分これ高級なやつだ! どう考えても不満を覚えるような代物じゃない。


 もしかしてセレナさんの言った通り、実は良い人だったりするのかな?

 依然として不機嫌そうな顔をしているミラさんと、この美味しいお茶を交互に見比べる。そんな態度が気に入らなかったのか、彼女はジロリと僕を睨んできた。


「なによ?」

「ご、ごめんなさい!」


 うう……やっぱり怖いなあ。

 たじろぐ僕を、ミラさんは「変な奴ね」とでも言うように一瞥すると、机の上に置いてある僕の履歴書に目を通し始めた。


「ギルハイド・ダハーカ。二十歳。出身校は……は? あんた学歴ないの?」

「はい……。残念ながら」


 恥ずかしくなり、僕は俯き気味になる。ミラさんは未だに信じられないといった感じで履歴書を凝視していた。

 そうなのだ。魔導士を志す者は、魔法学校と呼ばれる場所で勉強を積むのが常識であるらしい。田舎から出てきたばかりだった頃の僕はそんな事知る由もなくて、随分と恥をかいちゃったんだっけ。


 それからしばらく、ミラさんは黙ったまま履歴書を読んでいた。その間、僕は判決を待つ罪人のような気持ちでいた。

 若干上目遣いになりながら、僕はミラさんの様子を伺う。しかし、当の彼女は眉一つ動かすことはなく、意図を読み取ることは不可能だった。


 今更だが、僕には敷居が高かっただろうか。段々不安になってきた。そもそもまともにギルドにさえ就職できていない僕が、こんな一流魔導士さんの助手だなんて……


「まあいいわ。採用ってことにしてあげる」

 ですよねえ、まあ分かってましたよ。僕じゃ力不足ってことぐらい……え? 今何て仰いました?

「だから、さ・い・よ・う。見ててムカつくからその馬鹿みたいに開けっ放しになってる口をどうにかしなさい」

「えっ、でも、なんで!?」

「なんでって、そんなの簡単よ。あんたはここで働きたい。私はここで働いてもらいたい。それだけ」


 やれやれと首を振るミラさん。しかし、やっぱりどこか釈然としない。

 首を傾げる僕に、傍観していたセレナさんがクスクス笑いながら説明を入れてきた。


「実はね、ミラも結構人手不足なのよ。ここできみを落としたらあの子のお手伝い誰もいなくなっちゃうの。見たでしょ、さっき女の子が辞めていくの」

「は、はあ。確かに……」


 そういえば、冷静になってきた今だから妙に思うのだけど、そもそも所長であるミラさんが自ら新人の面接なんかに付き合うものなのか? それこそ助手などに任せてしまえばいいのに。

 それに、さっきから人の気配を感じない。ミラさん以外でここに来て出会った人物といえば、さっき外へ飛び出していった女性だけだ。

 まさかセレナさんの言う通り、ここには誰もいないのか……?


「ええ、そうよ。悪い?」


 開き直った! 思わずお茶を吹きこぼしそうになった。

 別段恥じらう様子もないミラさんは、手早く僕の履歴書類をまとめると、こちらへ押し付けてきた。


「さ、面接はもう充分でしょ。早速仕事に入ってもらうけど、いいわよね?」

「ええっ!? 今すぐですか?」

「だからそう言ってるじゃない」


 うざったそうに答えるミラさんは、既にソファから立ち上がって退室しようとしていた。

 いやいや、いくらなんでも急すぎるでしょ。抗議しようと口を開きかけたその時、セレナさんが僕の肩にそっと手を置く。


「ごめんね。さっき言った通り、人手不足だから。分かってあげて?」

「それはまあ……はい。別に予定とか無いんで大丈夫ですけど」

「そう、良かった」


 セレナさんは顔をほころばせる。まったくもう、そんな顔されたらもう絶対断れないじゃないか。

 本当に仲が良いんだな、と僕もなんだか微笑ましい気持ちになってくる。

 ドアの前で待っているミラさんが「早くしなさい」と呼ぶので、最後にお礼を言おうとセレナさんへ頭を下げる。


「今日は仕事を紹介してくれて、ありがとうございました。まさかこんな一流魔導士のもとで働けるなんて、感激です!」

「うんうん。頑張るのよ。その熱意がいつまでも続くといいけど……」

「? 最後何か言いましたか?」

「いいえ、なんでもないわ! そ、それじゃ私も仕事あるし、そろそろお暇しようかしら。またねハイド君、ミラも元気でね」


 セレナさんは早口で述べると、とてつもなく不審な小走りで去っていってしまった。




「そりゃあんな純粋な目見せられたら罪悪感だって湧くわよ……」


 街道を歩きながら、セレナはため息交じりに呟く。

 けれども、親友としてミラを放っておけないのもまた事実。彼女を一人にしておいたら、数日の内にぶっ倒れること間違いなしだからだ。それはそれで新聞のネタにはなりそうだが、セレナはそこまで鬼畜ではなかった。


 しかしギルハイドの身が心配だった。あんなナヨナヨとした青年が、あの危険な現場に耐えられるのか。いや、無理に決まっている。

これまでの最長記録は……確か二週間だった。ギルハイドはどれぐらいもつだろう。


 なんにせよ、近いうちにまた別の働き手を連れて行かなければならないだろう。その事を考えると気が滅入る。

 道端に落ちている小石を、セレナは思い切り蹴飛ばすのだった。



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