第七十一話 ハルーシア市の冒険者ギルドに入ってみる
僕達は宿で一泊し、ハルーシア市の冒険者ギルドに向かった。
ある意味でプッチモ王子達は査察に来たとはいえ、今日の予定は貴族のみ参加の歓迎会があるそうだ。
日中はハルーシア市を案内され、夜は飲食を伴う宴……ハルーシア侯爵も余裕だな。
まーーそういうことで僕達は今日の予定はなく暇なので、冒険者ギルドに行ってみる。
……
場所は宿で聞いたので迷わず到着した。
そして僕達が冒険者ギルドに入った瞬間……ギルド内の皆の視線が僕達を捉えた。
王都の冒険者ギルドではもう見られなくなった視線、目付き。
これは絡まれるな!
その予感はすぐに当たった。
僕達の目の前にはすでに三人の男が立っている。
低ランクからようやく脱出する程度の冒険者が三人で僕達を威嚇する。
人相が悪いからそう思うだけかも知れないが……
「よう! お前らはこれから冒険者登録でもするのか? 悪いことは言わねえ、女の子は俺達のような冒険者の仲間になった方がいいんじゃねえか!」
そう言ってサクラの肩に手を回そうとする。
「止めてよ汚い! 私に触れても良いのは私の家族だけよ!」
サクラが怖い顔で話すが、整った顔で怒っているから……可愛いだけだ。
目の前の男達はニヤニヤしてサクラを見ている。
「だったら俺達と家族になろうぜ! 三人で可愛がってやるよ! 男は邪魔だな、どっかに行けよ! それとも……どこかに売ってやろうか」
最後は小声で僕達だけに聞こえるように囁いた。
ふーん、こいつらはもしかして何時もこんなことをしているのか?
冒険者ギルドの職員も何も言って来ないし、ただこっちは見てるな。
ん? 冒険者ギルドの受付がニヤニヤしてないか?
「私に近寄らないで! ねえ、そこの受付さん? 私達は冒険者だけど、これが依頼をするために来た人ならどうするの! 冒険者ギルドに所属している私達冒険者の品位が疑われるわよ! それに、私達が見た目通りの人間で、低ランク冒険者だったらどうするの? 見捨てるの?」
サクラが目を合わせた、ニヤニヤした受付さんの顔が赤くなった。
そして睨みつけるようにサクラを見た。
「あんた達を見たことはないわね。どこの田舎から来たのよ。あーーこんな大都市を見たこともないでしょ。大都市の冒険者ギルドは忙しいのよ! あんた達みたいなのに構ってられないのよ! 自分達で解決したら? あんた達も冒険者なら倒したらいいじゃない! ハハハハハハハーーいいわよ倒しても冒険者ギルドの規定では罰しないわよーー」
何か馬鹿にしたような言い方だが、じゃあ倒しても良いのだろうな……
あそこにサーマンもいるから証人になってもらうか。
「受付のオネーさん、じゃあ戦って倒しても規定違反にはならないんだね? それとーーもし冒険者ギルドの設備を破壊しちゃったら、誰が弁償するの?」
受付さんは鼻で笑ったが答えてくれた。
「ハハハハ……あー怒らせたね。まーーもし倒しても不問だよ。どこかが壊れたら、それは壊した奴が直すんだよ! あんた達が吹っ飛んで壁が壊れたら、あんた達が弁償するんだよ!」
おう良いね!
吹っ飛んばすだけでなくて、金銭的なダメージも与えられる。
「じゃあ言質はとったよ! 僕達がこいつらを倒しても不問。吹っ飛ばされてぶつかって物が壊れたら、ぶつかった人が弁償する。証人はそこにいるSランク冒険者のサーマンで良い? サーマン! 頼んで良い?」
冒険者ギルド内にある酒場で酒を飲んでいたサーマン。
僕達のやり取りを別の意味でニヤニヤして見ていたサーマン……巻き込んじゃうよ!
「あーーやはりバレてたか! 俺は、今日は休養日にしてたんだがな! まーー俺が証人になってやるぞ。良いなそこの冒険者! あと受付のねーちゃん!」
サーマンはやれやれと肩をすぼめてから、冒険者ギルドに響く程大きな声で話した。
流石にSランク冒険者がいたことにも気づいていなかった冒険者ギルド内はざわついた。
更にはその冒険者と普通に話している僕達を、もう一度上から下まで舐めるように見始めた冒険者や冒険者ギルド職員がいた。
それに僕達に絡んだ男達や、あの受付さんはヤバイという表情をした。
「失礼しました……」受付の人がサーマンに話しかけるが、サーマンはその言葉を遮る。
「おい! 冒険者ギルド職員がそこまで言っておいて、撤回は許さねーぞ? おい! ラウール達の前にいる男達! お前らもだぞ!?」
サーマンは威圧も混ぜていた。
「じゃあやるわよ! 私達はここで良いわよ! あなた達もそのつもりだったんでしょ! さあラウール、初めて私達の本気を人前で披露するわよ!」
ちょっとその発言は弱いものが叫んでいるような台詞だが、本気は駄目だろ!
「サク「おい! サクラもラウールも、クロウも駄目だぞ! お前らが本気を……ってあれでも本気じゃあなかったのか! 頼む、この都市が吹っ飛ぶから、手加減してやってくれ!」」
サーマンに言葉を被せられた。
僕がやろうか? と格好よく決めようとしたのに……
サーマンのその言葉を聞いて更に周りの冒険者がざわついた。
そして冒険者ギルドの職員もヤバイと思ったのか、ギルドの奥に走っていく。
んーーここは冒険者ギルドのギルマスでも呼ばれる場面か?
それとももっと違う立場の人が出てくるか?
僕が冒険者ギルドの職員を目で追っていると、余所見をして油断していると考えたのか、絡んできた冒険者が殴りかかってきた。
……
パシッ!




