第六十七話 ここまでがテンプレか!
僕達は順調にハルーシア市に近付き、王都とハルーシア市の中間地点まで移動できていた。
途中で出会う魔物はゴブリンがほとんどで、強くてもオークまでだった。もっと奥まった所に行かない限りは、街道ではこの程度の魔物より出現しないようだ。
……
……
だがここまで順調に進んできたからこそか、遠くから多くの気配が近づいてきた。
「クロウ? これはもしかして……」
「ラウール! その通りだと思うよ!」
僕とクロウが会話しサクラが他の馬車に走る。
……もちろん正面と側面から人間族が多く接近してきていると……
サクラからの伝言が伝わったからか、僕達の集団は一ヶ所で停止し、防御の構えをとる。
徐々に人間族の集団が近づいて来て、馬が地面を蹴る音も近付き、百メートルほど前方で集団は停止した。
側面の集団は音を出さないようにまだ接近してきている。
そんな気配を僕達は捕らえ、何が目的か考えていると、前方の集団から大声で話し出す者がいた。
「おい! 金目の物は全て置いていけ! あとは女がいるなら女も置いていけ!」
そんな盗賊のようなテンプレの台詞が聞こえた。そして更に盗賊のような奴らは「皆が同じ所で武器を買ったのか? 」と聞きたくなるような、同じ特徴があるものを構えている。
……サクラは小声で言った……「名探偵サクラの出番はないわ……」
うん、ハルーシア侯爵かその周囲の奴が差し向けたんだろうな……
ガイブンも絡んでいる集団となると、僕達の怒りは……
「プッチモ王子! 僕達だけでやる!」
そう言うとプッチモ王子は驚いていたが、肯定なのか手をヒラヒラさせた。
よし! 許可が出たなーーギッタンギタンにしてやる!
「クロウは横を頼む!」
「了解ラウール! 我の気合いを受けるが良い! …………混沌と暗黒 秩序と光明 我は対になるものを同一とする 反発するものよ 我の力となりあやつらをこらしめろ! 斥力 引力 分離!」
クロウが良くわからない詠唱後に魔法が発動したようだ……側面から近づいてきていた気配が沈黙した……
どうなったんだ! 気になるな……
だがこちらも!
「サクラ! ソフィア! 風のあれを!」
「わかったわ!」
「わかりました!」
僕達三人はあれで通じる魔法を詠唱した。相手がこれくらいの距離を離れていると、僕達が詠唱している間に攻撃は出来ないだろう。
「「「純粋なる我が魔力 この世界に漂う清浄な魔素群 我らの求めに応じろ 我らは求む打ち勝つ力を 願いを聞き届けるなら……行け風の者よ! 風龍顕在!」」」
ゴゴゴゴゴゴゴーー
ゴゴゴゴゴゴゴーー
魔素が集まるだけで音はないはずが、何か僕達の目の前に集まり、音が出ているように感じるように渦巻きながら魔素が集まる……
集まった魔素は段々と形作られ、この世界でも高位な存在……
その中でも風を操る龍を創造する。
この龍は前世で冗談半分に僕達が魔法を唱え、ヤマトにぶつけた魔法……
風を纏った龍が空間を駆け巡る!
じゃ!
ざっ!
ぶおおおおーーー!
スサ!
「ギャーーー!」
「く、来るな……」
「うわーーー!」
「あ……足……グボォ!」
「りゅ、りゅ、りゅうーーー!?」
僕達が発した魔法が駆け巡る……
あるものは体の中心を……
あるものは四肢を……
首を……
……龍の口に噛み砕かれ……
あるものは細切れに……
リーダーらしき者だけが無傷で残り、他の者は命を散らす……
……いつ見ても、いつやっても気分が悪い光景だ。だが僕達に敵対するなら……死ね……
最近我慢していた感情もあったからか、一人がゴブリン一匹くらいの強さの集団に……リーダー格がオーク程度の戦闘力の人間には過剰な魔法だったな……
フル詠唱の魔法……
盗賊?以外は誰もいないことを確認したが、僕達の前方は……おそらくは王都の面積程の広さが更地と変わった……
ハルーシア領の人は、開拓の手間が省けただろう……
……
……
……
誰もが沈黙だ。
皆が動かない。
誰が時魔法の停止を唱えたんだ! ……ん。
現実から逃避するのは止めよう。
誰か返事を!
僕は寂しくなりサーマンの頭を軽く叩いてみた。
ペシン!
……
……
べち!
……
……
……ゴン!
「……おい……何をしてるんだ……したんだ?…………おい! お前らは何だ! はーーーーあの龍はどこに行った! はーーーーおい! お前ら! いや……ラウールさんと言うか?」
サーマンさんが混乱している……
ここは正気に戻すためにも、もう一度頭に衝撃を!
僕は拳を握り手をあげた!
……
……
「止めてくれないか……死ぬぞ俺は……」
……
……
「ハハハハハーー、冗談だよ! 冗談だよサーマンさん!」
「……物騒な冗談は止めてくれないか……」
僕とサーマンの間には微妙な空気が流れた……
「……さて、冗談は別にして、あそこで座り込んでいる男はどうする? 何か地面に怪しい染みが見えるような……」
「……さーー僕達の出番は終わった! ……あーー、もう魔力が無くなって力が出ない……」
……
……
正気に戻り始めた皆の視線が突き刺さり痛い!
痛い痛い!
……
……
「おう……まーー俺達は護衛の依頼を受けて何もしていないからな……やるが……やるが説明を求めるぞ! お前らのこの馬鹿げた魔法は何だ! ……クロウ? が何故あっちを攻撃した! ……何となく予想はつくが、見たらわかるが、何だよこの状況は! あの時よりもビックリだわ!」
そう言われた僕達は、多少の説明はしないといけないんだろうなと諦めた。




