第六十四話 旅に向けての憂い
さて……移動手段は何とかするとして、あの商人の情報だな。
僕達はここ数日は役割分担しそれぞれで動いている。
クロウにはアルスとデルタを鍛えてもらう。
サクラにはプッチモ王子の依頼をこなしてもらい、ついでにあの難癖をつけてきた商人の情報を得てもらう。
僕は移動手段を考えるということにした。
……
……
始めにサクラだが、上手く情報を集めてくれた。
何でも今回プッチモ王子自らが対応しなければいけない貴族がいたため、護衛を引き連れて移動しなければいけなかったようだ。
それが僕達にとっても重要な行動だった。
僕達に絡んできた商人。
【ガイブン・ジュール】
ジュール商会の会頭。一応間接的には王家に貢献した商会で大商会の会頭。太った中年男性で横柄な対応をする人物。一応準男爵の爵位をハルーシア侯爵から授けられている。
その男に関わっている貴族が今回のプッチモ王子が王都を離れる原因になっている。
【クイデンズ・ハルーシア】
ファンフート王国の東を治めている貴族。ガイブンの後ろ楯になっている侯爵で高位貴族。
王家に良い感情を持っていないようで、何かあるごとに王家に反発している。しかし罰せられないところを上手くつき、ファンフート王国の東側の貴族を懐柔している。
ガイブンのように賄賂を贈ってくる者を重用している貴族。
自分の権力で、気に入った者を準貴族に取り立てたりしてみかえりを受け取っているため、本人達には経済的余裕がある。
今回プッチモ王子が自ら出向くのは…………ハルーシア侯爵がファンフート王家から受け取っている町の整備費用を不正に流用していないか確認するためだ。
王家は諜報からの情報を分析し、私的な財産にしていると判断した。後は領都ハルーシアで実際に帳簿を確認し、私的流用が確定した場合は罰する役割もプッチモ王子が担う。証拠隠滅を防ぐため、プッチモ王子が到着するまでは密偵が普段よりも多く潜り込んでいるようだ。
……
王都より東にいくつかの町を経由するとハルーシア市がある。
ハルーシア領、都市ハルーシア、ハルーシア市、都市でも市でもどちらとも呼ぶが、ここが領都となりそこにクイデンズはいる。
税収だけは良いが、気に入られていない者には重税が課せられている。
商人もあくどく高収入だが、税の納めも良いために見逃されている。
ハルーシア市では、生き方が上手い者だけが上に上がれるような仕組みになっている。
ガイブンもそれが評価されて重用されている。
だからこそジュール商会が大商会となり、幅を利かせている。
そんな一番欲しい情報を簡単につかんできてくれた妻……サクラ……流石僕の妻だよ!
次にクロウだが、アルスとデルタはオークに捕まった時の疲労はなくなったそうだ。後は奴隷時代に衰えた体力、筋力を取り戻しながら戦闘技術を高める必要がある。
そこはクロウの謎魔法で、体力は大分戻っていて、後は筋力を上げながらその上がった能力で体を動かせるように、簡単な依頼を受けながら訓練しているそうだ。
もう少しでゴブリンは一対一で倒せるくらいになりそうだと報告があった。
流石クロウ、僕の家族……予想以上に早く仕上げてくるな!
残りは僕だ。馬車の人が乗る、荷物を載せる部分は作ってもらうから、物を受け取ったら改造だな。
馬車を引く役割は……やはりゴーレム馬か……
僕達の魔力で動くゴーレム。隠蔽すると後がめんどくさそうなので、そのままにしちゃおうかな。
そうすると素材はこの前出したミスリルゴーレムで良いか。どうせなら突っ込みどころ満載にするか。
僕は生き物の世話をするより面倒事になりそうな方を選ぶ。
そうと自分で決めたら後は作成だ。
おそらくゴーレムなら一頭分作成するだけで馬力は十分だろう。
早速ミスリルゴーレム馬を創造し、亜空間収納に収納した。
……
……
その日の夜にマイホームで僕はゴーレム馬車についてサクラとクロウに説明をした。
「ラウール……私は少し不満があるわ! ……どうして引き車の部分もミスリルで作らないのよ! ここまでするなら半端な自重なんていらないわ! 注文してしまったから、普通の引き車を使うけど……」
はっ!
そうだった……何故自分で作らなかったかを忘れてた……
自分達で製作出来るスキルがばれないよう……
はっ!
もうマイホームでプッチモ王子にはばれているんだった……
「はーーサクラ……僕はいくつも失敗したようだよ……。プッチモ王子達には知られているのに、変な自重をしてしまったよ」
「そうね、今さら隠さなくても良いところを、半端に出してしまったわね。まーーあのに憎ったらしいガイブンを牽制出来たらいいんじゃない?」
「どうするか逆に食いついてきたら……。ガイブンなら『その馬車はお前らのような庶民には似合わない、献上するのだ!』なんて……」
「ラウール! 我が感じた感想は……ガイブンに似てないよ……」
「クロウ……そこじゃないよ。でもミスリルゴーレム馬がハルーシア侯爵に目をつけられるのは面白いんじゃない? プッチモ王子が更なる不正を見つける助けにもなるかもよ!」
もしもの事を考えて僕達は、プッチモ王子にはミスリルゴーレム馬についてはあらかじめ教えておくことにした。




