第六十話 妖精さんは珍しい
ソフィアと再会し僕達は今日町の中にいた。
プッチモ王子の依頼は休みをもらい、冒険者ギルドで馬車の購入について確認することにした。
僕達は町の中を歩いているが、僕の肩にはクロウが乗り、サクラの頭にはソフィアが座っていて注目を浴びている。
僕達はただ歩いているだけなのだが、前の方向から進んできた馬車が僕達の少し後ろで止まった。
そこから急いで年配の男が降り、僕達に向かって走ってきた。
その男のお腹はポヨンポヨンと揺れている……
「そこの女の子! その頭に乗っているのは何だ! 私に見せてみるのだ!」
うん、めんどくさいやつだ!
「はーー? もしかして私に言ってるの? あなた誰よ!」
そう返された男は不快だというような表情をした。
「私はガイブン・ジュール。ジュール商会の会頭だ! 王家に貢献した商会で大商会と言える規模の商会の会頭だぞ! 知らないのか!」
そう言った男の後ろへ急いで二人駆けつけた。その二人は武装していて、護衛のようだ。
「ふーん、で?」
「だから見せろと言ってるだろ! その小さいのは古い文献に載っている妖精ではないのか? 私は今まで見たことがない……だから私に譲るのだ!」
急に譲れと……なるほど、冒険者や貴族には大分姿を覚えられたと思ったけど……。情報が命の商人にはまだ覚えられていないか。
「嫌よ。とっととどこかに行って」
サクラが不機嫌になってきた。
だがその態度が気にくわないのか、ガイブンは護衛に目で合図をした。
すると護衛が威圧なのか何か圧を発して武器に手をかけた。
「ふーーん、私達に攻撃の意思を示すのね。これでも私達は冒険者よ。王都ではない冒険者ギルドでだけど、攻撃の意思を示された相手に殺気を向けたら、対応が誤ったようだと言われた事があるのよ。だけどあなた達は私達に敵意を向けた……」
目の前のガイブンは余裕そうな顔をしている。
その横の護衛も態度は変わらず威圧してきている。
「はんっ! 私達は何もしていないな。お前達が勝手にそう思っているんだろ? 私はただ見せろと言っているんだ。準男爵である私がな!」
爵位まで出して来たよ……準男爵は、僕たちより一つ上の爵位かな。だけど準貴族の爵位はどこまで権力があるんだろう?
「ふーん、私達より一つ上の爵位ね。ふーーん、私達は獅子戦大賞も王家から受けているんだけど?」
サクラの言葉を聞いた護衛の威圧がなくなった。何か顔色も悪くなってきている。
だがそんな顔色をガイブンは見ていないのか、勢いは変わらない。
「ふんっ! そんな冗談は言わない方がいいぞ! 貴族を騙るのも貰った勲章を偽るのも罪だぞ! そんな罪人に妖精など不要だろ! 私に献上するのだ庶民よ! 私にはもっと高位な方が後ろについているんだぞ!」
はーー何もかもダメダメだね。
だけどおとしどころは何だろう?
ただで許すことももうサクラは出来ないだろうし、僕も嫌だな。
そこへ遠くから近付いて来ていた気配があったが、僕達に更に近よってくる。
ガシャガシャと金属鎧の音を響かせ走ってきた。
「はあ……はあ……サクラ先生……どうしたのですか?」
そう息を切らして話しかけてきたのは騎士見習いで、僕達から戦いを学んでいる者だった。
「ああ丁度良いところに来たわね。ちょっとめんどくさいんだけど、私の頭に乗っているこの子を脅し取ろうとしているのよ。これは王都では罪にならないの?」
ガイブンは目の前に現れた騎士にちょっと怯んだ様子もあるが、話は続けられた。
「おい騎士! お前も私……ガイブンは知っているだろ? 私に献上するように言っているだけだ。なにも脅してはいない。貴族の権力が及ぶ範囲の行動だろ?」
……貴族にそんな権力が?
だったら力ずくでこの場を片付けて、ファンフート王国から出て行っても良いんだが?
「ラウール? 考えている事が同じような気がするけど……もう我慢しなくても良い? ちょっと限界が……」
「僕ももう駄目かな……」
「我も……」
そんな会話をし始めると、騎士見習いには聞こえていたようで顔色が青くなった。
そして何を思ったのか、笛?を吹いた。
その笛からは「ピィーー!!」と大きな音が鳴り、辺りに響き渡った。
「ちょっとだけ待ってください! 先生達の悪いようにはしませんから! 私は平民の騎士ですが、今の合図で辺りにいる騎士が飛んできます! その中には男爵以上の方もおりますから!」
ああそのための合図か……
だけど爵位が高い人が来て解決しても、また同じことが起きないか?
ガイブン達も少しだけ怯んだ様子はあるが、余裕そうな態度は崩さない。よっぽど後ろ楯の者は強いのか?
「はん! このガイブンが少しだけ待ってやろう。だが結果は変わらないからな。俺があれを貰うことは決まったことだ!」
やけに自信満々だな。
さっき馬車から降りてどこかに走っていった奴が、何処かの偉い奴でも連れて来るのか?
「ねえ生徒の騎士見習いさん……いえ騎士さん……これ以上もめるなら、私達は自分を抑えられないかもよ? この子は私の、私達の大切な仲間……。仲間……家族同然の子に被害があったら、許さないわ!!」
一瞬だけサクラから威圧が発せられた。
その一瞬で周囲の野次馬とガイブン達、騎士見習いは腰を抜かしてしまった……




