第五十一話 奴隷(仮)達の処遇
僕達は簡単な夕食を済ませ、先に奴隷(仮)達の名前を決めることにした。
何でも奴隷となった時に、元々の名前は捨てたらしい。どんな決意だったのかはわからないが、絶対に元の名はもう名乗らないそうだ。
……僕達にクロウ以来の名付けイベントが訪れた……実子もいないのに……
ここはクロウに任せてみるかとクロウに話題を振ってみたが、『虎子』『虎夫』と答えた……
……うん、僕達で考えよう。
マイホームの改造をしたい気持ちを抑えながら考えた。
カンガエテカンガエテ……
決めた!
「命名『アルス』『デルタ』」
……
「良いんじゃない! 私は賛成だけどクロウは?」
「我も賛成だけど……ラウール、命名されちゃってるよ! 鑑定してみたら!」
何と……命名……宣言してしまったから……
責任を感じて鑑定で名前だけを見るようにしてみると……うん、名付けをしてしまったな。奴隷という状況もあったろうけど、男の虎の獣人がアルスで女の虎の獣人がデルタだな。
改めて二人を見るが、どちらも百八十センチくらいの身長があり、見上げるほどの大きさだ。
この二人に囲まれていると、僕達が護衛されているみたいになるな。
「ごめんね二人とも……アルスとデルタに決まっちゃった……。しばらくは僕達が面倒をみるから許して! それと、奴隷のうちは僕達の秘密を他の人達には話せないけど、解放した後も内緒にしてほしいな」
……
「俺達は……獣人は恩を仇で返すことなどない。必ずや約束は守る。……今の主は正式に俺達の主になったように感じるのだが……」
「私もそう感じる……。名前を告げられたら、制約された気がする……」
「我もそう思うよ! ラウールはわざわざ奴隷商に行かなくても、正式に奴隷契約が完了しているよ!」
そうか……僕もそんな気がしたんだよね。
まっこれはもう時間がかからなかったと良しとする。
じゃあこれでマイホームの改造に取りかかれるな!
「じゃあサクラ! マイホーム改造計画を進めようか!」
「そうね! ちょっと計画を変更しないといけないだろうけど、明日一日で完成させるわよ! クロウもやるわよ!」
「我も頑張るから、どこをどうするか教えてね!」
僕達がそんな感じで盛り上がり始めようとしたとき、アルスとデルタは控えめに質問してきた。
「主様達は建築が出来るのですか? 俺達もお手伝い出来るのなら、何なりとおっしゃってください」
「私も細かい事は苦手ですが、多少の力仕事であれば出来ると思います……。もう少し回復したのなら、お役に立てたと思いますが……」
「特に僕達に手伝いはいらないよ。魔法でぱっぱとやっちゃうから。完成させた姿を明確に想像するのが大変なだけだし。……ちょっと気になるのはアルスとデルタの口調かな?」
……
「申し訳御座いません……奴隷の分際で……」
「いやっ、逆なんだよ! もっと奴隷になる前のようにして良いよ! あなた達の普段の姿は分からないけど、もっと楽にしてよ。命令するつもりもないし、そのうち奴隷からは解放する……って解放してしまえるんじゃない!?」
「そうよね、しばらく面倒をみたらいいんでしょ! あなた達、奴隷でなくても面倒をみるから、解放されなさい!」
……
やっぱり急な路線変更に迷っているか?
だけど生きていけるなら奴隷でなくても良いよね。
……
「奴隷のみでなくとも俺達の面倒を見てくれるのか?」
「私達には良い条件過ぎるわよ?」
「ラウールとサクラはこの状況で嘘はつかないよ! こんな感じで何となく縁があった人を見捨てることが出来ないんだよ!」
恥ずかしいじゃないかクロウ。
……
「……本当に良いのか……」
「良いって! じゃあ早速『解放!』……これで良いと思うけど……」
僕が解放と魔力を放出すると、『パキッ』と隷属の首輪から何かが壊れる音がした。
アルスとデルタにも感じる事があったようで、隷属の首輪を外そうとした……
……外れた……
「うん、簡単だったね。これであなた達は自由だ。しばらくは面倒をみるけど、生きていく術を身につけたら自由にしてね」
……しばらくアルスとデルタは泣いていた。一年程の奴隷生活がどれほどきついものだったんかは分からない。しかし今解放された。
……
泣き疲れたからか疲労からか、アルスとデルタは眠ってしまった。
寝具も何もない家なので、素材となった獣の毛皮だけを掛けてあげた。
……
「さあサクラ考えよう! 何か変な状況になったし、思い付きでこんな状況だけど……」
「そこがラウールの良いところだから気にしないわよ! 困っている人がいたら助けてあげて。だけどこの二人の住む所も考えてあげないとね」
「そうだね……この敷地に住む所を準備しようか。稀に獣人の冒険者はいるけど、目立って宿とかで絡まれても可哀想だしね。リハビリが終わったら自分達でどうにでも出来るだろうけど」
「じゃあラウール、クロウ……明日創造する家のイメージを固めるわよ!」
「我は魔道具も考えるよ! シチランジンにいたときに便利だった物とか!」
「そうだね、魔の森の拠点は快適だったものね。シチランジンも発展してきていたから、死ぬ前頃には地球にいた頃の生活に近かったしね」
ラウール達は理想の家について夜遅くまで話し合った……




