第四十六話 プッチモ王子と模擬戦
手始めに僕は魔法で水の玉を五個程宙に浮かべ、長い棒を構える。
その水の玉を一つプッチモ王子に飛ばし、素早く接近し長い棒で上段から振り下ろす。
「うおっ! ちょちょちょーー」
プッチモ王子のそんな声は気にしないことにして、長い棒での攻撃は防げる程度の強さで行う。
更にプッチモ王子が意識していない方向から、水の玉をゆっくり発射する。
「冷た! 痛くないけど冷たい!」
衝撃はそこまでは無いはずなので、続けて残りの水の玉も当てていく。当然接近戦をしながらだ。
「ちょっとーーちょーー」
新たに水の玉を追加し、もう少し痛いだろう土の玉も僕の周りに浮かべる。
攻める
攻める
攻める
当てる
当てる
当てる
「ちょーーと、これは模擬戦だろうけど、二人を相手に戦ってる感じだ! こんな攻撃はやられて嫌だが、俺にも出来るのか?」
プッチモ王子は一旦僕から距離をとる。
びしょ濡れになり、所々に土がつき汚いプッチモ王子は肩で息をしている。
「ちょっと攻撃を休むね。……こんな攻撃って言うけど、これくらいは出来ないの? 特にもっとランクが高い冒険者なんかはやりそうに思うけど?」
「……何と比べてるんだ……。流石に進化した人間やエルフ辺りはどうだかわからないが、普通は攻撃魔法を展開しながらの接近戦は無理だぞ! って言うか詠唱はどうした!」
「今さら詠唱のことですか……。詠唱はどこかに飛んでいきました……僕達に詠唱は不要です!」
「何だよどこかに飛んでいったって! それは俺達も詠唱をしなくても魔法が使えるって事か?」
んーーこの世界の魔法にはあまり触れてないけど、出来るか出来ないかで言うと出来ると思うけど……
精霊が現象を起こしているのではなくて、魔法を使いたい人が詠唱で魔力に方向性を持たせて、自然の魔素に干渉して発動してるから……
結局は強いイメージを持たせることか?
後は魔力を上手く練り上げたら……魔力の無駄遣いはないかな?
「出来ると思うよ……。ちょっとこれはまだ教えたことがないから自信はないけど……。実験台第一号になる?」
「実験台か……だが俺も忙しい時もあるからな……」
「他の人でもいいよ。王宮に見習い魔法使いもいるんじゃない? その人を僕達との訓練日に連れてきてくれたら、僕達の中の誰かが教えるから」
「……そうだな、それが良いかな。じゃあ詠唱なしの魔法は次の機会にだ! 続きをやろうか?」
と模擬戦が続行された。
……
……
しばらくすると、全身泥まみれの人間が出来上がった。
パッと見てもファンフート王国の王子と一発で気づく人はいないだろう。
プッチモ王子は流石に「俺は今日はここまでにする……」と言って、護衛と共に演習場からおそらく王宮に帰っていった。
残った騎士見習いについては任せると言われている……
続ける……
続けない……
「「「訓練をお願いします!」」」
半数程度の騎士見習いが僕達の目の前に立ち頭を下げる。
残りの半数はやる気がない様子で、遠巻きに眺めている。
やる気がある人だけはもう少し続けようかな? 一応サクラとクロウにも相談したが、サクラは「やる気があるならまだ良いわよ」と言いクロウも「どっちでも」と答えたので、続行することにした。
「それではやる気がある人達とは訓練を続けます。やる気のない人は帰ってください。これは本当に帰っても良いと言っているので、僕達の前に立った人の中にも帰りたい人がいると思うので、皆で一度話し合ってください」
僕が騎士見習いにそう言うと、皆で集まり話し始めた。
遠くから話し合いを聞いていると、強くなりたくて来た人と、先輩に言われて来た人。流れで来ることになった人の三パターンに分けられそうだ。
最後に残ったのは強くなりたくて来た人で、二十人だった。思ったよりは多かったのか?
帰った騎士見習いはこんなことをしているより、他のことをした方が、出世につながると考えたようだ。
僕はそこには口を挟む気もなく、「帰った人の評価も下げないでくださいね」とだけ付き添った騎士に伝えた。
残った騎士見習いには男女共にリーダーが残っていた。
やる気がある人達だけになり、僕達の訓練が再開となった。
今度は役割分担をして、僕とサクラが接近戦、クロウは魔法の使い方を教えることにした。
ほとんどの人が接近戦を望んだため、騎士見習いには全員で向かってきてもらうことにした。
数少ないクロウから教えてもらう人は、丁寧に魔法とは……と座学から始まっているようだ。これはもしかすると王子もクロウに任せた方が良いのかもしれないな……
途中で食事をしながらも、夕方までの訓練を騎士見習いはやりきった。
次はいつ訓練してくれるか聞かれたが、これは王子や騎士団に聞かないとわからないので、上司に相談してみてと答えておいた。
一日だけだが、能力や技術が大幅に上昇している者もいて、僕達も嬉しくなる結果だった。
皆と別れて宿に泊まり、もう二日の訓練が終わった時に、報酬の家が決まったから一緒に契約に行くか聞かれた。
何でもプッチモ王子自ら案内してくれるようだ。
手続きは終わっており、最後は僕達のサイン一つで入居できるらしい。
サクラとクロウとのマイホーム。
僕は楽しみで、プッチモ王子に珍しく素直にお礼を言ってしまった。