第三十六話 戦勝式典の前に……
魔物に襲われて恐怖を味わった都民のため、国王が戦勝式典を執り行う。
褒章伝達式までは王都でお祭り騒ぎが出来るように予算を分配した。
十四日と短い期間で今の王都の賑やかさを感じさせるなど、王家や貴族も大忙しだったと想像する。
ラウール達は今日まで冒険者活動は休んでいた。事前の連絡で国王の前に出ることが出来る衣装を作っていた。
また、冒険者ギルドからは今ラウール達が姿を現すと騒ぎが起きると、依頼を受けようとすると止められていた。
今日この日までに怪我をするわけもないのだが、不測の事態が起こり、不参加になることを防ぐためだと説明を受けていた。
そして今ラウールとサクラ、クロウまでもが王城の門前に到着した。
「今日まで暇だったねサクラ……。外に出ることを止められるとは思っていなかったよ……」
「私もよ……お陰でラウールとゆっくり過ごせたから、それは良かったんだけどね!」
サクラの顔は赤くなっている。
「我は飛び回っていたから面白かったよ! 気が利くでしょ我は!」
そう、クロウは僕達を二人っきりにするために、定期的に散歩に出かけていた。
何を討伐し、何を採取してきたかは聞かない……。クロウの稼ぎだけで暮らせると思わないようにしないと……
僕達が王城の門前でそんな会話をしていると、門兵か……騎士らしき人物が声をかけてきた。
「黒猫の皆さんですね? 間違いはないと思いますが、身分証明をお願いしたいのですが……」
そう言われ、僕達は冒険者プレートを騎士に提示した。
「はい、確認がとれました。それではご案内致します」
僕達はその騎士の後を歩き、王城に入る。
王城内には様々な人がいた。
メイドや執事の格好をしている人。
貴族風な人。
騎士らしき鎧を装備している人。
その人達から様々な視線も浴びた。
その視線を無視して進み、一室で褒章伝達式の開始を待っていると、一人の身なりの良い男が部屋に入ってきた。
「ようやくです……初めまして、クロスロード・フィニアス子爵です。本来は他国からの侵略ではなく、魔物からの侵攻を防ぐ役割を国王様より拝命されています」
ここであなたかーー。
「初めまして、冒険者のラウールです。隣は妻でパーティーメンバーのサクラ……。肩に留まっているのは従魔のクロウ……家族です。お見知りおきを……」
「はい、お聞きしております。そんなラウールさん達パーティーに、事前に説明をしますが……。今回の式では、勲章が国王様から授けられます。……更に、異例なことかも知れませんが…………爵位を授かることになります……」
は……爵位……要らないんだが……
「今回は通常の魔物が大量発生しただけでなく、ロード種が出現し……そのほとんどを信じ辛い事ですが……黒猫が討伐していますから。そこで、騎士爵を授けられます」
おーう、僕達が準貴族……平民とほとんど変わらないが爵位か?
「これから辞退は出来ません。……ただ……義務が少ないだけあって、権利も少ない爵位となっています」
「そのこころは?」
「こころ……? 何を言いたいのかは知りませんが、給金はありません。しかし……戦争などで召集される事もありません。他国に赴くのも自由です。ただし、王国の名誉を傷つけた場合は、罰せられますね……それだけはご注意ください。そんな爵位が今回の褒章伝達式で授けられます」
んーーーやや微妙?
今世は爵位はもらっておいて良いが……微妙……
ただ、ここからの拒否権がないのであれば、まーーこれくらいで良いのか?
一番初めの国で爵位かーー
んん、先ずは世界の情勢を知らないとな。
もし非情な国家であれば、爵位も不要だし……
そう感じたラウールはクロスロードに率直に聞いてみた。
するとクロスロードの返答は……
ファンフート王国は自分で言うのも何だが、良い良い国だと言う。
平民に悪さをする貴族もまだ少ない方で、国王も貴族が権力を振りかざすことは好まない。
今回一回の魔物からの王都防衛戦で騎士爵を授けることからわかるように、実力主義な国だそうだ。
クロスロード子爵も、侯爵の父の意向はあるだろうが、異例の人事で今の立場にいるそうだ。
今回僕達が授かる勲章は、獅子戦大賞……。ファンフート国王では魔物相手に尽力した人物に贈る勲章は獅子のデザインらしい。
簡単だが、大中小の名のつく勲章で、大が一番上だと言うことだ。
大が付く勲章は、ほとんどが貴族が授けられる賞で、更に言うと一階級爵位が上がるほどの栄誉あるらしい。
「んーー準貴族の立場……最下級の貴族、平民より少し上だろうけど、僕達が受け取っても良いのかな?」
「私は受けとるべきだと思いますが……。あの戦果で何も授けられないことが問題になると思いますが……」
んーーラウール騎士爵……サクラ騎士爵……
クロウ騎士爵……はないだろうけど似合うかな?
「ここまで来たら拒否は出来ませんよ! だからこそ直前までお知らせしませんでしたから……、と言うか、断る人物は今までいませんでしたしね。さあ始まりますよ! 都民に顔を見せて下さいとは言われませんから、貴族に顔を見せて下さいと……。その幼く綺麗な容姿で度肝を抜いて下さい……、何か困ったときにはフムフィニアス侯爵にも相談しますから……」
そうクロスロード子爵に笑いかけられ、式典が開始となった。




