第三十四話 対オークロード
逃走状態に入った魔物達。
オークロードも逃走しようとしたが、クロウの登場で動きが止まった。
「ラウールが『後で面倒な事はしたくない』って言うだろうから、我が倒しておくよ! オークロード? ごめんね!」
クロウの表情からは何も読みとれない。
……オークロードは思考が追い付いていない。
目の前の黒い鳥が何かを言っている。
普段であれば蹂躙するような見た目……
だが感じる気配は……
「シンチョウカ……ナゼコンナトコロニオマエミタイナヤツガイルンダ……」
「んーー慎重じゃないよ! 我はそんなに用意周到じゃないよ! クロウだよ! ラウールとサクラの子だよ」
「ナニヲイッテイルンダ……コダト……」
「今はそんな話をしている時ではないよ! じゃあね!」
クロウが「じゃあね!」と言うと同時に、オークロードの頭と胴体が離れ、もう言葉も話せない状態になっていた。
「……お……何を……ど……は……」
Sランク冒険者やそのパーティー、周囲にいた冒険者や騎士の全ての者が混乱した。
そんな時に残った魔物は逃げ出しているが、意識がそちらに向いていない……
ドゴーーーン!!
意識が向いてい方向から、轟音が響いた。
「クロウ……私の出番が雑魚相手だけよ……。何……ラウールもクロウもロードを倒しているのよ! 面倒と相手にしないのは違うのよ! 私だって今の自分の力は気になるんだから!」
サクラは魔法を使っていた。
魔物が四方八方に逃げるから、広範囲を殲滅出来るように巨大な岩を幾つか落としていた。
「だって我は戦線を維持する役割! サクラは雑魚を殲滅する役割でしょ! 我は役割を全うしたよ!」
「それはそうだけど……少しは私にも……」
そんな言い争いをしている所に僕が到着してしまった……
「まあまあ、それくらいにしておこうよ……。たぶん、九割は僕達が倒してしまってるから……、逃げる?」
そこにプッチモ王子が来てしまった……
「君達は……何者? ロード種があんなに雑魚みたいに……。それになにあの魔法? 見たことがないぞ? 何処から来たんだ君達は……王都に君達みたいな……」
ああ……やはり気づかれてしまったかな。
でもまだいける!
「僕達は田舎で頑張っていましたからね……」
「何処の田舎! そこまでの実力がつく田舎なんて聞いたことはないぞ! …………ファンフート王国が落ち着いたら、褒章式があると思う……。そこには絶対に来るんだぞ! 俺にも説明してもらうからな!」
そうプッチモ王子は言い、軍勢をまとめていた。
「お前ら……いや子供? んーー君達? ……お前らだな……。お前らは本当に見た目通りか?」
Sランク冒険者も声をかけてきた。
「見た目通りかと言われても、そのままですよ。僕達は十二歳のDランク冒険者……副ギルに言われてここにいますよ」
何か納得がいかない表情をしているが、Sランク冒険者もそれだけで退いた。
「俺はサーマン。Sランク冒険者だ! おそらくお互い褒章式には喚ばれるだろう…………またな……」
格好いい台詞を残しサーマンはパーティーメンバーと王都方向へ移動していく。
残された僕達は、騎士団が撤収作業をしているのを横目に、王都に移動を開始した。
道中で今日の反省会を開いたが……
「クロウはやり過ぎよ~。私の出番は雑魚狩りだけだったじゃない! もっとラウールに良いところを見せたかったのに!」
「我に言わないで! サクラも十分にやり過ぎ! 結局サクラが一番魔物を倒してたよ!」
「そうだね……それだと僕が一番地味だよ……。ゴブリンロードを倒すくらいしか活躍していないしね。サクラはある程度魔法の威力が確認できたでしょ?」
「そうねーー思ってたよりも威力が高いかな? もう少し威力が抑えられると思ったんだけど、あれくらいの威力になっちゃったし……」
「我も感じた! 我が夜の散歩をしている時に、強そうな魔物を倒してみたけどーー一撃だったよ! だから今日は加減ができたよ!」
「ん~じゃあ今後は、他の人がいる時はもっと手加減が必要かな? あ~褒章式がめんどくさい!」
「どうするラウール、さぼる? 私もどっちでも良いけど……」
「一応参加はしようと思ってるんだけどね。国の事も知りたいし、自重をそんなにしない場合は、今後も同じようなことがあるだろうし……。今世はもっとテンプレにのっても良いかと思ってるからね。」
「そうね……私達の出会いの大切な言葉の『テンプレ』……」
サクラはそんな言葉で顔を赤くした。
出会いの場面を想像しているのか、夫婦になったことを実感しているのか。
王都に到着するまでのサクラも可愛かった。
しばらく歩き王都に到着したが、まだ慌ただしさが残っているが、無事に魔物の集団は討伐されたと報告は来ているようだ。
あちらこちらで喜びの声も聞こえる。
そんな声を聞きながら僕達は何時もの宿に入った。この宿は魔物が出現したと聞いてからも、冒険者のために営業を続けていた。
僕達はただいまと戻りついでに「魔物討伐は終了しましたよ」と声をかけた。
まだ聞いていなかったのか、宿の主人は喜びの声を上げた。
うん、こういった姿が見られるのは嬉しいね!
今世も今な些細な幸せかもしれないが、優しい人達の笑顔を見ていきたい。
ここまでの出来事で、今世がようやく始まったと感じたラウールだった。