第二十六話 パーティー名【黒猫】
僕達は調査を一日しただけで、依頼が達成扱いとなった。
騎士達が分担した範囲を調査する事で、条件を達する依頼だった。だからビルルさん達が上手く報告をしてくれたのだろう。
その後も副ギルは忙しいのか会えずにいた。
僕達は今は依頼も、通常のEランクのものを受けていた。オークに関しては、騎士とCランク冒険者が大勢で狩りに出ている。
依頼を受けた人が少人数であれば、僕達も参加できたのだろう。だが大勢が参加している依頼だと、特別扱いも出来ないようだ。
だから僕達は町中依頼を中心に受けている。
ある時はサクラと一緒に荷物配達をする。
別の日には家の建築を手伝ったり、穴堀りや農作業中の人を守ること等をしていた。
何事もサクラと一緒だったから楽しかった。
そうやって日にちが過ぎたある日に、冒険者ギルドで受付さんから声がかかった。
僕達が話しかけるのではなく、あちらから声がかかるのは珍しい。
声を震わせた受付さんは、僕達の冒険者プレートを一応確認し、貴族の紋章であろう封蝋がされている手紙を差し出した。
僕達が手紙を読むと、クロスロード・フィニアス子爵からだった。
内容としては、最近忙しさがましてしまって、なかなか面会の時間が割けないという内容だ。
もう少し面会まで時間がかかるので、王都に滞在していてほしいとの事だ。
更に、クレイダの町の冒険者ギルドのギルドマスターと、王都の副ギルからは事情を聞いている。だからクレイダの町に居る領主は牽制しておくと書いている。
僕達にとっては都合の良い話だが……。
わざわざEランクの冒険者に、ここまでの対応をするのはどうなのだろう?
確かにフィニアス子爵の子を助けたけど……。
ま~考えるのはあまり得意じゃあないから、気まぐれに待つか。
だからサクラとまた依頼を受け続けた。
王都の外で薬草を採取しながらゴブリンを狩る。
オークが出現したら内緒で狩る。
内緒にしないでオークを狩っていて、騎士や他の冒険者に目をつけられるのもめんどくさい。
代わり映えのしない依頼をいくつも達成した。
そしてある時、冒険者ギルドにいつも通り達成報告をしていると、受付さんがいつもとは違うことを話し出した。
「そろそろランクアップ試験を受けることが出来ますが…………。その……パーティー……名も決めて頂けたら……」
あ~、Dランクに上がるためには試験があるのか~。
そしてパーティー名……。
登録していなかったな。
「ランクアップ試験の日にちと内容は? あと、パーティー名は何でもいいの?」
「はい……。パーティー名は……どんな名前でも、……いえ、王家に関連する……連想する名は、登録できません……」
フムフム。
「Dランクへのランクアップ試験は、……何時でもお受け……出来ます……。お二人は既に……魔物を、んんっ! 魔物を既に冒険者ギルドに納めています。しかし、実際に戦う場面を試験官に見せる必要があります。ギルド職員と戦って頂き、ゴブリンを倒せる程度は戦闘能力があることを確認します」
おう、流暢に話せるようになったな。
「お二人の実力はわかっていますが、規則ですので……。それで、いかがでしょうか?」
ん~、もう少しランクアップした方が絡まれないのかな。いや、今でももう絡まれていないな……ん~。
それに、パーティー名はあれだろうな……。
「サクラ? パーティー名はあれでいいかな? それと、試験も受けようか?」
「そうね! パーティー名は当然あれね! 試験はどっちでも良いわよ! ラウールがランクアップするなら、あわせるわ!」
「我も見てるよ! パーティー名を決めるなら、我も登録して!」
そうだね、クロウも登録しないとね……。
「では、ランクアップ試験を今日お願いします。それと、パーティー名は【黒猫】で! 更に……、僕の肩にいるクロウの……冒険者登録をお願いします!」
・・・・
・・・・
その場を沈黙が支配した…………。
・・・・
・・・・
「無理! 魔物であれば、従魔トウロクデス!」
駄目か!
勢いで押せるかと思ったんだけどな!
「はい……従魔登録をお願いします」
そう言うと受付さんは登録用の装置だろう物を出した。そこに僕とサクラの冒険者プレートを差し込む。更にクロウの血を一滴垂らす。
また特にエフェクトもなく、手続きは終わった。
何でも従魔のステータスを見ることが出来るようで、僕達は誰にも見られないように確認した。
そこには何と、…………ほぼ僕達と同じ内容があった。違うところと言うと、……今は語らない。
「それではもう一度冒険者プレートをお借りして、パーティー名を登録します」
受付さんはテキパキと手続きをした。
「はい、これでラウールさんとサクラさんは、パーティー名【黒猫】で登録されました。従魔のクロウさんは【黒猫】の従魔になります。クロウさんが仕出かした事の責任は、【黒猫】の責任となりますので、ご注意ください。」
「我は大丈夫だよ! 迷惑はかけないよ!」
・・・・
・・・・
まだ鳥型の魔物が話すことに、冒険者ギルドにいる人達は慣れていない。
「……それでは宜しければ、ランクアップ試験を始めたいと思います。準備する時間は必要ですか?」
「いえ、このままで大丈夫。それに、戦うのは一人ずつだよね?」
「はい。個人の力量を測りますので。従魔も戦闘には参加出来ません」
「良いわよ! 私もラウールもクロウの力を借りなくても強いわよ! 何ならハンデでもあげようか?」
何のスイッチが入ったんだ?
サクラが強気だ。
「いえ、力を示して頂けたらどんな方法でも良いので、気は使わないでください。ただし相手を殺してしまうと、ランクアップどころではなく、法で裁かれますよ」
僕達は受付さんの説明に同意した。
サクラがちょっと暴走しそうで怖いけど、試験会場となる訓練場に向かった。
そのやり取りを見ていたが冒険者達……
誰でも観戦出来るらしく、冒険者ギルドの中の人が大勢移動を開始した。