第百六十三話 聖女とサクラとダイヤと
――やはりラウールはサクラに激甘だった……
サクラがダイヤを鍛えると宣言し、ソフィアが聖女を鍛えてサクラが言った。ラウールはそれを微笑ましい光景を見るような視線を向けていた。
そして「だったら僕とクロウはこの辺の魔物を間引いてるよ!」とラカント村の安全を守る行動に出た。更にヤマトが「だったら俺はこの村の防御だな! ヤバイ防壁を築いておくぜ!」と叫んだ。
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あの宣言から少しして俺の驚きは更に続いた……
先ずはダイヤだが、俺と二人でラウールたちから鍛えてもらった時よりも、サクラから鍛えられている今が光っていた……
「ダイヤ! 考えるな! 感じるのよ!」
「はいサクラ師匠! ――――ハイオクマンタンバリキバリバリ!」
「まだまだよ!」
「――く~ぅ、――サンバルカンカンカンカンデリ!」
「何よそれ! 駄目よ! あなたの魂の叫びを!」
「――――サンクチュアリ!」
聖女も負けてはいなかった。
聖女エクレアはソフィアに鍛えられていた。
「数百を越える光の精霊と楽しみましょう」
「――ねえねえ、精霊さん、私と聖典を読みましょうよ!」
「……聖典の何がたのしいんですかね……。楽しむのです」
「――今日は経典のお話を……」
「経典って……あなたが楽しむのではなくて、精霊を楽しませるのですよ」
「――何が楽しいんですか! 私にはわかりません!」
エクレアにはもっと平民の楽しみが必要なのか? ん~、俺もわからないが……
「ダイヤ! あなたがいたと言った世界の常識は――――この世界の非常識よ! はいっ! 何を思った!」
「く~ぅーー、――――トレビアン!」
「ここでトレビアンはなんでよ!」
「――精霊さん、私と遊びましょう。私はご本を読みたいな~」
「――本……何の物語を伝えるのですか?」
「創成神様のお話を……」
「却下ですね……」
……聖女の修行が進まない……。だけど聖女が回復して数日たっているから、ヤマトが頑張っている。
ラカント村の防壁が立派になった。
村規模だった防壁の範囲が変わって、直径で数キロの防壁が作られる。
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俺はここ数週間の村の活動を観察していた。ただ観察していたのは、誰も俺に何も教えてくれなかったからだ。
ラウールたちのパーティーはそれぞれ動いているし、ラカントは村長らしく何かをしているから、俺はなにも出来なかった。
だけど何も出来ないなら自主練だと動いていたが、ダイヤとエクレアの動きが気になって何にも集中出来なかった。
そんな時に限って何かが起きる。
――ゴーレムがまた村に押し寄せてきた。
そのゴーレムはラカント村の、ヤマトが作ったラカント村の防壁の外から攻撃を加えてきた。
油断していた訳ではないが、不意をつかれた。
……
「さあ! ダイヤの出番よ! ――ゴーレムくらいには完勝しなさい!」
「エクレア――――あなたが――あなたの精霊に願う力を見せてくださいね」
……こんな時でもラウールの仲間は自分たちが思うように動く。頼もしいがもっと焦りか必死さが欲しい……
「――チャララ~!――――そこ! ハイビーム!」
「光の精霊たちよ! ――――豪放、光、収束、単!」
――ん~、何か俺がわからない言葉が……
チュドーーーーン!
……
……
緊張感がない言葉でゴーレムのいた場所に大穴が……
「……ゴレムン……様……」
バラバラになったゴーレムがゴレムンの名を……
「死ね! ――――んーーーーーーーーダイヤモンドクラッシュ!!」
――
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ダイヤがダイヤモンドクラッシュと叫ぶと、ゴーレムの体がバラバラになった。
「ダイヤ! それよ! ――それが感じた力よ!」
……
……
俺は何か締まらない気持ちだったが、ゴーレムの二度目の襲撃を防ぐことが出来た。
今回のゴーレムの襲撃では、いくらか村人にもかすり傷を負った人もいたが、エクレアの回復魔法ですぐに癒えていた。
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そしてまだまだ修行が続いていた。
何かサクラとソフィアも生き生きとしている。
「――あなたの世界の――あなたが知っているイメージをここに現すのよ!」
「――はいサクラ師匠! ここは俺の世界のテンプレの――――――って、サクラ師匠? 何で私の世界の……私が他の世界から来たことを知っているのですか?」
「――勘ね……。私たちが何年この世界で生きていると思ってるのよ。あなたは転生者……いえ、転移者でしょ? あなたのその言葉は……懐かしいわ」
「――え……、サクラ師匠……。サクラ師匠ももしかして日本人だったのですか?」
「ふふ――私は私……。でも日本から異世界に来た人は知ってるわよ。今は会うことは出来ないけどね。だから日本人の事は知ってるわよ。――でもあなたは今聖女のエクレアや……たまたま来ていたマーリンとダイアナにも今の話は聞かれてるけどいいの?」
……
「ん~、まあいいのでしょう。私はセラミヤには日本の事を伝えているし、今さらマーリンたちに何かを知られてもね……」
「ならいいんだけど、ここは俺はチートだ! 俺の言うことを聞けーーではないのね」
「まあね。出来るならやってたけども、私が敵わないと思う人がいる世界で無双もね……」
「あらごめんなさいね。でも私たちを抜かしたら大丈夫じゃない。結構あなたやセラミヤはチートよ」
……
「お話し中ごめんなさいね。何時までもお話が途切れなさそうだったので。でも、私の父からの言付けだから……。一応侯爵からの言葉だから……」
そうマーリンがダイヤとサクラの話に入り、俺も加えて伝えることがあると言った。
で、俺たちは侯爵からの要請で領都トランバーへ一度移動することになった。