第百六十二話 聖女はどうなる
中年の男はまだ話し続ける。
「こんな何処の誰だか――あんな男の子の冒険者の仲間に何が出来るか! 私たちが何も出来ないんだぞ! ――精霊? 私には何も見えないぞ! 本当にいるのか!」
この人は今何がしたいのか?
「おい! 聞いてるのか! 私が見えない――ジルアキラン教団の幹部でもある私が見えない精霊を――お前が見えるのか!」
――お前が見えるのかって、ソフィアは妖精だし……、自分が精霊を見ることが出来なくて卑屈になっているのか?
「――うるさいですよ」と他のお付きの人が話し出した。
「もう私たちには無理なのですから、そこにいる眩しい人に助けてもらいましょう。あの数は、神……」
「――うるさい! 私には見えないんだから知らん!」
「我このうるさい人嫌い!」とクロウ師匠が言うと、反発していた人が鼾をかき眠った。
……
「これでようやく静かに話が出来ますが、聖女と呼ばれているあなたはどうしますか?」
……
「……う、うう……やって……」
「そう言ってますが?」とソフィアが話すと俺もだが、皆が頷いた。
「では早速……ラウールはそのまま動かないでくださいね。それで精霊は聖女の周りに集まって、呪いの回復をしてください。後はそのまま聖女に付いて行くのですよ」
ソフィアが何か合図をすると、光が聖女に集まり魔力の高まりが感じられる。これは――
……
……
「ではこれで精霊のいる場所も定まりましたので、私たちはその辺を探索しています。行きましょうラウール。ラウールも周りにいた精霊が離れてスッキリしたでしょ」
「ふふ、スッキリって言うと悪いけど、何時も見られているのはね。うん、皆一回ここから出ようか」
そう言ったラウールたちは建物から出ていった。
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俺たちも一度他の部屋に移動し、聖女は女のお付きの人に任せた。
ソフィアが部屋を出るときに言っていたが、呪いは既に解呪され、後は体力が戻れば今まで通りになるそうだ。
だから一度ダイヤとこの家から離れることにした。それにマーリンとダイアナもついてきて、一軒の建物を借りて休むことになった。
もちろん一軒には俺とダイヤが泊まって、マーリンたち女子とは一緒じゃあない。
……
そして思ったよりも疲れていたのか、この日は早くに眠りに落ちた。
で、次の日になりラカントが迎えに来た。何でも聖女の意識がハッキリしたそうだ。だからラウールたちが何処にいるかわからないので、俺たちに声をかけたそうだ。
ラカントは俺たちにも改めて感謝の気持ちを伝えてくれた。自分たちだけでは聖女を守りきれなかったと、やや悔しげだったが。
それから連れてこられたのが聖女いた家。今、目の前には昨日より元気な聖女と女のお付きの人、マーリンとダイアナがいた。
「――昨日はありがとうございます。あの方たちとあなた方がいなければ……私は……。本当にありがとう……」泣きそうになった聖女だが、今起きている姿を見て思うのは、美少女だという感想だ。
「いえいえ、私はダイヤと申します。ラウールたちはああやって誰かのために動いていますから。私たちも何だかんだと世話になっているのです」
ダイヤ……君は女の人がいると張り切るね……
「それでもです。これほどの数の精霊が私についてしまいました。普通ではあり得ません」
「だがあなたは聖女ですよね。だったらただラウールたちに感謝をしたらいいんですよ」
「ですがダイヤさん。私の聖女としての能力は光の精霊の力で増幅されています。この能力がもっと分散されて、他の方々に渡ることで、多くの人が救われると思うのです!」
いい聖女だな。俺も光の勇者としてもっと他の人々にも目を向けないと。
「いや――それは光の精霊が望まないでしょう。精霊は気まぐれですから。それに――光の精霊が分散されたところで、良いことに皆が力を使うとは限りませんから……」
……だな。力があっても人が良いとは限らない……
……
……
結局聖女は精霊の居場所については何も言わなくなった。
……
それでだが、俺たちに聖女がお願いをしてきた。出来るなら精霊ともっと心を通わせるためにソフィアを貸してほしいと。
そのためにラウールたちを少しの間ここに留まらせてほしいと。
俺たちと一緒に旅をしているから、先に俺たちの許可をとり、その後でラウールたちにもお願いしてみるそうだ。
このお願いに俺たちは少し考えた。だがダイヤが「聖女の頼みは聞くのが定番だろ?」と何かよくわからないことをまた言い出した。
そこに何とヤマトがやって来た。そしてダイヤが言うことは、サクラも理解してくれると、これもまたよくわからない返事をした。
結果的にヤマトがラウールたちというか、サクラから許可をとってきてくれた。「ダイヤがやりたいようにやってみたら?」と俺にサクラからの伝言があった。ただ更にダイヤに伝えておいて、とも言われたが……




