第百五十九話 マーリンとダイアナ
結局はマーリンがダイアナに無理を言って、俺たちはマーリンと一緒に馬車に乗っている。ちなみにワイバーンにやられた騎士は、ラウールたちが運んでくれることになった。
ガタガタガタ
ガタガタガタ
馬車に揺られる……
「改めてありがとうねセラミアもダイヤも」
「いや、これは必然だ!」とダイヤが言った。だが、必然は止めてくれ。俺たちがワイバーンをけしかけたように聞こえる。
「あの場面では当然でしょう。クロウが襲われている気配を感じたから……」と、怒られない程度だと思う範囲でラウールたちの事を話す。
……
……
「へ~、ワイバーンを瞬殺したダイヤでも全く敵わないなんてね……、何者?」
「……わからないけど、敵対しなければ良い師匠だと思うよ……。だって、訓練中にサクラに絡んだ冒険者が…………、ラウールに……」
……
……
「――ま、まあ今はそんな話を聞きたいのではなくて、あなたたちは私を助けてくれたので、私のお父様に会う必要があります。拒否は出来ませんよ? 私の騎士たちが見ていた所でワイバーンを圧倒したのですから…………。私の騎士の名誉ある死が、あのワイバーンによって引き起こされたと言う証明の為にも……。ですからラウールさんに頼んで、出来るだけ私の大切な騎士の体や、あの憎いワイバーンの体を出来るだけ回収していただいたのですから……」
――うん、悔しいよね……自分を守るために死んでいく人…………、ピックイ、オークから他の人を守る戦士……。俺の気持ちと重なる。
「じゃあ領都、トランバーまでお互いの話をしていこうか……」
……
……
本来なら一緒に馬車には乗らぬ団長のダイアナも、ラウールたちが魔物を発見し次第倒していたからか、俺とダイヤ、マーリンとダイアナの四人で話をしながら先に進んだ。
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行き交う人並みが多くなり、徐々に文明のあるところに近づいてきたと感じたダイヤ……、そのダイヤはまだ目がギラツキ、この世界を楽しんでいるようだった。
「そろそろですね、では今回は貴族用の通行門を通りましょう」
……
……
道中で聞いた身元、トランバー侯爵の次女マーリンはなんでもないように貴族用通行門を通ろうとしたが……
「マーリン様! あなた様がおっしゃるのであれば――――ん、だがその後ろのそれは……」
ラウールのムカデ型ゴーレム馬車が止められてしまい、説明と身分証明に時間がかかってしまった。
そのため今は夕方だ。これから貴族の所に伺うのは、流石に礼儀に反している。
「じゃあ、俺たちは昼前にに冒険者ギルドの前にいるから、そこで待ち合わせで……。でも俺たちに合わせなくてもいいからね。君の父上の都合に合わせるから」
「ええ、一応父も侯爵ですので、一先は明日のお昼前に冒険者ギルドの前に遣いの者を出します」
そう言って俺たちは別れた。
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――トランバー侯爵邸――
「お父様、今ご説明した通りです」
「ダイアナ、本当か?」
「はい閣下! お嬢様のおっしゃる通りでございます……」
「ん………………」
dadadadadada!
バタンバタン!
ダーン!
誰かが乱入してきた。
「父上! 大変です! ラカント村が……ラカント村長の村が襲われています!」
「なんだと……あのラカントの所の村か……あそこには重要な、大切なあの人を預けている……、ラカントならどうにか出来ないのか……デデラーバ!」
トランバー侯爵の次男デデラーバとの会話にこの場にいる人は緊張した。
「――父上! ラカントが必死に守っているという伝令ですが、ゴーレムが無数に湧いているそうです!」
「ん、今はマーリンとの話はゆっくり出来ぬか…………ん、兵を召集せよ! ラカント村の守護に急げ!」
……
……
「(ここはセラミアたちに――セラミアの師匠に――)ダイアナ、行きましょう」
「お嬢様! 何処へ!」
「セラミアに! 冒険者ギルドに!」
「――お嬢様! 私たちは明日まで…………セラミア殿が宿泊している宿を知りませぬ!」
「あ…………」
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俺たちは一晩ゆっくりと休み、昼前には冒険者ギルドの前に向かった。
……
ん? 何かものものしいな。
……
「セラミア殿! すまぬ、私に何も言わず着いてきてほしい! ――師匠のあなたたちも……お願いする……」
何か切迫した雰囲気を醸し出すダイアナの雰囲気に、ラウールたちも俺たちと行動を共にすることにしてくれた。
そして素早く兵も編成され、馬車に乗せられて移動を開始した。――ラウールたちは自前の馬車に乗り、俺たちの後をついてくる。
――
――
そして到着した場所ではゴーレムとの戦闘が繰り広げられていた。
移動しながら説明を受けたが、この村を、ある人物を守りたいらしい。
ここで出てきた単語は『聖女』、ソクランスさんが言っていた聖女なのか?
そんな疑問には……
――聖女は巡礼の旅に出ていたが、トランバー領まで到着し、幾つかの都市や町を巡っていた。だが、旅の疲労が溜まっていたのか倒れてしまった。そこで聖女に祈りを捧げるために訪れる人が少ない、この村で体力を回復しているのだった――
そうマーリンが説明してくれた。そして先頭に立って戦っているあのごつい中年を助けるべく、俺たちは急いで駆け寄った。




