第百五十五話 セラミヤと第一の出会い
俺にとってピックイ以来の強敵はハイオーガになった。ピックイは対峙しただけだから、今回が初めてとも言えるが……
目の前のハイオーガはすでに俺に気がついていて、睨み付けてくる。
ラウールとクロウはいつの間にか姿を消していた。側にいると思いたいが、何も感じられない。俺に元々ついていた護衛も、さっき走ってここまで来る間に、脱落している。
――殺れるか?
「GYAGYAGYAGYA!!」
ハイオーガが叫び、俺にとの距離を一瞬で縮める。
――――
ハイオーガが殴りかかってきた。素早い動きだが、ギリギリ避ける。
――――
俺が斬りかかる。
ハイオーガは上手く避ける。
――――
俺は魔法を使う隙を見つけられないまま、物理で攻撃する。
ハイオーガも魔法を使わない個体なのか、物理で応戦する。
……
……
十分ほど経過したが、どちらも決定的な打撃を与えられない。
……
……
「ラウール! 決着がつかないよ!」と叫んでみたが、返事がない。
……
……
何故三十分もハイオーガとやりあってるんだろう? と疲労感を感じてきたところで、遠くから走って駆け寄ってくるような音が聞こえてきた。
そんなときでもハイオーガは攻撃してくるが、どちらにも集中できず、肩を殴られてしまった。
更に追撃をしてきたハイオーガの動きが止まった。
「――――助けてくれ――」
そう足音が聞こえた方から変な服装をした人が、普通のオーガらしき魔物一匹に追われ、こちらに近づいてきた。
「おーーーい! そこの剣を持っている人! こっちも頼む!」
「えーー! 流石に無理!!」
俺にはこれ以上無理だ! 頼む! ラウールでもクロウでもいいから助けて!
「我の言った通り面白くなったでしょ!」
「――まあね、一先ずオーガたちをどうにかしようか……」
そうラウールが一先ずと言った瞬間、ハイオーガとオーガは首が跳んでいた。
……
……
目の前には走り疲れたのか、息を切らした男がしゃがみこんでいた。この男は見た目が同じ歳くらい? 黒目黒髪でのぺっとした顔をしている。言っちゃあ悪いが、良くも悪くもない容姿かな。身長も俺と同じくらいに感じるし……。何処から走って来たんだ? 吐きそうになってるぞ?
……
「――はあ、はあ、はあ――助かりました。それで、ここは何処ですか?」
「ここは何処って、あなたは何処から来てどなた?」
「あっ、申し遅れました。私はこういうものです」と男が不思議な、何かもう少しきらびやかであれば、貴族の式典にも出席できるような服のポケットから、プレート? 謎の文字が書かれた板? を渡してきた。
だが警戒していたのもあるが、こんな謎の道具を受け取って、どんな効果があるかわからないから、受け取れなかった。
「ああ、これは失礼。こちらではこのような習慣はないのですね」と、謎の板をもう一度何かにしまっていた。ややブカブカに感じる服に何かを戻した後に、「私は春飛大八と申します」
「えっ? 良く聞き取れなかったんだけど? 俺はセラミヤ。今日はここにいるSランク冒険者のラウールと、ラウールの従魔のクロウと一緒にここに来たんだ」
こうでも言っておいたら敵対はしてこないだろう。流石にSランク冒険者と戦うほど無謀な奴は、この辺りにはいないと思う。まあ、ラウールの見た目で信じられたらね……
「うほ! マジで!――本当に異世界かよ! え、何? Sランク冒険者? 従魔――さっきのは魔法? えっやだ、怖い……って、マジだったのか……」
目の前の人が何かぶつぶつ言い始めたよ……触れちゃあいけない人だったか?
「――じゃあじゃあ、名字は駄目だよな……で、鑑定出来たよな……俺の能力は――――――うほーーーマジか! 他の人の能力はわからないけど……どれ、目の前の…………うっ、俺と同じくらいかよ……。強いのかわからないじゃないか……あっ、あっちの強かった人は…………っ、見えないのかよ……俺って弱い?」
まだこちらを見るが、話が再開されない。
「あ~、どうする……誰かにしばらくは助けて…………って、失礼。えーと、私はだいはち…………イエ、ダイヤです。ちょっと途中の記憶が怪しいのですが、遠い島国で産まれました。ですが、最近の記憶が!? くっ! 思い出そうとすると頭が!…………と言うことで、私を近くの町まで連れて行ってくれませんか?」
「……何か急にまた……ん~、ラウールはどう?」
「僕はいいよ! 何かこの人は面白そうだし、タダンタ市まで連れていこうか」
「我もいいよ! でも、セラミヤは失格! 初めは訓練場で訓練が必要かな~」
「うっ!」
そんな変な出会いがあった。
不思議な男の子……、でも時々話し方が色々変わる男。
あんな格好でもオーガからは逃げるだけの足の速さがある人。普通の人なら逃げ切れる魔物ではないぞ。
そんな変な男ダイヤと一緒に、ラウールが何処からか出したムカデ型ゴーレム馬車という乗り物に乗って、タダンタ市に戻った。




