第百三十六話 あの洞窟探索
僕たちは調査依頼の指定された洞窟に到着した。この洞窟はナイデラ交易国の北の方角にある。
岩肌に面した周辺は草木がが少なく、確かに雨宿りするにはちょうどよく感じる。
洞窟の中の気配を探り、何ものもいないことを確認して洞窟に入った。
洞窟の中はさほど広くはなく、一度奥まで進んでみたが奥にやや視覚があるが、探索して隠れられるようには感じられない。
「何か気になる所はある?」
「ん~ん、私には何も感じない」
「ふふふ――お二人共、頑張って下さいね。私たちは明日の朝まで帰って来ませんね」とソフィアが言い残し、クロウとヤマトも飛んで行ってしまった。
「――だってさサクラ」
「――ええ」
「どこから調査する? って言っても洞窟はこんなに狭いから、ただ見るだけだったら何も変な所はなかったよね。」
「そうよね。さっき見た限りだと何もないわね……」
「この辺りは避けてたから、洞窟の外も調査してみようか?」
僕の提案で洞窟周囲の探索も開始された。
……
……
ん~、不思議なほど魔物が出現しない。
そこまで魔物が多い地方ではないけど、ゴブリンを一度も見ていない。あの、一匹いたら十匹はいると言われるゴブリンが……
その代わりか獣たちが多めに確認できた。特に小さめな兎や鼠、犬、猫など野生の動物と言える生き物が多かった。
……
調査を更に続けると、何故ここが注目されないかと思えるほど薬の素材になる物がそこらかしこに生えている。
「何だろう? 不自然だね。遠いし、採取依頼はほとんどない地域だけど、病気が拡がっているなら誰かが採取に訪れそうだけど」
「そうよね。他の国から移動してきた駆け出し冒険者なら、錬金ギルドに売ることも出来そうよね」
「――でも作るより差益で利益を得るから駄目かな?」
「でもこの国でも製作もしてるのよ?」
「ん~、僕たちはまだナイデラ交易国について知らなすぎるかもね」
「ええ、国王についても、教国から独立した血筋かな? 位の認識だものね」
「そうだよね~、交易国だから、話で聞いたから交易で利益を上げているって思ってるけど、実は違うかもしれないしね」
僕たちはこの国についての疑問を話ながら探索を終了した。この後は朝まで洞窟で過ごして、帰りに何もなければ調査は終了だ。
……
……
「暗いね……そうなるように明かりを調節してるんだけどね」
「ふ~ん、ねえラウール……それでこれがあの冒険者から聞いた夜の過ごし方ね」
「そうだよ。夜は少ない明かりで、なるべく外からはわからないように過ごしたって言う情報だったからね。魔物が少ないから、警戒は疎かになってたようだけど」
「そう……じゃあ私の疑問。ここの冒険者は、他の国でも冒険者として活躍できるのか? ねえラウール、夜営でいくら魔物が少ないっていっても、油断なんて出来ないと思わない?」
「そりゃあね、でも護衛で他の国にも行ってるなら、経験は積んでるんじゃない?」
「――でも、ここで出現する魔物はゴブリンくらいよ! それで他の国に行っていきなり強い魔物に遭遇したらヤバくない?」
「ヤバイけど、僕たちの弟子みたいに、一生懸命訓練したら一人前にはなれるでしょ?」
「それよそれ。冒険者ギルドでもナイデラ交易国出身の冒険者の噂は良くも悪くも聞かなかったでしょ?」
「そうだね、それで?」
「ここで育った冒険者でもどうにか生活出来るだけ依頼はこなしてるんでしょ?」
「あ、でもオーション市にいた冒険者は、他の国よりも強い冒険者がいたし、魔物も強かった……」
「ね、不自然でしょ? ナイデラ交易国からオーション市に流れてくる冒険者いたとして、強い冒険者が残っていく。――ま~、ある程度の冒険者はジルアキラン教国方向に護衛で行くでしょ。――それを踏まえると、ナイデラ交易国の冒険者より、ジルアキラン教国方向から流れてくる冒険者が強いんじゃない」
「うん、弱い人がナイデラ以外でいなくなる?」
「そう、ジルアキラン教国が……とまでは言えないけど、冒険者がいなくなっても不自然ではないでしょ?」
「――でもどうして急にそんな話をしたの?」
「――何でだろう、この雰囲気で私の推理が冴えちゃったのかな――ふふふ」
――そんな話をサクラとして、今日は結界で洞窟を覆い――寝た……うん寝た。
……
……
――そして朝になり、サクラの寝顔を見ながら朝食の準備をしていると、洞窟の入り口の方向から何かの気配がした。
今は結界で守られているから何者も入って来られないが……ん~、何か気配も薄く感じる。今までに感じたことがないな。
「――サクラ、起きて、静かに起きて」と僕が小声でサクラを起こすと、幸せそうな顔をして起き、次に真剣な顔をした。
「――何かがいるわね……なんだろうこれ?」
やはりサクラも感じたようだが、今までに感じたことがない気配だ。
これは初体験だから慎重に近づいて行かなければ……見える範囲なはずなのに何も見えていない。この感覚は……今のソフィアに近い感覚だが、ソフィアではない。
僕たちは見える範囲にあるはずの気配に慎重に近づいて行くのだった。




