第百十六話 ラウールたちの分岐点
僕たちは表面上は平穏に日常生活を過ごしていた。毎日冒険者ギルドに行き、今は後進の育成をしている。
僕たちに育てられた冒険者は何か幸運が与えられるのか、命に関わる怪我をせずに帰還できているようだ。
何だかんだとあれから行動する気がなく数ヶ月……同じ都市に留まり生活をしていた。
クロウたちが集めてくる素材でもう一生働かなくても良いほどお金には困らないが、僕たちは特別依頼で日々の生活費を稼いでいた。
……
「ししょーー! 助けて! モイスが!」とダニーが走ってくる。
「こら! ダニー! 私がいながら何であんな女に声をかけられてるのよーー」とモイスさんがダニーの後ろから走ってくる。
――この数ヶ月でモイスさんとダニーが恋仲になっていた……カップル……恋人……アベック……ま~彼氏彼女の仲になっていた。
「ししょーー、これはモイスの思い込みだからね! ただ俺が最近稼いでいるから、声をかけてきた子がいただけだからね」
ダニーはこう言っているが、今のダニーはAランクのモイスさんと組んで稼いでいる。冒険者ランクも僕たちに鍛えられて急激に上がっていて、今では注目の若手になっている。
「ぷぅ~。ダニーは私だけでいいじゃない。――他の子に声をかけられるなんて隙があるのよ!」
「え~、話しかける相手まで気にしていられないよ~」
「ダメダメ~ダメよ~。ダニーは私だけと話してたらいいのよ!」
……ん、放っておこう。
今はこんなに平和だ。
ゴブリンを倒したあとに何か行動を起こすかと思っていたが、バカップルが生まれるくらい平和な時間が過ぎていた。
……
……
「サクラはオーションに自宅を持たないの?」とモイスさんがサクラに話しかけていた。
「ん~、オーションに拠点を置くか……どうだろう」
「私はダニーがここを拠点にするって言うから、家を買ったわよ! いいわよ家は、愛の巣よ!」
愛の巣って……
「あなたたちはそれでもいいだろうけど、私とラウールは世界を見て歩きたいからね~。ファンフート王国に一旦持った家も、プッチモに譲ったしね……」
たまに出るよサクラの偉い人呼び捨て!
「プッチモ……ファンフート王国……プッチモ……ん?――――王子?――ファンフート王国の王子じゃないの! ただ同じ名前なだけ?」
「ん~、内緒……ただ思い出しただけよ! 楽しかったマイホーム計画が……」
ズキッ! ……ん~、サクラ……ゴメン!――楽しんでたよね、あのときは……
だけど――旅も楽しいよね!――ね!
「でも私たちは昔から気まぐれだからね。旅をしても、一ヶ所に留まっても、どんな所にいても楽しいのよ! 例え最上級の魔物が徘徊するような所でも、私たちが一緒なら――そこは楽しい場所になるのよ!」
と、こんなサクラの言葉を聞いたモイスさんとダニーはそそくさと立ち去った。
何かあの二人も感じることがあったようで、モイスさんが凄い勢いでダニーを引っ張っていった。
……
……
更に時間が過ぎていった。
僕たちがこの世界に来て一年……おそらく僕たちは十三歳になった。
ものすごく密度が濃かった一年だったが、後半の半年は一瞬で過ぎた気がする。
僕たちはAランク冒険者になり、今も地道に冒険者活動をしていた。
ファンフート王国からアルグリアン王国に移り一年でここまで成長した。
更に上に向かうには、もっと頑張らないといけないんだろうな。
できるなら前世と一緒で冒険者ランクをSまでは上げたいな。なんとなくスペシャリストのS、響きが良い。
エスエスランク、エスエスエスランク……ダブルエス、トリプルエスランク……これがEXランクだったら目指しても良かったんだけどね。
結局は前世では目立たないようにしたからか、長いときを生きて同じ人物に思われなかったのか、Sランクの冒険者で肩書きが終わったからね……
今世は――表だってジャックの企みを潰したら、前世とは違う面白いことが起きるかな……
なんとなく貴族になって面白いこともあったしね……今思うと……
……
……
……
僕たちは今日誕生日パーティーをしている。
誕生日がわからないから、今日この日を僕たちみんなの誕生日とした。
――丁度自動翻訳されているだろう言葉で一月一日。この世界でも年が変わると言う意識があるようだった。
「サクラ、僕はジャックが人間族を不幸にする行動をしたら止めたいと思う。一緒に戦ってくれる?」
「……もちろんよ……もちろん一緒に行動するわよ! ――クロウもソフィアもヤマトもいいわよね?」
「「「うん!」」」
「ラウール? 私がいつでもあなたの味方よ。――もし生き方を間違えそうな時は全力で止めるけど、何でも頼って!」
「……ありがとうサクラ……僕も誓うよ……サクラが間違った生き方をしそうな時は、全力で止めるよ! だからこれからもよろしくね!」
その後はみんなで誕生日パーティーと言って盛り上がった。この世界では質量……体積の変換がシチランジンより自由なようで、ソフィアはハイエルフ、ヤマトは龍ではなく黒猫の獣人の姿で過ごした。
――――クロウは鴉……八咫烏のままだったが……
……
……
「よし! サクラ! オーション市周辺で何かが起きなければ旅に出よう。――何かが起きたら、対処してから旅に出よう」
僕たちはもう二ヶ月だけオーション市で様子を見ることにした。




