第百十四話 弟子たちの活躍
サクラもあの後のモイスさんの懇願で一時的に一緒に行動することを受け入れた。モイスさんは僕たちに一時的に守られる存在となる。
……
モイスさんが一緒に行動するようになってもしばらくは『師匠』と呼ばれる日が続いていた。
そんな中でも冒険者ギルドが気を聞かせて特別依頼扱いにしてくれていた。
僕たちが他の冒険者に色々と教えていたら、低ランク冒険者の帰還率や依頼達成率が向上したようだ。更にはベテランにまで良い影響があったようだ。だからこそ依頼ランクはAランクには出来ないが、依頼として貼り出されない特別依頼として処理されていた。
……
……
「あまい! あまいわよ! 砂糖よりあまいわよ!」と今日もサクラが絶好調だ!
更に「私の見た目で侮らないでよ!」とさまざまな重い武器を振り回しているモイスさん……
……
そんな僕たちにしては平和な……たるんだ時間は弟子の叫び声で終わりを告げた……
「――ししょーー! 大変だーー!」と自称十五歳の……この世界では成人した男が僕たちに駆け寄ってきた。
……この駆け寄ってきた男はダニー。
熊の獣人で冒険者に登録したての新人だ。
熊の獣人だが姿は人間族に見える程度の体格に熊耳がついている。
何だかんだと可愛がっている後輩だ。
「う、うみ……海――は何でもないけど――あっちから――あっ!……南から一軍……なんだろう? 何かが攻めてくるよししょーー!」
何かが攻めてくるよ? 何だろう?
「南って海側は北と西じゃない! んーー正確な情報を――ってダニーじゃない……ごめんね、あなたにはまだ無理なことよね。」
「――あーーサクラししょーー。それは言わないでよ!」とダニーは恥ずかしがっている。
何でもダニーが言うには何かの集団がオーション市に攻めて来ているらしい。
流石に僕が気配を探っても……本気を出してもわからない距離だから、数日はかかる距離にいるようだ。
「ラウールどうする? 私はラウールに任せるけど。モイスさんもどうする?」
サクラもモイスさんに聞くほど余裕に感じているようだ。
……
と余裕をもって過ごし、何も対策を考えないまま数日が経過すると、僕たちの弟子がオーション市の防御壁の前で奮闘している……戦いが始まった。
……今回の騒ぎは結局は魔物の氾濫だった……
何処かの森で増えすぎた魔力があったのか、オーション市にまっすぐ進んできた集団……
大体の魔物がゴブリン並みの戦闘能力だったので、オーション市の精鋭冒険者や騎士が集まると余裕はあるようだ。
ここでは陰ながら僕たちが活躍し、僕たちの弟子が表だって活躍していた。
……
……
「五百匹くらいのゴブリンなんて一瞬で倒しなさい!」
……サクラ……なんて無茶な……
「「「おう!」」
簡単にいわないd……
って何ていう勢い……僕たちの弟子と言われている冒険者たちが凄まじい……
「サクラさんのあれに比べたら!」
「俺がソフィアさんに声をかけたときに受けた威圧に比べたら!」
「ヤマトさん……」
「クロウの鳥兄貴……あなたに教わったことを!」
「ん……きついな……俺の強さだとゴブリン一匹は……」
「「「「サクラししょーーを迂闊に口説いた時を思い出せ!」」」」
……
――――Wawawawawawawawawawawawawa!――
「……はんっ!――――ラウール兄貴の威圧に比べたら!」
……威圧? 威圧していたか?
「サクラししょーーに声をかけたときにラウールししょーーから受けたあの魔法の残像に比べたら!」
「ラウールししょーーのサクラししょーーへの愛に比べたらーー」
……愛って……恥ずかしいじゃないか……そんなに直接的な言葉を選ばれたら――僕も少しやるか……
「皆! 下がって! ――廻る廻る嫉妬の炎よ 敵対する負の感情よ 我らに向けた負を受けとるがよい…………逆流……」
って……どうだった!
……辺りが静まり返った。
……周囲が……足元に穴が開いた。
僕の前の人たちが……口を開けている。
魔物が消えた……何か顔を赤くして……爆発した。――ん? 神経を高ぶらせた? それとも魔力が暴走した? ちょっとイメージを曖昧にしすぎたかな。
冒険者は魔法を受けて――元気になった。何か良い雰囲気を感じる……
……
……
……
何故こんなに不思議な雰囲気に包まれているのだろう……対魔物戦は大きな怪我をする人もなく終わったからか? ま~普通はこの規模の戦いだと死者も出るだろうしね。
まだ僕は穴から出ていないが、周囲は勝利に湧いている。
そしてこんなに弟子が強くなっている姿を見られるとは……
ダニーがモイスさんと抱き合っている……勝利を確信しランクの垣根を越えて抱き合っている……
……
……
結果的に僕の魔法で魔物が憤死し、かなりの数の魔物を葬った……
だけど最後にいいところを奪ってしまったのは失敗だったかな?
弟子たちが頑張っていたのに……。許してくれるかな? もし怒ってるなら、良い武器の一つや二つあげておくべきか……。僕たちであればすぐに創れるから……
……
僕たちはあの規模の魔物の反乱を抑えて冒険者ギルドから感謝された。
この戦いは領主まで話が行き、領主も喜んでいると聞かされている。
オーション市の領主――その代官が派遣されて冒険者ギルドにお礼を言ったそうだ。そしてあの戦いに出た者に配る褒賞金もおいていってくれ、ギルドからの報酬と合わせると弟子たちにとっては良い金額になった。
さてさて、あの後にクロウに頼んで周囲を探索してもらったが、ヤバイのが一匹いるようだからちょっと頑張りますか!
僕たちはクロウが目印をつけている所へ向かうことにした。




