8.オカミノアギト
オカミノアギト。
それは、”お山”にある大滝のことだ。
龗ノ顎門、正式にはこう書く。
”お山”の聖域として古代から特別に信仰されてきた大滝で、切りたった絶壁を山の雪解け水が一斉に流れ落ちるすさまじい豪瀑だ。
滝は段々になった岸壁を流れ落ちる段瀑の地形になっていて、せり出した岸壁の頂上に水飛沫を浴びながら、木造だが厳粛な佇まいの神殿が鎮座する。
それこそが、帝都騎士団の崇める神殿である。
俺たちはお山から流れてくる川の岸辺でボートに乗り換え、行けるところまで一気に上流まで遡り、ゴツゴツした岩壁の小道を姉貴を探しながら滝へ近づいてった。
空を見上げると、遠目からでも滝の中腹に神殿が見える。
ここまで来るのは初めてだった。
もはや同じ村にあるとは思えないほど、景色が激変していく。村の牧歌的のどかな風景とは全く連続性の無い、美しいが人を寄せ付けないような絶景。
切りたった絶壁に囲まれた深い谷を飛沫を上げながら流れる紺碧の清流。山肌、木々、岩肌全てが、清流のブルーに染まる青の世界。その木々から漏れる日の光が無限に反射しあい、真昼の銀河のようだ。
こりゃ間違いなくパワースポットだ。だが、俺たちには 景色に見とれる余裕はなかった。
いつ騎士団に見つかり、斬り殺されてもおかしくないほど奥地に入り込んでいた。
ごおおおおおお。
滝壺に落ち込む大量の水音が徐々に大きくなる。
きっとあのカーブを抜けると、滝壺に出れるはず。俺たちが足を早めたその時。
「お願いします!!!!」
………え。
俺は弾かれたように、後ろの母ちゃんに振り返った。母ちゃんも鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。
「お願いします!カヴァリエ・リーダー!!」
俺たちは顔を見合わせた。
声の主は、俺たちではない。
「俺たちを帯刀儀に出席させてください!!!」
はっきりと、頭の上から聞こえてくる。
母ちゃんは口元に人差し指をあて、静かにというジェスチャーをとり、上を指した途端。岩壁の真上から、様々な声が頭上から降ってきた。
それぞれ、微妙に違う訛りのある言葉。悲嘆にくれるような絶望的な涙声の掛け合い。
俺たちは足音を忍ばせゆっくり、声のする方へ岩壁を垂直に登った。
二階建ての家の屋根くらいの高さまで登ると、目の前に少し開けた平地が広がっていた。
真っ黒な装束の背の高い男達が10人ほどいた。
帝都騎士団だ。