6.お山へレッツゴー
「うグッ」
突如、アルパカ父さんとの思い出に馳せていた俺の襟元がグッと掴まれた。
恐ろしい力でそのまま車庫まで引きずられ、軽トラに放り込まれるやいなや、鬼の形相をした母ちゃんが まっすぐ前方を睨みながら、軽トラのアクセルをベタ踏み急発進させた。
さすが元レディース・黒輪参<クロワッサン>の総長。
我が加速に、迷い無しだ。
「うええええ!」
すごいGが体にかかり、遠心力で助手席窓に顔が押し付けられた。その時窓越しに、近所の連中が隣家の口軽親子を囲んで、うちの家の方を見ながら井戸端会議をしてるのが見えた。
ああ、止まらない我が家の事件簿。
その輪の中から、ひとりの青年が俺たちの軽トラを追って駆け出して来た。
姉貴の婚約者だ。
鼻水垂らして、泣きながら何か喚いてる。きっと噂は、姉貴がイケメン騎士と駆け落ちしたという方向になってるのだろう。
だが彼氏、すごい勢いの割には、早速つまずき用水路に落ちてった。
俺はその姿にもらい泣きしそうになった。青春だなあと、しみじみ思った。
そして母ちゃんがどこに行こうとしてるか、俺には何となくわかっていた。
"お山"だ。
外を見ると窓ガラス越し、前方にそびえ立つ"お山"がぐんぐん俺たちに迫ってきていた。
村のどこからでも見えて、村奥地の国境にそびえ立つ、国でも最高峰と言われる聖山。
その"お山"には騎士団員の駐屯地があり、彼らの聖地が置かれているのだ。