5.アルパカの失踪
俺の父さんは穏やかで優しくて、でも何だか活気のない枯れた感じのイケてない大人だった。ちなみに顔はアルパカに似ていた。
リュック一つで全国を旅するバックパッカーだった父さんは、偶然立ち寄ったこの村で母ちゃんと恋に落ち、身寄りがないと言うことで母ちゃんちの婿に入り、超平凡に暮らしていた。
そんな父さんが、ある日を境にガラリと人が変わってしまった。
それは文字通り、全くの別人になってしまったのだ。
とにかく瑞々しく若返った。皮膚の下でギラギラしたエネルギーが渦巻いているような感じ。
ただしそれは不自然なもので、まるで枯れ野に一輪だけ咲いた色鮮やかな真紅の毒花のように、薄気味悪ささえ感じた。そしていつも心ここにあらずといったふうだった。
その上、殺気さえ感じた。
その時、俺はまだ12の子供だったけど、父さんを怖いとさえ思うようになっていた。
そしてほどなく、父さんは消えた。
オンナができたんじゃないかとか、人は色々噂したが母ちゃんはそれらを一切信じず、帝都まで行って人探しをした。だが精神的、肉体的に限界が来てぶっ倒れた母ちゃんに、姉貴がやっと打ち明けた。
姉貴が一人、家にいるとき、見知らぬ男が父さんを訪ねてきたと言う。
父は留守だと告げると、「また来る」と言って彼は名前さえ残さず去った。
その男は背が高く、夏なのに真っ黒なロングコートを羽織り、フードを頭からすっぽり被り、背に不自然な膨らみがあった。
夕方帰宅した父さんにそのことを伝えると、元々表情の少ない父さんの顔から全ての表情が消えたのを覚えてる。
その事が何故かひっかかり、その晩なかなか寝付けずにいた姉貴は、父さんが真夜中こっそり家を出て行くのを見て、好奇心で後をつけた。
すると村の奥まった森の中で、昼間の男と会ってる父さんの姿が、月の朧げな灯りのもと浮かび上がった。
その時だ。
何か決まりごとのような動作をし、腕を組み合わせた時ふたりの間に、蒼い閃光がよじれるように激しく瞬いた。
姉貴は恐ろしくなって、家に走って逃げ帰った。
そして父さんは人が変わったようになり、やがて失踪した。
それでずっと姉貴は自分を責めていた。
「あの時、私が声を掛けてれば、父さんは変わらなかったかもしれない。あの男がうちへ来たことを言わなきゃよかった…私のせいだね…」
そして涙をいっぱい溜めながら、こう付け加えてた。
「あの男、有翼族だと思う。絶対、探し出す。見つけたら、父さんを元に戻してもらうんだから!アルパカ、カムバーック!!」