3.姉貴と騎士
彼はおもむろに冷蔵庫からスポーツドリンクのペットボトルを取り出すとレジにお金を渡したはなから、キャップをネジ開け一気に飲み干した。
そして顔を覆っていた頬当てを外し、大きく肩で息をした。
見てはいけないと知りつつ、店中の人間が目を離せなくなっていた。
顔は土くれで薄汚れていたが、冴え冴えとした美しい光彩を放つ蒼い瞳をしていた。
すらりと組まれた均整のとれた肢体、漆黒の長髪がワイルドな感じ、とにかく美しい男だった。
実際天から舞い降りてきたかというほど彼は神々しかったそうだ。
そんな彼はコンビニのカゴに菓子やスイーツ、何故か焼き鳥のタレを大量にぼんぼん放り込み始めた。見てた皆は「訓練が厳しいんだなー甘い物に飢えてるんだなー」と少し同情したらしい。
ところが、そのうち彼と姉貴が何か、ヒソヒソ揉め始めた。
どうやら姉貴が買おうと手にしていた、しかも在庫1本しかないリンスインシャンプーを、その騎士団員が横から奪ったということが発端だった。
姉貴は日頃から女なのに薄毛でぺしゃんこになってしまう自分の髪質を嘆き、試行錯誤の末たどり着いたふんわり仕上がるそのリンスインシャンプーを愛用していた。
次の入荷まで一週間も待てないと、ボソボソクレームをつける姉貴の手に、騎士団員は黙ってそっと別のシャンプーのボトルを渡したそうだ。
しかし、それは長毛犬ペット用だったせいで、姉貴は激おこMAX。
ちょっと待てといった具合に姉貴はレジに並んでいた団員の腕を掴んだ。
そのときだった。
まるで小さな雷が落ちたみたいに、二人の間に鮮やかな蒼い閃光が走った。
一瞬の出来事だったという。
店中の人間が呆然とする中、二人とも信じられない表情で立ちつくしていたそうだ。
別の団員が、入り口メロディーとともにコンビニに入ってきて「ヤバイぞ!教官が来た!」とお菓子満載のコンビニ袋を持った彼を引っ張っていくまで。