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帝都騎士団 ・猫の手大作戦 〜 スカイフォール・アンリーシュド 〜  作者: 兎城 グスク
プロローグ / リヒト
1/10

1.俺の非モテ姉貴のやつが家出した

 ぎょえええええええええ。

 アホ抜かせえええええええ。

 バカかこいつはああああーーーーーーー。


 


 大地を揺るがす絶叫が、早朝の村に轟いた。

 音源地は、我が家である。

 母ちゃんが姉貴の部屋で泡吹いてあわわわとなりながら、わなわな震えていた。


 質素で飾りっ気のないおよそ十九歳の女子からぬ、シブい部屋。

 部屋は姉貴そのものをあらわしている。

 山に篭った仙人が、人生の残りの時間潰しに読もうかなと思うような本が満載された本棚。

 モフモフでカラフルな物など一切排除され、モノトーンの陰気な部屋に何かの機械の部品や顕微鏡、古びた木製の棚にはナゾのビン詰めが所狭しとならべられている。

 そしてシンプルといえば聞こえのいい素っ気ない造りの役場から払い下げられた木製の机には、置き手紙があった。

 

 先月もらったばかりの婚約指輪を添えて。


 



 探し求めていたものがついに見つかりました。私を捜さないでください。

   ミズリ


 


 意味わからん……。

 俺は腰が抜けた。

 

 ひっつめ髪に黒縁メガネ。

 青白い顔の半分をワカメのような前髪で隠し、こそこそと前のめりで歩きがちな姉。定番の服装は上下つなぎの灰色の作業服。

 巷で人気だったホラーゲームに出てくる、ナタを振り回すゾンビに似ているせいで、周りからつけられたあだ名は「ナタリー」。

 

 修学旅行の時一度この村を出ただけで、高校卒業とともに、村役場の水質検査部署へ就職。

 毎日の仕事は村の湧き水の成分をチェックすること。

 オシャレや色気からも程遠く、そんな植木鉢の底に住んでるようなダンゴムシみたいな姉を、見初めた男がいると知った時は度肝を抜かれたものだった。

 

 お相手は、帝都から派遣された水質管理局の青年。いわゆる安定の公務員。

 都会育ちだけど純朴で俺にも優しい。しかもなかなかのイケメンの好青年。

 姉貴でいいのかと思うほどもったいない男性。

 村の奇跡とまで言われたカップルだった。

 

 というわけで、俺は言いたい。

 

 そんな奇特な婚約者を捨てて何処へ何を見つけ探しに出るというのか、ナタリーよ。

 バカかお前は。お前はバカか。



「とにかく、事を荒立てず隠密に誰にも知られないうちに、あのクソばかムスメを探し出すんだよ!わかったかいこんちきしょー!」

 口の悪い元ヤンの母に急かされて、おおうとなりながら俺は階下に部屋から出ようとしたその時。



「え?なになに、ナタリー家出しちゃったんスか?まじで?」

 隣家の同級生女子カヤとその母親がいつのまにか俺たちの背後にいた。

 

村の放送局と呼ばれるほどの口の軽さで有名な親子である。

これで昼までには姉貴が家出したことが電光石火村中に知れ渡るのは確実であろう。


「き、貴様ら!なぜうちに!」

 母がのけぞりながら、さけんだ。

「だってミサヤさん声が大きいもの。丸聞こえよー」

 隣家母が心配そうなフリをしてはいるものの、明らかに好奇心が勝った顔つきでこう言った。

「て、いうか、私こうなりそうって思ってたのよねー」

 続いて同級生口軽女子カヤが、訳知りふうに呟いた。

 

 出た。

 会話の導入ドラマティックに語りがち女子。俺はイライラした。


「こうなりそう、て何よ!?」

 母ちゃんが飛びつく。

「うーん……あのね、どう言ったらいいのかなあ。つまり、アレに会っちゃったんだ。いや、見ちゃったっていうか……」

 そうしばらく呻くと、もったいぶった感じでカヤは説明し始めた。


 こいつのすごくドラマティックな語り口調が無性に腹たつので、俺がそれを簡単に要約する。


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