表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Quad ~ロボットみたいなお兄ちゃんの生き方は絶対に間違ってる!~  作者: ツネノリ
第三章 勇者ああああと壊れた城の灰かぶり
42/45

3-24 輝きの右手

「いやあ、あの穴がなかったら死んでたわー」

 ヒリアさんはまるで冗談かのように本当のことを言う。彼女は服の埃を掃いながら立ち上がり、ローブの裏に隠された試験管を指の間に挟めて構える。

「あんな強敵でも、あー君がいればきっと勝てる。そのためには私たちの支援も必要よ。そうでしょ、いーちゃん」

 そういって小さくウインクすると彼女は一本の試験管の蓋を外し、燃竜に向かって薬剤を放った。

 その薬が触れた部分は強い冷気が発生し、大気中の気体を凝固させた。


「どうよ! これ作るの苦労したんだから――」

 と言っている後ろで吹雪のような冷気が駆け抜けていった。

 低温の風は燃竜を吹き飛ばし、燃竜の全身には氷の膜が張っていた。魔物の反対方向にいたお兄ちゃんの剣は、今も寒色の光の余韻が放たれている。

「なっ」

 ヒリアさんは唖然とし小さく声を漏らす。

 この力量差では支援ができるのは一体いつになることやら……それでも私たちはお兄ちゃんの為にできることをやらないと!


「火神よ、我に力を与えたまえ! フレイム!」

 私の手のひらから放たれたのは小さな火球。以前に使った時よりも大きく見えたそれは、私の心をも温かくするようだ。

 攻撃は影魔に直撃。しかし完璧な命中精度だったにも関わらず怯みもしない。お兄ちゃんとだけでなく、あの魔物たちとも力量差は歴然らしい。

「どんな小さな攻撃でも、何百何千と繰り返せば、お兄ちゃんにも届くはずです! そうでしょ、ヒリアさん!!」

 その言葉はヒリアさんだけでなく、私の不安な気持ちを叱咤するものでもあった。自信がないからこそ強気でいこう。不安だからこそ笑っていよう。そうやって、私たちは苦難を乗り越えていくんだ……!


「おうよ! 遅れるんじゃないよ、いーちゃん!」

 すっかりやる気が戻ってきたヒリアさんは、再び試験管の中身を周囲に振りまく。飛び出た液体は影魔の周囲に染みわたり、突如として強い光を放った……!

 影魔はその強い光によって顔だと思われる部分を押えて怯んでいる。

「ヴォオオオオオオオオオオオ!!!!」

 耳から脳へと強い振動を伝える影魔の叫びは苦しみの感情を含んでいるように聞こえた。……よし、私たちの攻撃は効いている。

「今よ、いーちゃん!!」

 ――隙が生まれた。

 私の体はヒリアさんの声よりも先に魔物に向かっていた。精神を集中し、右手に意識を固める。弱点が分かったなら、そこを撃つのみ!!


「光神よ、我に力を与えたまえ……」

 空間に溢れる魔力が右手に集まる感覚を感じる。次第に周囲の景色が暗くなっていき……いや違う、私の右手が光を放っているんだ。

「ライト!!」

 助走と振りかぶりは整った。影魔との距離も完璧。私の煌めく右手は、何かを掴むように前方に突き出された――――!!


「ヴォオオオオオオオオオオオ!!!!」

 音は無く、泥をかき分けるような感覚だった。間近で聞こえた巨大で威圧的な絶叫に気絶しそうになりつつも、生まれたての子羊のように足を震わせながらなんとか姿勢を保つ。

 見れば、影魔の体内は光に照らされ、先ほどまで暗闇だった体内に何かが浮かび上がった。

 私はそれに深く手を伸ばす。気持ち悪い感覚に、つい片目を閉じる。魔物の肉をかき分けていった先に、何かを掴んだ……!!


 引っ張り上げる。その掴んだものは人間の手のような感覚だった。必死になって力を入れると、その掴んだ方も掴み返してくる感覚を覚えた。

「誰かいる!」

 人間だ。驚きで上げた声に、上の方から聞き覚えのある声で反応が返ってきた。

「きっと食べられた人です!」

「!」

 エラちゃんの声だ……!

 そうか、さっき私の体が勝手に動いていた時に誰かが食べられたんだ。でも握り返してくるってことは、まだ生きている!

 いま助けるから、お願い、耐えて!

 掴んだ手はもうすぐ出てきそうだ。このままいけば必ず助かる!

 しかし私には一つ忘れて入ることがあった。人命救助に焦って、いま一番大切なことを忘れてしまっていた。それは、ここが魔物の懐だということ。


 魔法と薬品から放たれる光を飲み込むように大きな影が降りかかる。咄嗟に上を見た時にはもう手遅れだった。人間の大人ほどの大きさの漆黒の鉤爪が真上に迫っている。いまこの手を放して逃げることなんてできない。逃げたとしても切り刻まれるだけ。

 絶体絶命、かに思えた。

「ヴォオオオオオオオオオオオ!!!!」

 まるで雨上がりの空のように、雲間からさす光のように一条の閃光が影魔を貫いていた。一瞬の光景であったが、その光は上部のバルコニーから伸びているようだった。

 影魔の斬撃は見事に外れるも、周囲の地面を抉り上げた勢いで私の体は壁の方に投げ出される。強く握りしめていた手も放すことなく、中にいた人も共に魔物から抜け出すことに成功した。


「お兄ちゃーーーーん!」

 ”あとは任せた”という思いを乗せて、その一言を叫んだ。兵士さんは助かった。あとは何の躊躇もいらない……!

「うごぉ!?」

 落ちた先にはヒリアさんが待っており、受け止めるつもりだったのか否かどちらでもいいが、全く女子力のない声を上げて私たちの下敷きになってしまった。

「……ありがとうございますヒリアさん、大丈夫ですか?」

「うっ、大丈夫なわけないでしょ……」

 すぐに腰を上げ、ヒリアさんの上から降りる。


 裏門広場の中央はすでにお兄ちゃんだけの戦闘空間と化しているようだ。

 敵は三体。先ほど私たちが攻撃した影魔だが、光の影響で怯んだだけで、ダメージは殆ど与えられていない。現在は完全に復帰。

 そしてヒリアさんが麻痺状態にした燃竜も復帰。いまだにナイフが刺さり続けていることから既に麻痺の耐性を身に着けていると思われる。

 最後に雷狼。私たちが影魔と戦っている間にお兄ちゃんと戦闘を続けていたようで、完全に戦闘モードへと移行しており、興奮した感情がそのまま放電という形となって振動を伴う強い音を繰り返している。


 お兄ちゃんは三体に囲まれるようにして佇んでいる。あんな強敵を三体も相手にするなんて、流石のお兄ちゃんでも勝ち目があるのかと不安になる。

 でもお兄ちゃんは冷静だった。その凍てつききった瞳孔は、これから勝つ流れが完璧に予測できているようで恐怖すら感じる。

 お兄ちゃんの氷のような眼は、第一に影魔の方に向けられていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ