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Quad ~ロボットみたいなお兄ちゃんの生き方は絶対に間違ってる!~  作者: ツネノリ
第三章 勇者ああああと壊れた城の灰かぶり
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3-23 イレギュラー

 光が止んだ後に見えたものは、少女の身を守るように周囲に組まれた鉄柱であった。それは先ほど宙に浮いていたハルバードが高速で落下してきたものであろう。

 彼女の姿は囚われのお姫様……には見えず、とても落ち着いた凛々しい表情で、今にも周りの人間たちを焼き払いそうな眼光が放たれていた。


「聴け!! この場は王城であり皇居でもある! 貴方達はこの神聖な場を血で汚し、尚且つ幼子にまで手を上げようとした!! これ以上の狼藉を働くというのであれば、貴方達全員を逆賊とし、全ての国家から永久追放することになります!! それでもいいのですか!!」

 戦場に一際大きな声が溢れる。それはバルコニーから現れた、国王の妃であるエラであった。

 そんな御大層な人物の登場にひれ伏した者は、平和に慣れたこの国の腐り果てた兵士たちのみであった。

 まるで聞こえていないかのようにエラの言葉を無視して体勢を維持し続ける戦士、もとい逆賊たち、そして少女いいいい。これにはエラも眉をしかめて困惑していた。

 それもその筈。いま少しでも目を離せば、少しでも体勢を崩せば相手に隙を見せ、瞬くうちに取り返しがつかなくなってしまう。そんなことは一流の戦士である彼らからしてみれば当たり前のことであった。しかもこんな不利な状況であれば尚更。


 そのとき、戦士たちのリーダーと思われる一人の男が、機敏に手を動かし合図を送った。訓練されたものでなければ理解できない素早く複雑な合図。その内容とは…………

 少女を取り囲むように配置された戦士たちは、まるで団体芸のように全員が全く同じタイミングで一定の動きを見せる。彼らは鎧の腕部分に取り付けられた素朴な鉄片を手に持ち、これまた同じタイミングで詠唱を始めた。

「根源より生まれ出た極少の粒よ」

 言葉と共にその鉄片を目の前にやさしく投げ、それは宙に浮き、回転を始める。

「今ここに我の手の内で踊り狂え」

 次第に鉄片は目にもとまらぬ速さで回転し、そして赤く熱を持ち始める。一五〇〇度以上に達したそれは長く長く鋭利な槍と化した。


「メルト・シューター!」

 最後の詠唱と共に戦士たちは手を振り上げ、共に槍と思われた物は矢となって放たれた。

 四方八方から少女へと流れる鋭い弾丸は、自らの防衛策としておかれたハルバードの檻を難なく通過するだろう。少女は串刺しにされるとともに内部から高熱で焼かれ、血を吹き出す間もなく絶命する。

 息をする間もなく、すでに手を伸ばせば触れられる位に接近した鉄の矢。その細く鋭利な造形に少女は距離感が掴めていない。

 そこには目を瞑った少女の親友がいた。

 絶望を噛み締めた王城の兵士達がいた。

 勝利に心震わせた逆賊の戦士達がいた。

 そして、その状況を意に介さない一人の少女がいた。


 あと寸前のところで、なんと鉄の矢の弾道が曲がったのだ。矢の周りには微かに、光る電流の形が表れていた。

 矢は少女の服だけを掠り、長く邪魔だったドレスのスカートと袖を切り落とす。それはまさに、矢が少女の制御下に置かれている証拠であった。


 ここにきてついに本気となったのか、少女の雰囲気が緊迫したものに変わったように見えた。ドレスのこともあるが、彼女の顔つきは一層険しくなったように見える。

 少女は体勢を変え、まるで何かの演舞のように腕を滑らかに震わせる。その動きと同期するかのように先ほどの鉄の矢が滑らかに周りを泳ぐ。

 物語を描くようなその踊りは盛り上がりのピークに達し、さらに細かく分離された矢が逆賊全員に向けられ放たれる。

 先ほど彼らが放った時の速度とは比べ物にならないほど高速で、その衝突の勢いで逆賊たち全員が壁に打ちのめされた。

 戦場には砂埃が舞い、その大半は少女が起こしている竜巻に飲み込まれていく。

 視界が晴れると、逆賊たちは全員が鎧に杭を打たれ、壁に拘束されていることに気づく。

 目前には紫電を纏う嵐の具現。逆賊たちには少女が恐ろしい悪魔に見えていた。


「こりゃ勝てねえな」

 彼らの一人が情けなくつぶやく。

「ただでさえ人数が減ったんだ、度重なるイレギュラーの対応には追い付かん」

「もしかして朝の爆発はこいつのせいなんじゃねえのか」

 諦め気味に笑いながら話し込む男たちの中で、ただ一人諦めていない者がいた。

「ならば、イレギュラーにはイレギュラーだ、アレを使う」

 壁に貼り付けにされたままリーダーは言い放つ。すると、「解除」とだけ言った。

 その瞬間――――


「ヴォオオオオオオオオオオオ!!!!」

 門の外から大きな雄たけびが聞こえたと思う暇もなかった。

 雄たけびとほぼ同時に城壁から腕が伸びた。城壁を乗り越えたのではない、壁であったところから腕が飛び出たのだ。

 その腕は一人の兵士を掴み悲鳴を叫ぶ間もなく闇の中へと連れ去った。

 腕が通った部分の壁が崩れ落ちると、長い静寂が訪れた。その静けさに誰一人として安らぎを感じるものはいない。そこにあったのは絶望的な恐怖と、痛みを伴う耳鳴りだけだった。

 何も起こらぬ無音の恐怖はそう長く続くものではなく、激しい足音が壁の向こう側から鳴り響いたと思えば、轟音とともに一瞬にして城門が瓦礫と果てた。


 姿を見せた者の正体は――――わからない。

 理解できない。気が狂いそうだ。それは闇の巨人とでもいえばいいか。

 軟体動物のように蠢く体は七つの翼を生やし、ヒト型を模しているも、ディテールを見ればそれは、毛が生えているようにも、甲殻で覆われているようにも……自分の顔が浮かんでいるようにも見えるのである。


 そしてその魔物の両端からは更に新たな魔物が現れた。

 蒼電を纏う鋭い目つきの巨狼。

 四つの翼で熱風を起こす巨竜。

「終わりだ、娘。こいつらは三神獣。創世神話に登場する九つの使徒のうち三体のモデルとなった魔獣だ。燃竜ドラーク、雷狼ウルヴル、影魔スカァー。この三つの使徒が集結したとき、世界に無が訪れると言われている。それはつまり、この国が破壊しつくされ廃都と化すということだ!!」

 魔物たちは周りに散らばった男たちを涎を垂らしながら狙いをつけていた。

 そんな状況を見かねてか、少女は紫電の檻から電流の音を弾いた。

 その音に敵意を向ける影魔と燃竜をよそに、雷狼はまるで餌を見つけたかのように高速で跳びかかった。


 少女は剣を構え、前傾姿勢になる。防御柵から飛び出るつもりか、はたまた――

 雷狼がハルバードを薙ぎ払おうとしたとき、少女もまた魔物に向かって跳躍。顎に強力な跳び蹴りが命中。そのまま雷狼は姿勢を崩して回転しながら転倒した。

 跳び蹴りの勢いは止まらず少女は柵から出て、もう二体の魔物に向かってしまう。このままいけば燃竜に一飲みにされてしまう。しかし少女はまるで引っ張られるように、元いたハルバードの檻の中へと帰っていった。

 これも電磁誘導の力か。鋼製の剣と周りのハルバードに電磁力を与え、その場限定で自由自在に空中で活動する。その様はまるで魚の様だ。


 雷狼を追うように影魔と燃竜も向かう。少女は先ほどと同じように二体を迎え撃ち、柱と柱の間を泳ぎながら牽制攻撃を続けた。彼女は激しい動きをしながらも、周りの兵士たちに目で何かを訴えていた。

 その意図を理解したのか、兵士たちは一目散に安全な場所へと非難していく。逆賊たちも杭を壊し、避難していった。

 ――――戦場は整った。

 少女は周りのハルバードを地面ごと吹き飛ばし、先ほど発動させていた三つの魔法を解除した。魔物たちが威嚇を向ける中、手に持った剣を地に突き立てる。

 そして――そっと手を離した。


「え?」

 あっけない戸惑いの声が漏れた。

 肉体の権限が元の、少女いいいいのものへと返ったのだ。

 隙を見せた。そんな好都合を野生を勝ち抜いた魔物が見逃すはずもない。

 燃竜はたちまち跳びかかる。少女は身をたじろがせることしかできない。

 いままで状況を見ていなかった彼女は何をどうすればいいのかなど理解できていない。このまま魔物に噛み殺されるのを待つだけ――――かに思えた。


「オラッ!!」

 燃竜の首元に何かが刺さった。空中で動きを止めた燃竜は勢いそのまま、屈んだ少女の上を通り過ぎて壁へと激突した。

 首には麻痺印のナイフ。これを持っているのは少女が知る中で一人しかいない。

「ヒリアさん!」

 突如として現れた魔女帽の薬師は、喜ぶ少女の手首をお構いなしに引っ張りながら怒鳴りつけるように叫んだ。


「速くここから離れて!! 私たちまで巻き込まれる!!」

 巻き込まれる。それはすでにこの状況に巻き込まれていることの言い間違いかとも思えたが、その勘違いはすぐに正された。

 空の向こう側に小さな星屑が光っていた。最初はただの点だったそれだが、次第に裏門周辺を青色へと変色させていく。異様な雰囲気は増していき、遂には音すら消えた。この感覚に、走っている二人は見覚えがあった。

「まさかこれって……!」

「ふせてーーーー!!」

 気づくや否や少女は強制的に姿勢を倒される。しかしそんな暇を与えられることもなく、光の小さな粒が地に落ちていくのが見えた。スローモーションに見えたそれは、先ほど少女が作り出したクレーターの中へと落ちていき、大爆発を引き起こした――!!


 光、そして風、最後に爆発音が体中を覆い、細かい瓦礫が機関銃で撃たれたかのように向かってくる。

「痛でででででででででででででででで!」

 ヒリアは泣きながら激痛に耐え声を上げていた。

 最初の強い衝撃が収まったあとでもなかなか風は止まない。舞い上がる砂埃に大勢の咳が漏れる。

 その場にいた全員は何かを察し、クレーターの中央にあった人影に視線を向けた。砂埃が晴れていき、長身長髪で整った体格の美青年が現れる。

「お兄ちゃん!」

 その言葉に込められた希望は計り知れない。

 お兄ちゃんと呼ばれた青年は神聖な剣を魔物へと向け、戦闘態勢に入る。

 凍ったような冷徹な眼差しに、果たして勝利は見えているのか…………

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