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Quad ~ロボットみたいなお兄ちゃんの生き方は絶対に間違ってる!~  作者: ツネノリ
第三章 勇者ああああと壊れた城の灰かぶり
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3-22 その先は戦場

 一人の少女が、古びた石造りの通路を駆けていた。狭く息苦しい闇の中で息を切らしながら、束ねた髪が解けそうになるほど必死に走っている。

 夥しいほどの継ぎ目が向かう先には小さな光の点が輝いている。あそこが闇の出口、または戦場への入り口だ。

 早く、速くと先を急ぎ、焦りを隠せない少女に一体何があったというのか。


 事の発端は数分前に遡る。

 結婚式の段取りを済ませ、純白の花嫁衣装を着こんだ少女エラは二人の付き人と共に控室にて自らの出番を待ちわびていた。

「いいいいさん、来てくれるでしょうか」

 エラの口から、つい本心が溢れる。というのも、彼女ら一行は時たま長い間姿を消してしまうことがあるのだ。数日いないこともあれば数ヶ月間も目にしないことだってあった。きっと忙しいのであろうが、せっかくの結婚式なので今日だけは来てほしいと思っているのだ。

 彼女の呟きに付き人が話を繋げる。三人の話は盛り上がり、何かの不手際で少し長めとなってしまったという待ち時間を飽きもせずに楽しんでいた。


 控室には大きな木製の両開きの扉が構えており、その向こうは廊下へと繋がっている。

 部屋のすぐ手前で二人の兵士が廊下を駆け抜ける音がした。

「負傷者は何人だ! 女の子が巻き込まれたっていうのは!?」

「情報が錯綜している! 現場に人間を集めろ!」

 兵士たちは、ここが王族の使用する場であることを忘れているほど声を荒らげている。その声にエラが気づかないはずもなかった。


 エラは険しい表情をしていた。嫌な予感がしていたのだ。それは先ほど兵士が言っていた”巻き込まれた女の子”のこと。

 もしかしたらそれは友のいいいいなのではないかと勘ぐってしまったのだ。決して根拠など無いが、彼女たちなら厳重な警備を幽霊のようにすり抜けて突然現れるなんてことも容易に想像がついたのだ。


 エラは俯きつつ無言で立ち上がる。困惑する付き人の視線はドレスを着た少女の後ろ姿に向けられていた。

「何か良くないことが起きているようです。ここは安全ということなので、控室で待つことにしましょう」

 言葉を発して約5秒間、不自然な沈黙に付き人は首を傾げるも、すぐにエラは体を翻した。

「さて、何の話でしたっけ?」


 そして現在に至る。一見、この話といま現在通路を駆けている少女に何の繋がりがあるのか疑問に思うことだろう。その疑問はこの話に”魔法”の概念が絡むことで解決する。

 インテリジェンス・ミラー。彼女は予備詠唱と共にこの魔法を読み上げ、自律して簡単なコミュニケーションが取れる自身の鏡像を作り上げたのだ。

 だがそんな詠唱など一言も発してなどいなかった。それはなんと口の動きで詠唱を、そしてその口の動きのまま全く別の音で声を発していたからである。彼女は付き人に口を見せることなく、何の違和感もなく椅子の前に立ち上がった自身の鏡像に釘付けにすることができたというわけだ。

 彼女はそうまでするほどいいいいという少女が心配だったのだ。まだ巻き込まれた女の子がいいいいだと決まったわけではないが、少しでも可能性があるなら彼女の元へ向かうだろう。そしていまがその状況である。


 通路を抜け、エラの体は全身が光に包まれる。真昼間だからという言葉では言い表せないくらいの強い光がそこに存在していた。

 エラは思わず目を瞑り、聴覚だけを頼りに状況を把握する。

 冷静になって初めて気づいたのか、彼女は聞いたこともない巨大な低音が鼓膜を震えさせる感覚を覚えた。

 視覚はおろか、聴覚さえあてにならない。しかしながら他に争うような音が無いということは、いま現在状況は動いていないということなのか。

 次第に順応してきた瞳を開き、エラは目の前に映る惨劇を目にするため恐る恐る前を見据えた。


 ――――目の前には、蠢く雷があった。

 彼女がいたのは裏門を見下ろせるバルコニー。下にはエラが最も望まない光景が広がっていた。

「……そんな」

 光る鉄柱に囲われた見覚えのある少女。彼女らしくない吐血の痕が口元に見える。彼女は紛うことなきいいいいそのものであった。

「いいいいさーーーーん!!!!」

 体を丸めて自分に出せる精いっぱいの声でエラは彼女の名を叫ぶ。涙が弾けるほどの声を発したエラであったが、いいいいが反応を示すことは無かった。

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