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Quad ~ロボットみたいなお兄ちゃんの生き方は絶対に間違ってる!~  作者: ツネノリ
第三章 勇者ああああと壊れた城の灰かぶり
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3-20 夢現

 眩い光の先。そこには残酷で非情な惨劇の光景があった。

 倒れ伏し血を流す屈強な男たち。象に弄ばれる蟻のように、兵士たちは巨大な体躯の謎の男たちに薙ぎ払われていく。

 生々しい、肉を打つ音。血と汗と吐瀉物が入り混じった不快な臭い。

「うぅっ……」

 口を押え、思わず涙が出そうになった。悲しみの涙ではない。吐き気から来る二次的なものだ。

 なんて臭い……この世の地獄というのは、今この場のことを言うのかもしれない。

 戦場。まさにその言葉が似あう状況であった。


 見れば、大男たちは珍しい武器を持っていた。

 ハルバード。斧のようでもあり槍のようでもある特殊な得物。その汎用性の高さが故に扱いが難しいと聞いていたが、しかもあれはかなりの大型だ。彼らは相当な使い手であるといっていいだろう。

 ――しかし彼らは何の目的があって襲撃などしたのだろうか。

 次第に大きくなっていく剣戟の音、ヒートアップしていく戦場の空気を感じ取った私は、そんな疑問などこの状況で解決するはずがないと察し、赤くなった眼から涙を拭い、敵をまっすぐと見据える。

「っ……!」

 許せない。今日はエラちゃんが幸せになる日なのだ。そんな大事な日を見ず知らずの何者かに滅茶苦茶に荒らされるなんてそんなこと……

 …………戦おう。守り抜こう。だがどうやって?


 現状を確認する。

 私が使える魔法は何か。最も得意な魔法は何か。すぐには思いつかいない。魔法など習い事レベルしか教わってないただの半人前だ。だけど――――

 シールド。私とお兄ちゃんが旅立った日。あの日、魔獣に襲われたとき偶然にも発動した、何かを守る魔法。実力はあの時と何も変わっていないと思うけど、今はあの魔法に賭けるしかない。

 決まった。魔法を使った援護をしよう。私が前線に出たところで邪魔になるだけだ。しかし今の私には杖がない。

 杖は魔法使いにとって、自身のポテンシャルを引き出すための道具だ。強力な魔法使いであれば杖など無くてもある程度の魔法は使いこなせることができるだろうが、それは私には当てはまらない。結婚式に武装などしていけないから当たり前なのだが、この状況では命とりだ。ならば代用品を使うまで。


 見渡すと、第一に兵士たちの剣が目に映った。その瞬間、頭の奥底に眠っていた記憶が蘇る。

 ――剣は、杖にもなる――

 いったい誰の言葉だっただろうか。最近のことではない。ずっとずっと昔、きっと、私が子供のころ記憶なのかもしれない。

 作戦は決まった。戦場に散乱する剣を手に取り、シールドの魔法で兵士たちを後方から援護する。そうと決まれば……!


「ぁぁぁああああああ!!」

 震える足を叩いて走り出す――!!

 あまりにも全力を出しすぎて前方に倒れそうなくらい体に角度がつく。そのままの姿勢で何度も転びそうになりながらもただ駆ける、駆ける、駆ける……!!

 私の足は決して速いものではなかった、学校の体育の授業だって大体平均くらいのタイムだ。だけど今だけは、自分でも速いと自覚できるくらいのスピードが出ていた。

 剣戟の下を駆ける。

 時に私の駆ける足を狙って刈り取ってこようとする斬撃を間一髪で躱す。

 時に泥棒猫の如く大男の股の間を滑り抜ける。

 必死に振り続ける腕の周期をコントロールし、遂に目前へと迫った剣へと手を伸ばす――!

 腕を伸ばし、指を伸ばし、その間に詠唱を開始する。

「盾神よ……」

 作戦通り。あとは剣を掴めば――!

「我に力をあグッ――!?」


 次の瞬間、私の体は宙に浮いていた。川の流れに逆らう魚のように舞う私の下にいたのは……私が見下ろした者は……私を見上げていた者は、邪悪な笑みを浮かべて足をけり上げたまま止まった一人の大男の光景だけだった。

 落下。

「ァグッ……!」

 全身を地面に打たれ、大きな音が体内を伝わる。

 どうやら頭を打ったみたいだ。耳鳴りがする。人間が耳にすることのできる最高の周波数の音が気が狂ったように鳴り続ける。

 ……作戦は失敗。援護はおろか、魔法を使うことすらできずに終わってしまった。


「なんでガキがこんなとこにいんだ? しかし王宮の兵士も落ちたもんだ。しぶとさだけは評価してやるが、俺らがいたころとはまるで質が低いな」

 ……殺される。

 今はそれだけの思考で脳内がいっぱいになっていた。耳鳴りが収まりつつ、自由の利かない体をたたき起こして立ち上がろうとする。

 すると目の前には地面が見えた。美しい白の大理石だ。そこに何かがぽたぽたと落ちていた。

 それは真っ白な地面の所為で余計に目立った、真っ赤な、血液だった。

「……ハァ」

 動揺してしまったのか息が荒くなる。

 怖くて、この血は一体どこから流れているのかが気になった。

 口を拭うと、手には赤がついていた。

 ゆっくり感じていた時間の流れはだんだんと元に戻り、血は自分の口から流れていることに気が付いた。何滴も、止まらない。

 もしかして、内臓がやられた……? それとも肋骨が肺に刺さって……?

「ハッ……ハァ……ゥッ……」

 ……大丈夫、これはきっと、口が、切れただけだから……大丈夫、だから…………!!

 焦りと不安を押し殺すように歯を食いしばる。ぎりぎりという音が聞こえ、とても不快だ。


 腕に力を入れ、地に足をつけ、よろめきながらも立ち上がる。

 なんだか、さっきまでの暑さが無かったかのような感覚だ。寒いわけでもない、暑くもなく、ひたすらに何も感じない。

 私はぼやけた視界で目の前にいる男を見上げた。

 しかしそこには誰もいない。

 まだ多くの兵士たちが、私からは遠ざかったところで戦っている。もしかして、私から距離を取ってくれたということなのだろうか。

 そうだとしたら私はなんという迷惑者だろう。私の作戦は失敗どころではない。邪魔をしただけなんだ。


 ふと、一人の兵士に目が映った。私から一番近くで戦っている兵士。迫りくる大男に必死で抗っている。そして後ろからもう一人――

「うしろ!!」

 咄嗟に大きな声が出た。私の絶叫にその兵士は気づいた。

 気づいたが……一人で二人に、格上の二人に敵うわけなど無い。

 兵士は振り向きざまに斬撃を放つも、ハルバードによって腕を打たれ剣を弾き飛ばされた。

 その時、不思議なことが起こったのだ。弾き飛ばされた剣が消えた。どこかに飛んで行ったのではなく跡形もなく。

 そう思い浮かべていた時には、すでに手遅れだった。剣は、こちらに向かって飛んできていたのだ。

 細身の得物であったが故に見失ってしまっていた。もう目の前まで切っ先が迫っている。

 私は何て運が悪いのだろう。どこに飛ぶかもわからない剣に、綺麗に頭を串刺しにされて死ぬなんて。

 でもエラちゃん比べたらまだましだろう。何年にもわたって苦痛を受ける方がきっとつらい。

 ……ごめんなさい、結婚式を守れなくて。

 優しく目を瞑る。もしかしたら、お兄ちゃんが助けに来るかもなんて思ってみたけど、流石にこの状況じゃ無理があるよね。

 つまらない旅の終わりだったなあ、なんて心の中で言ってみた。

 そして、衝撃音と共に全てが静寂に包まれたのであった。


 …………

 …………私、何か持ってる?

 ゆっくりと瞼を開く。映ったのは私の腕と、握られた剣。


「カソル、トゥルードゥ、サンドラ」

 私の体は勝手に喋り出し、勝手に剣を構えた。

 轟音を響かせ、紫電と旋風を纏いながら、今――――走り出す。

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