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Quad ~ロボットみたいなお兄ちゃんの生き方は絶対に間違ってる!~  作者: ツネノリ
第三章 勇者ああああと壊れた城の灰かぶり
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3-10 魔法勉強会

「たあっ! やあっ!」

「えーと妹……何やってんのさ」


 ヒリアさんはベッドで横になりながら言う。

 あれから宿で休憩し、夕餉を食べ終わったあと、私は何もない空間と対峙して、とある練習をしていた。

「何って、魔法ですよ? ノンチャントマジックです」

「ふーん」


 ノンチャントマジックとは詠唱を必要としない魔法のことだ。この魔法であれば子供でも使うことができるが、とてもレベルの低いもので日常生活では特に役立つことはない。とはいっても、これが魔法を扱う上での基盤となるので大事と言えば大事か。

 しかし、なんでこんな基礎の基礎を練習してたかと言うと……


「いーちゃん最近魔法サボってたんでしょ」

「!」

 ……ヒリアさんに痛いところを突かれて竦んでしまう。

 そう、考えてみれば私はヒリアさんと戦って以降、魔法を一切使っていない。ここまで歩いていくまでに練習しておけばよかったと後悔するが、あの時はそんなことに一切頭が回らなかった……うん、もう過ぎたことなんだからしょうがない。練習を続けよう!


「大丈夫です! 今日からちゃんと練習しますから。旅にも慣れてきたことですし」

「それならいいけど、ノンチャントマジックって初歩の初歩でしょ? エラちゃんに教えるのにそんな状態で大丈夫?」

「な、なんでそれを!?」

 なんでもいい当ててくるヒリアさんに大声で驚いてしまう。後に冷静になって考えてみれば、かなりの近所迷惑になってしまったのでは無いかと反省している。


「もう、分かりましたよ。あんまり上手じゃないの見られたくないから確認してたんです」

「ほほ~う感心するね~」

 とは言っても、ノンチャント――Eランクを超えるレベルの魔法はそれなりに危険が伴う。例えば火の魔法を使って布や木材に燃え移ってしまっては大惨事だ。


 私は家から持ってきた耐熱の器をバックパックから取り出し、床へと置いて動かないように固定した。

 今から使うのは火の魔法。Dランク程度ならば火災になることはないだろう。と言っても、私はまだDランク認定されたレベルなのでCランク以上は実力的に無理なのだが……


 まずは集中するために瞑想を始める。

 魔法は想像力が大事だ。私は魔法学校という、いわば小さな習いもの教室で教わったのだが、そこの方法だと、まず心身を落ち着かせることで頭の中に空間を作り、想像する余地を与えるところから始めるのだ。しかし、これはウィッチ街のような魔法が必修のところでは生活の一部にまで落とし込んでいるらしく、私のようにこんなに時間を掛けないらしい。聞いた話では一秒もかけずに詠唱をできる状態までメンタルをコントロールできるのだとか。

 ちなみに私は詠唱準備一秒縛りなどという遊びを友達としていたが、大体十発に一回成功するかしないかくらいだったので彼らの平均がどれだけ高いかが見て取れる。


 と、瞑想を始めてから数十秒立ったところであることを思い至った。ここはウィッチ街出身のヒリアさんにコツとかを教えてもらえば早いのではないか!?

 瞑想中だというのにあっちこっちに気が行ってしまうのを悪い癖だと思いながらも、私は中断してヒリアさんに話しかける。

「そういえばヒリアさんは魔法のコツとか知らないですか? 面白い魔法とか。私はウィッチ街でいう初等の魔法しか知らなくて……」

 自分の実力の低さに恥ずかしさを覚えながらも真剣に相談を持ち掛ける。しかし彼女から帰ってきた返答は予想とは違うものであった。


「って言われても、私は魔法使えないからね~」

 彼女はそう言って、少しだけ遠い目をしたような気がした。

 思い返せば、この街に来る前に森の中で魔法が使えないと言っていた。それは魔法使いよりも向いている薬師になったから高度な知識が無いということだろうか。

「薬師なんでしたね。でもウィッチ街なら学校とかで習ったんですよね? それでもいいので是非!」

 そう私が言うと、彼女は起き上がり、ベッドの上で神妙な顔をしながら話し始めた。


「そうじゃなくて、私は魔法を一切使うことができない体質らしいの。医者はそう言ってた」

「そう……なんですか?」

 それは初耳だ。それはヒリアさんがそういう体質だということもあるが、それ以上にそんな人が世の中にいるということに対してのことだったのだ。

 私たちの住んでいる、比較的魔法文明が発達した国ではそうそういないが、機械文明が発達しているような国では魔法を使うことがほとんどないので単純に技量の問題で魔法を使えないという人はよくいるという。もちろん、その土地の魔力の濃度という問題もある。しかしそんな人でもウィッチ街などで勉強すればそれなりには魔法を使えるようにはなるだろう。私だって習い事を始める前は一切使えなかったし。


「原因は不明らしいのよね。魔法が使えないってことは、もちろんノンチャントすら発動しない。過去を遡るとほんの数件は事例があるけどサンプルが少なすぎてどうにもならないって話よ」

 そうだったのか。しかし、あのウィッチ街で魔法なしに学校を終えることなど可能だったのだろうか。

「でもウィッチ街って魔法が必修の地域なんですよね……ヒリアさんは大丈夫だったんですか?」

 そう聞くと、彼女は少し笑みを浮かべて昔の思い出を話し始めた。


「そうだねー。私も最初は何で使えないのってすごく悔しかったけど、周りが何とか調整してくれたみたいで学校は卒業できたよ。魔法には想像力と意志力……夢が大切だって言うけど――不思議だよね。想像力も意志も、人一倍強かったのに、なんで、ダメなのかな」

 彼女の眼に少しばかりの輝きが見えたような気がした。

 もしかしなくても私、地雷を踏んじゃった!?

「ごめんなさい、私何も知らないで」

 ヒリアさんを悲しませてしまったのではないかと思い、咄嗟に謝る。

「いいってことよ! 考えてみれば、私もいろいろ溜まってたのね。あんな馬鹿げた事件起こすなんて、今は反省してる。今はダーリンがいるしねー」

 彼女はお兄ちゃんが寝ているベッドを見ながらそう言った。


 さっきまでの悲しい口調から一転して、彼女はいつものような明るいテンションで話を戻し始める。

「ま、一応授業で話は聞いてたから、それくらいは教えられるかもね~」

 その言葉と共にポケットから紙片を取り出すと、洗練された手つきで複雑な魔法陣を描いていく。

「す、すごい……! 職人技です!」

「合ってるかどうか分からないけど」

 彼女は作業しながら、そんな弱音を漏らした。

「なんですかそれー」


 私は会話をしながら、そのヒリアさんの丁寧な描写に見とれていた。

 魔法陣が九割方完成した辺りで、私はあることを思い出した。

「ところでヒリアさん、地下室では魔法を使ってましたよね。あれってどうやったんです?」

 彼女は魔法を使えない、ということだ。だから疑問に思った。あの時は強大な魔法を連発していた筈だ。その単純な疑問について、彼女はまだ言ってなかったかというように答えてくれる。

「あれは知り合いに作ってもらったの。私が魔法陣を書いて、そこに魔力ポンプを作ってもらって、後は音声とかのコマンドで発動する。どう? 魔法が使えなくても頭を使えば何でもできるのよ?」

「それだけであんな大魔術が使えるなんて……感服しました……」


 そんな話をしている間にいつの間にか陣の作成は完了していた。細かい部分を書き終えると同時にヒリアさんは大きなため息をついて倒れる。

「ああ~疲れた。久々に描いたから結構頭使うな~」

「そんなヒリアさんに肩もみをして上げましょう!」

 私はベッドに乗って後ろへと回り込み、彼女の首元へと手を回す。

「止めなさい! 私まだ若いお姉さんなんだから! そんなオバサンみたいなことしないのー!」

 いろいろと面倒なプライドがあるようで、私の好意は受け入れられることはなかったようだ。


 彼女はベッドを離れると休憩がてらとお兄ちゃんが先ほど買ってきた荷物の袋を漁りだす。

「手癖が悪いですよヒリアさん……」

「疲れたことだし、お兄さんが買ってきたものでも見るってのはどう? きっと私たちが使うものも買ってきたんだろうし」

 そう言いながらも後ろめたい気持ちはあるようで、二人で恐る恐るお兄ちゃんの方に首を回す。……あれ? 目が明いてる? でも全く動かないし仰向けのままだけどどういうこと!?

「きっと目を開けたまま寝てるのよ……きっと……きっと……」

 こちらの困惑している空気が伝わったようで、ヒリアさんも冗談なのか本心なのか感想を漏らす。しかしお兄ちゃんのことだから、ヒリアさんが言ったことも満更冗談ではないと思われる。


 しかし、お兄ちゃんが怒ることはないだろうということで道具の確認は始まった。

 中に入っていたのは当然ながら、この街の武器屋防具屋で販売していた最高級品の装備だ。さっき歩いているときに見たから間違いない……!

「一体どこでこんなに儲けたのかな……」

 疑問を思い浮べながらも購入した品を整理すると、私のサイズと思わしき装備が目に入った。

 それは魔法使いというよりは魔法戦士に近いものだった。ところどころにプロテクターのようなものが縫い合わされており、あまり派手に動いてもケガをすることはなさそうだ。

「……ありがとう。お兄ちゃん」

 ベッドで死んだような寝方をしているお兄ちゃんに感謝を告げる。


「これは私の武器ねぇ! 切れ味の良さそうなナイフじゃん!」

 ヒリアさんの物であるらしいナイフの鞘には何やら痺れるようなマークが施されている。もしや相手をマヒさせる能力があるのだろうか。

「そのナイフ、属性付きですか?」

「うーんそうみたいね。私の薬品をかければさらに効力が増すかも」

 その後もいろいろと漁ってみたのだが、他には能力を高める薬であったりと私たちの物ではなさそうであった。


 最後の確認ということで、ヒリアさんが袋を逆さにして振るとひらひらと何かのチラシが舞い落ちてきた。

「これは……魔法兵募集、ですか」

 どうやらこの街では魔法兵が不足しているようだ。チラシにもかなりの熱量で募集の文が書かれているのを見ると、十分な必死さが伺える。


 よく考えてみれば、城門には警備の魔法兵を置いたりするのが普通だが、この国の城では一般兵のみであった。先ほどエラちゃんと会話したときも、この地域では魔法使いが珍しいということを言っていた。

「土地の魔力は十分あると思うのに……この辺りには何故、魔法使いが少ないんでしょう?」

 私は単純な疑問をヒリアさんに投げかける。

 すると彼女は持っていたペンを振りながら少しばかりの解説を始める。


「言ったでしょ? ここは魔法で再現された世界。強い魔力を感じるのは空間自体が魔法で作られたものだから当然の話ね。もともとこの地域には魔力が少なかったのよ。いーちゃんの住んでたところよりもね」

 そこまで言うと、彼女はこちらに向き直し、目を細めて真剣な表情をして話を続けた。

「だから気をつけなさい? この空間の主とは近いうちに戦うことになる。それはそれは強大な魔法使いだから、それまでに仕上げておきなさい?」

 強大な魔法使い……それはお兄ちゃんを超えるほどの相手なのだろうか。今の私たちに勝てるだけの相手なのであろうか……


 しかし、それよりもその空間の主の目的や動機が分からない。ここはフランク・ローランス王国という既に滅びた国の跡地だ。広大な荒野が続き、得られるものなど何もないだろうに。

 その主が皇国の手先だとしても辻褄が合わない。この行為に意味はあるのだろうか。

「その人は、なんでこんなことをしていると思いますか?」

 ヒリアさんはこのことについてどう思っているのか聞いてみる。

 一呼吸おいて、彼女は城の立つ方向に体を向けて静かに呟いた。


「そうね。孤独、だからかな」

 ――何故だろうか。その言葉から連想されたのは、まるでガラスのような、あのエラという少女の姿であった。

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