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Quad ~ロボットみたいなお兄ちゃんの生き方は絶対に間違ってる!~  作者: ツネノリ
第三章 勇者ああああと壊れた城の灰かぶり
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3-4 不法侵入大作戦!

 ガラガラと車輪が石畳を踏みしめる。今は音だけではなく、その振動までもが体に響いていた。

「……これで本当に大丈夫なんですか!?」

 前で馬を操るヒリアさんに向かって、いま一度小声で確認をする。


 私たちは今、馬車に乗っている。元の持ち主は眠らせ、その綺麗な服を剥ぎ取って……もとい貸して貰って城門を通るつもりだ。ちなみに持ち主を眠らせるために使った薬品はヒリアさん曰く安全らしい。

 何はともあれ、ここまで来たからにはやるしかないが、実際に実行に移った途端、体のあらゆるところで不安の気持ちが犇めいてきた。例えば、震える声。私は城門にてある程度受け答えをしなくてはならないが、こんな状態で成功などあり得るのだろうか。


「……いーちゃん、もし本当にヤバいんだったら……オススメはしないけど不安がなくなる代わりに五感を失う薬あるけど……」

「飲みません!」

 冗談なのか本気なのか、曖昧なトーンで提案される。


 ヒリアさんはとりあえず馬を操る人、すなわち御者の役割をして、潜入後に貴族のドレスに着替えるらしい。しかし彼女は黒の紳士服を着ているのだが、男装が様になっていてとてもよく似合っている。

 私が不安な顔で俯いているのを察知したのか、ヒリアさんは御者台から合図を送ってくる。

「ばっちし! 問題ないってば」

 こっちに見えるように親指を突き上げている。なんだかヒリアさんらしくて少しだけ安心したかも。……ありがとうございます。


 泣いても笑っても馬は進む。いつの間にか私が見下ろす位置には城を警備する兵士が立っていた。平民を見下ろすこの感覚……これが貴族の目線なのか!

「お名前を確認してもよろしいでしょうか」

 兵士の一人が話しかけてくる。いかにもマニュアル通りといった対応だ。


「パッ、え……と、ペローです」

「ペロー家のお嬢様ですね…………えーっと、お母様はどうされましたか?」

「アッ! ハイ! お母様はコンビニで買い物ィ!」

「は? コンビにデカい物胃?」

 失敗した! 嗚呼、失敗した失敗した失敗した!

 貴族ならコンビニじゃなくて高級スーパーだった!! ……もしかしてそれも違う!?

「あはは、お母様がいないから緊張していらっしゃるのですよ。」

 すかさずフォローを入れるヒリアさん。いつものナハハな笑いも抑えてる当たり流石だ。

「そうでしたか、すみません。ところで貴女は見ない顔ですね。ペロー家ですから彼の白髭のダン様が馬車を走らせるのだとばかり……」


 !? 白髭のダンってなに!? 本来の御者さんはそんな人じゃなかったと思うけど……!

 これは私たちを疑うが故のブラフなのか、それとも本心からの言葉なのか……まさか庶民の知らない貴族間のみで行われる暗号のやり取りなのか。ダメだ、この状況でいくら考えても裏があるようにしか感じない……!

 ボロボロと海岸線のサンドアートのようにメンタルは崩れていく。それに比例するかの如く思考は真白に、そして汗が滲み溢れてくる。

 こちらに向けられる目線は全て、懐疑的なものを含んでいる。そう感じるのは私の錯覚か、それとも真実か。馬車の周りを取り囲む兵士たちの目線が一斉に突き刺さる。それはまるで錆びた釘のように頑丈に食い込んで離れなかった。

 もう終わりだ。どのみちこんな心理状態では確実に怪しまれるだろう。仕方ない、ここは強行突破しかないのか……!


 そう思った瞬間、全く予想外の人物から声がかかった。

「おお! シャルロットお嬢ちゃんじゃあないかあ! ずいぶん大きくなったなあ、覚えているかな?」

「お、王様!?」

 まさか。私は彼の顔をよく知っている。彼は私の国で一番有名であるといっても過言ではない人物。彼こそまさしくパプライラ国の王である。

 綺麗に整られた口ひげ、魔法国家を象徴する唯一無二の宝石の杖、国民を優しく見つめる垂れ目、でも少しだけ雰囲気が違うような……?


 私はすぐに馬車から飛び降りて首を垂れる。

「ははー!」

「おやおやあ、そんなに畏まらなくて良いんだぞう。何代も前からの仲じゃあないかあ」

 王様は語尾を伸ばした口調で気さくに話しかけてきてくれた。しかしそんなことを言われても、平民の私が王様と会話をするなんて緊張しすぎて無理な話だ。というかなんで私のことを知っているのだろう。それとなんでここに王様が?


「パプライラ王! 馬上から申し訳ありません。すぐに入場の手続きを済ませますので。さあ、シャルロット様」

 はっ! そうだった、私はいまシャルロット・ペローという貴族のお嬢様のフリをしているんだった! あまりの驚きに一瞬忘れてしまった。しかし王様、私のことをシャルロット嬢と勘違いをしているのだろうか…………

「おお、そうであったかあ。それなら問題ないぞう。君たちい、早く通してあげなさあい」

「は!」


 なんと、思わぬところから救いの手が差し伸べられたようだ。なんという幸運か。でも例え運がよかったのだとしても感謝だけはしておきたい。

「ありがとうございます、王様!」

「なあに、早あい方がいいだろう」

 王様は案外、喋り方から連想させるのんびりしたイメージではなく、しっかりとした人なのかもしれない。


 私は馬車へと戻り、その拍子にヒリアさんに目を合わせると、彼女は上手くいったと言わんばかりにウインクを返した。

 兵士が端によって道が開かれる。

 難関突破! よし、待っててね、お兄ちゃん!

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