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Quad ~ロボットみたいなお兄ちゃんの生き方は絶対に間違ってる!~  作者: ツネノリ
第三章 勇者ああああと壊れた城の灰かぶり
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3-2 森の中の朽ちた城

 果てなき荒野をひたすら歩き続ける。

 私たちがウィッチ街を出発してから約半日、緑の綺麗な草原は夢であったかのように消え、その翌日になると代わりにこの茶と黒の入り混じった、生命の息吹を全く感じさせない荒野が現れた。

 暑さの所為か、時たま転がっている干からびた動物や魔物の死骸の所為なのか、私たちは体力とともに気力まで擦り減らしていた…………お兄ちゃんを除いて。


「……」

 こんな荒野のただなかですら表情一つ変えず、歩幅も速度すらも変えずに目的地へ向かっている。それは後ろに続く私たちには物凄く辛いことで、この相手のペースに合わせる感じは学校で毎年行うシャトルランのようだ。あれは正直苦手……

「足が痛い~もう無理~」

「へこたれてんじゃないよ若者! ハアハア……兄ちゃんを見てみな、弱音どころか顔色一つ変えずに歩いてるじゃないの! ……ハアハア」

 私が弱音を吐くたびにヒリアさんが鼓舞する。その年齢……もとい経験の多さからか私よりも強いメンタルを持っているようだ。しかし、かく言う彼女も大分体力の限界が来ているらしい。途中で倒れないといいけど……


「ところでいーちゃん、その背負ってる兜はなんなの?」

 喋って疲れを紛らわせる為か、ヒリアさんは突然話題を振ってきた。

 話の中心となったのは、このパプライラ王国騎士団員指定の兜だ。それもその筈。戦士が持つ兜をなぜ魔法使いの私が持っているのかというのは単純に疑問だろう。

「こ、これには浅い訳がありまして」

「なになに?」

「これしかなくて……しかもお兄ちゃんから貰ったので捨てるに捨てられなくて」


 ヒリアさんはふーんといった表情で兜と私を交互に眺め、そしてニヤニヤしながらあることを提案してきた。

「そうだ! それ被ってみなよ! 絶対似合ってるって!」

 薄ら笑いでそう言うヒリアさんは完全にこちらを弄ってきている。

「もう! 似合ってないのは私が最初に確認してます!」

 語尾を強めてハッキリと断るも、彼女の提案はしつこく終わりが見えないため仕方なく被ることにした。


「ナハハハ! 似合ってる似合ってる! いーちゃん最高にカッコいいよ~」

 んんん~暑いし恥ずかしいし……もう嫌! 

「ナハ! ナハ! ナハハハハハハハハハハぐげぇ!!!???」

 と途中で絶命した。そう思えるような声を上げ、ヒリアさんは地面にて仰向けに倒れていた。


「ヒリアさん!?」

 前を見ると、ヒリアさんの前にはレンガでできた建物の残骸があり、それに顔を思い切りぶつけてしまったようだ。前方不注意、ただの自業自得である。

「はー痛い痛いいててて」

「もう、馬鹿にした罰が当たったんですよ!」


 ヒリアさんは痛がりながら立ち上がると、いつになく冷静な雰囲気で佇んでいた。

「ここまで来たかーもう近いわね」

 服の埃を掃いながら言うと先ほどとは打って変わり、静かにお兄ちゃんの向かう方向へと歩き出す。

「急にどうしたんですか?」

 私はそう聞いた。だがその言葉を発した一・ニ秒間の中で、私たちは理解できない現象に見舞われた。


 周りに広がるのは深い森。陽の光を僅かながら取り入れ、光と影が隣り合う神秘的な自然が広がっていたのだ。

 驚いて周囲を見回していると木の枝に乗ったリスを見つけた。

 リスは視線を感じたのか、いったん私の方を見つめると直ぐにそっぽを向いて走り出す。枝から枝へ、木から木へと駆け抜ける様子を見て実に器用だと感心してしまう。やがて枝から幹へと移動し下へと伝っていくと、周りに木のない小さな広場のようなところに降りた。


 広場の中央には低い切り株と、その上に腰かけた黒いローブの老婆がいた。

 リスは老婆の膝へと駆けあがる。

 こんな荒野になんでお婆さんが? ……森だけど。

 私は駆け足で老婆の方へと向かったが、どう話しかけていいか分からず数秒立ち尽くしてしまった。そしてまずは助けた方が良さそうだと思い話しかけようとしたとき、老婆の口は開いた。


「貴女も、愛を奪われたのね」


 まるで千年を生きた大樹を思わせるような嗄れた声で、彼女は話しかけてきた。

 言われた意味が分からずに困惑していると、彼女はもう一度、口を開く。


「あの子を、助けてあげて」

 そう言い残し、私の視界に残ったのは、切り株の上にリスが乗っている光景だけだった。


「妹―! 変なとこ行くと迷子になるぞー!」

 あっけにとられていると少し遠くからヒリアさんの声がする。

「はーい!」

 私は来た道を戻り、声が聞こえた方向へと向かった。


「ヒリアさん、なんで森が」

 そこで私は言葉を止めた。

 ヒリアさんの位置まで進むと、そこには一国に建つような大きな城がそびえ建っていたのである。しかしそれは、人が住んでいるような気配が全くしないような朽ちた城だった。

「ここにはかつて国があった。何百年も前の話だけどね。まあ詳しい話は彼女に聞けばいっか! さ、行きましょ」

「ちょっと、何が何だか全く分からないんですけど!」

 何も説明してくれないまま、ヒリアさんはローブをはためかせながら城へと進む。


 すると突然、周囲に目を瞑りたくなるほどの眩い光が広がった。

「ヒリアさん!」

 既に奥まで進んでいたヒリアさんが心配になり声をかける。

「なにこれ! ちょ、どうなってんのさ!」

 いままで余裕そうにしていた彼女にとっても、これは予想外の出来事だったみたいだ。

 と、私はあることを思い出し、ヒリアさんに提案を持ち出す。


「ヒリアさん魔法を! 魔法で何とかして下さい!」

 そう、この前の戦いでヒリアさんは強大な魔法を使っていた。ならこんな局面でも対処できる何かを備えているかもしれない……!


「え? 魔法使えないけど?」

 ……え?

「でもでも! 前にすっごい魔法使ってたじゃないですか!」

「私ただの薬師! 魔法ならあんたが何とかしなさいよ!」

「そんな!」


 一体全体どういうことなのか。

 目の前で危機が起こっているにも関わらず、私は何処から何を勘違いしていたのかという思考が頭の中を巡った。と同時に、私たち三人は完全に光へと飲まれる。


 お兄ちゃん……!

 何も見えない中、咄嗟に手を取る。絶対に離れないように、そしてお兄ちゃんに助けを求めるように。

 私はそのまま、ぎゅっと子供のようにしがみついた。

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