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Quad ~ロボットみたいなお兄ちゃんの生き方は絶対に間違ってる!~  作者: ツネノリ
第二章 勇者ああああとバレンタインの魔女
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2-4 市長からの依頼

 木材がミシミシと壊れる音。勢いよく開けられては閉められる箪笥の音。


「其方が噂のパプライラの勇者か! 単刀直入だが頼みたいことがある」

 突然の来訪者に話しかけるこの小太りの男こそ、ウィッチ街含むマギ市の長のマジ・ノースである。


 彼は客間から離れた奥の方で物音を立てながら物品を漁る勇者へと、そのことに何も注意せずに話を持ち掛ける。

「今この街では事件が起きている。それを其方に解決してほしいのだ」

「……」

 聞こえているのかいないのか。勇者は返事をすることなく家を漁りつくす。既に違う階にまで手を付け始めたため、市長も声を大きくして話しかけていた。


 家の内側は流石魔法使いの家というだけあって、白い炎が館内を照らし、壁一面が魔法の書で埋め尽くされている。しかもいたるところに光る液体の入ったフラスコが置かれており、それはインテリアか、または何かの儀式に使われる触媒なのか。

 そんな不思議な空間を歩き回る勇者の姿はあまりにも危なっかしいように見えるであろう。だが見るものが見れば、その動きはあまりに人間離れした効率の良さであり、全ての危険の要因を回避して行動しているのだという。


「バッドウィッチ伝説。かつて、魔女の姿をした悪魔が若い人間を攫った事件。街を混乱に陥れた醜悪な事件だ。……悪魔が蘇ったとは思わぬが、実際に多くの被害が出ている。彼の皇帝による審判は仕方のないことだが、その前に卑しいものにより犠牲が出るのは許せない」


 異常事態だった。それは伝説を再現した事件……のことではない。

 確かに街の若い人間が次々に誘拐されていくのは異常なことであろう。

 だがそれよりも、この市長は諦めているのだ。

 市長だけではない。街にいる全員が、彼の皇帝による最後の審判という結末を「しょうがない」という一言で認めているという現状があるのだ。


 そんな状態に勇者は何を思うのか。

「……」

 その口は何も発さず。

 皇帝を倒すために存在しているといっても過言ではない彼は、何の意見も質問もなく、ただひたすらに道具を集め整理する。

 それが彼なりのやり方なのだろうか。感情を捨てて皇帝を倒すことに注力することこそが。


 すべての作業が終わると、勇者は扉の前へと向かった。それは外につながる扉であり、彼は話が終わっていないにも関わらず外へと飛び出した。


「頼む! どうかこの事件を解決し、安心できる街を取り戻してくれ! パプライラの勇者よ!」

 声は誰もいない空間へと響き渡る。その言葉はまるで決められた台詞のように、勇者がいなくなった後であっても読み上げられたのであった。


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