第7話 雨の日の嵐
「あ」
ある日の朝、結衣は昇降口で透子とばったり出くわした。
彼女はいつものように、こちらを冷たい目で睨む。
また何か言われるのではないかと身構えたが、透子はふいと顔を背けると、そのまま行ってしまった。
特に何もなかったことに安堵しつつ、取りつく島もない彼女の後ろ姿を眺めていると、
「朝っぱらから容赦ないな~真島さん」
不意に背後から訛り混じりの声が聞こえる。
振り返るとそこには、呆れた表情の橘雛乃がいた。
突然の先輩の登場に結衣は慌てて、頭を下げる。
「おはようございます、橘先輩!」
「おはよーさん。真島さんは教室でもあんな感じなの?」
「ま、まあ私は特にって感じです」
「特にって……ひょっとして二人は昔からの知り合いだったりする?」
「いえ、会ったのはこの学校に来てからです」
そこで雛乃は、結衣に疑いの眼差しを向ける。
まあそれはそうだろう。出会ってまだ一月も経っていないというのに嫌われている人間がいたら、ひょっとして嫌われている方に何か問題があるのでは? と思われかねない。
「先輩、一応言っておきますけど私は何もしてませんから。出会った時からああだったんです」
正確には、自分が名前を名乗った時だったと思う。まさか自分の名前が気に食わなかったとでも言うのだろうか。
「それはまた随分と理不尽な話」
「そう、理不尽なんです!」
想定外に出てしまった大きな声に、周囲の生徒の注目が結衣へと集まる。周りの視線を受け、結衣は顔を赤くして小さくなった。
そんな様子を見て雛乃はクスクスと笑う。
「まあまあ、そう朝から興奮しないで。ほら話しながら教室行こか」
二人は上履きに履き替えると、並んで廊下を歩く。
結衣は雛乃の顔をちらりと見やる。
彼女の肌は白く、優しげな瞳の上で長いまつ毛が揺れている。部活の自己紹介では確か京都出身だと言っていたが、これが京美人というヤツなのだろうか。
時折、廊下をすれ違う男子たちがこちらを振り返るが、もれなく全員、自分ではなく雛乃の方を見ているのがよく分かった。ちょっと腹がたった。
「でも渡瀬さん、あんな態度取られてよく怒らないね」
「え?」
「出会って間もないのにあんな風に冷たくされたっていうなら、喧嘩の一つにでもなりそうなものじゃない?」
「あー……まあ、それはその……」
その疑問にどう答えようか、結衣は宙に視線をさまよわせて悩む。なんだか下手に隠し立てすると余計に突っ込まれるような気がして、ここはオブラートに包みながらも正直に答えることにした。
「ええと……昔ちょっと友達関係で色々あって、あんま自分から強く出られないっていうか……」
「……ふーん。まあ、そういうこともあるか」
ありがたいことに雛乃はそれ以上、追及してくることはなかった。彼女は自然と話題を切り替える。
「しかし、真島さんってすごい電依戦プレイヤーなんだよね?」
「中学の時は三年間日本一。ずっと敵なしって話ですからね」
無茶苦茶な話だと思うが、才能というものなのだろう。
決して自分には縁のないステータスだ。
「あたし不思議なんだけどさ、なんでまたそんなすごい人がウチの学校なんかに来たのかな?」
「たしかに……」
雛乃のもっともな疑問に結衣はうなずく。
青南高校はお世辞にも進学校とは言えない。学力は県内でも平均レベル。それに電依戦だってここ数年は目立った実績があるわけじゃない。むしろ一度、廃部になっていたくらいだ。
電依戦で優秀な成績を収めた彼女ならば進学先だって引く手数多だろうに、それが何故わざわざこの学校に……。
「渡瀬さん?」
雛乃に声をかけられて、結衣は自分がすっかり考え込んでしまっていたことに気がつく。
気づけば二人は、二年生の教室がある階までやって来ていた。
「あたし、ここだから」
「あ、はい。すいません、ボーッとしちゃって。色々とお話ありがとうございました」
頭を下げる結衣に雛乃はひらりと手を振ると、自分の教室へと向かって行った。
* * *
結衣が電依部に入部してから三週間。
少しは部活にも慣れてきたという時に、結衣と透子は綴に呼ばれて彼の座る机の前に立っていた。
窓から見える空は鉛色をしており、季節外れの大雨が降っている。
「で、なんの用ですか、部長」
透子がぶっきらぼうに尋ねる。
結衣と透子が出会って一ヶ月以上が経つというのに、未だ二人の溝が埋まる気配はない。
今もこうして結衣のとなりに立たされていることが腹立たしいのか、透子は綴相手にも険のある態度を取っていた。
だが当の綴本人は、そんな彼女の態度を気にする様子などなく、いつもの優しい眼差しを二人に向けている。
「突然ですが、お二人は堺高校をご存知ですか?」
「……たしか埼玉にある電依戦の強豪校でしたね」
透子の言葉に綴は小さくうなずく。
堺高校は川輿市の隣の市にある中高一貫の私立高校だ。透子の言う通り電依戦の強豪校で、毎年多くの優秀な電依戦プレイヤーが電依部に入部している。二、三年に一度の割合で、高校電依戦決勝進出者を出している電依戦の名門校だった。
「我々青南高校の電依部は毎年この時期に、堺高校と電依戦の親善試合をしている……らしいのです」
「らしい?」
曖昧な言い方をする綴に結衣は首をかしげる。
「と言うのも我々は先輩たちから正式にこの部活を引き継いだわけではありません。そのため、それまで先輩方が一体どのような活動をしていたのかについてまったく知らないのです。この話も堺高校の方からうかがって初めて知ったくらいでして」
「なるほど」
そうだった。青南高校の電依部は、短い期間とは言え一度は廃部になっていたのだ。同じ電依部のようであって、厳密には同じ電依部ではない。
きっと、綴たちも親善試合の話を聞かされた時には寝耳に水だったのだろう。
「それでここからが相談なのですが、お二人には今度行われる堺高校との親善試合に出てほしいのです」
「構いませんよ。ああ、そこにいる人は役に立たないでしょうから、別に私一人でも問題ありませんが」
透子は嘲るような視線をこちらに向ける。
そのあからさまな言い方には腹が立ったが、言い返すこともできずに結衣はぐっと堪えた。
「……えーそれがですね、親善試合は向こうからの希望で二人一組……つまりタッグでの電依戦ということになりそうなんです」
「タッグ」というその言葉に、透子の表情が一瞬曇ったのを結衣は見た。
「そこでここからが相談なのですが、親善試合には真島さんと渡瀬さんでタッグを組んで出ていただけないでしょうか」
「お断りします」
間髪入れずに透子は綴のお願いを撥ねつける。
学校にもよるが、電依部には基本的に上級生と下級生との間で、体育会系の部活ほどの厳しい上下関係はない。ただそれでも、一応の上下関係は存在するのだ。
それにも関わらず、上級生である綴のお願いを下級生である透子が一蹴する。そんな初めて見るような光景に、結衣は驚愕すると同時に改めて思い知らされる。
(そこまで嫌われてるのか私……)
そう肩を落とす結衣のとなりで透子が続ける。
「タッグで、という向こうの希望があることは理解しましたが、だからといってどうして私が彼女と一緒に戦わなければならないんですか? 篠原先輩や橘先輩だっているでしょう」
「……いくつか理由はありますが一番の理由は、堺高校との親善試合は一年生同士がやるものだと決まっているから、でしょうか」
「それなら向こうは二人、私は一人で十分です。これは不要」
「……ちょっと真島さん」
自分を「これ」呼ばわりする透子に対して、いくらなんでもと結衣は抗議の声を上げる。しかし、透子に悪びれた様子は微塵もない。
そんな彼女の様子を見て、流石に綴も呆れたようにため息をつく。
「もちろん電依戦に詳しい真島さんならお分かりでしょうが、そういうわけにはいきません。ルールはルールです。……それに対戦相手を知ったら、真島さんも考えが変わると思いますよ」
「対戦相手……?」
そこまで言ってから透子は何かに気づいたように息を呑む。
彼女の反応に、綴は満足気に微笑んだ。
「不知火彰人。それが今回のお二人の対戦相手です」
それではよろしくお願いしますよ、とだけ言い残すと綴は椅子から立ち上がって、そのままどこかに行ってしまった。
残された二人はしばらくその場に立ち尽くす。
たしかに綴は、今度の対戦相手が不知火彰人だと言っていた。
(まさか、ここでその名前が出てくるなんて……)
結衣は眉間にしわを寄せる。
不知火彰人。埼玉県で電依戦をやっている中高生の間で、彼の名前を知らない者はいないだろう。彼は昨年、埼玉県の電依戦中学生大会で優勝し、同年には県の代表として全国大会に出場したほどの実力者だった。
そうか、彼は堺高校に進学していたのか。
結衣はちらりと透子に視線を向ける。
しばらく難しそうな顔をしていた透子だったが、やがて小さく息を吐くと、
「……仕方ない。ついて来て」
こちらに向かって人差し指でついてくるよう合図をする。その犬のような扱いに結衣は眉をひそめるが、どうせ自分の苦情など彼女は聞き入れてくれないだろう。もう半分諦めていたので見なかったことにした。
透子は適当な席に座ると、自分の向かいの席を指さす。
「座って」
言われるがまま結衣は透子の指す席に腰を下ろす。
正面に座る透子は普段通り――いや普段以上に不機嫌そうな表情だった。
そんな相変わらず険しい彼女の態度に、結衣は不安を覚える。
中学時代、結衣は一度だけタッグを組んで電依戦をしたことがあった。だが結果は惨憺たるもので、パートナーの子を酷く怒らせてしまった。
あれから誰かと組んで電依戦をするというのは避けていたのだが、久しぶりの相手が、よりにもよって透子だというのは不安でしかなかった。
「ねえ、話聞いてた?」
その声に我に返った結衣は、思わず驚きの声を上げてしまう。
いつの間にか目の前に透子の顔があったのだ。彼女は前のめりになって、その白い顔を赤らめながらこちらを睨んでいた。
あまりの距離の近さに心臓が跳ね上がりそうになる。
「ご、ごめん……考え事してた……」
そう言ってうつむく結衣に対して、透子はわざとらしく大きなため息をつくと、再び椅子に腰を下ろす。
「もう一度言うけど、二人一組の電依戦ではどちらか一人が強くても駄目なの。……まあ雑魚相手ならそれでもいいけど、もしも部長の言う通り、本当に不知火彰人が相手だというのならそうはいかない。いくら私でも彼に加えて後もう一人を相手にするのは、あまりに難易度が高すぎる。だから、あなたにも少しは戦えるようになってもらわないと困るの」
「う、うん」
全体的にやや上からの物言いが気になったが、これから一緒に組むパートナーと余計な荒波を立てても仕方ないと、結衣は特に何も言わないことにした。それに彼女が言っていることは間違っていない。一人で実力差のない敵を複数相手にするというのは、電依戦においては至難だ。一人では駄目。二人で戦えるようにならなければいけないのだ。
「それじゃ、とりあえず試しに一度適当な連中とタッグマッチ戦をやってみましょう」
そう言って透子は電依戦の設定をすべくターミナルを立ち上げると、操作を始める。
電依戦は、オンライン上に用意された電依戦フィールドで行われるため、顔を向かい合わせた相手以外の知らないプレイヤーとも戦うことができるのだ。
やがて設定が終わったようで、結衣のナノポートに電依戦招待の通知が表示される。
あまり気は進まないが、こうなっては覚悟を決めるしかない。
嫌な予感を覚えながらも、結衣は電依戦フィールドにジャックインした。
* * *
二人の初めてのタッグマッチは、結衣が危惧していた通り最悪の結果となった。
敵チームに近づこうとするのだが、互いが互いの足を引っ張りあってしまうせいでまともに近づくことができない。
やっと近づけたと思えば今度は互いが邪魔になり、パーティアタックが発生するという自体に陥ってしまった。結衣なんかは、三回ほど間違えて透子を背中から斬ってしまったくらいだ。
まるで自分以外の全員が敵という四面楚歌の状況の中、最後は敵チームの失笑と共に放たれたスキルプログラムによって二人共仲良く焼き殺され、あえなく敗北となってしまった。
とてもじゃないが二人の戦いは、お世辞にも協力プレイなどと呼べる代物ではなかった。
現実世界に戻ってきた結衣と透子の間には、かつてないほどの嫌な空気が流れている。
お互い身体を向かい合わせながらも、その目は机を見つめていた。
先輩たちもそんな険悪な雰囲気を察したのか、遠くの方で二人の様子を見守っている。
結衣は目線を少しだけ上げて、透子の顔を見やる。
透子は肩を小さく震わせながら、下唇を噛みしめていた。薄桃色の唇が白い歯に押しつぶされているのが見える。
なんだか見てはいけないものを見てしまったような気がして、結衣は慌てて視線を下に戻す。
今回戦った相手は、それほど強い電依戦プレイヤーではなかった。おそらく透子からしてみれば圧倒的に格下だったのだろう。そんな相手にいいようにやられた挙げ句、負けてしまったことが相当悔しかったのかもしれない。
それからしばらくの間、重い沈黙が続いていたが、ようやく透子が静かに口を開く。
「どうして私の言う通りやらないの」
その冷淡な声に、結衣は思わず身体を強張らせる。
親や教師が怒る時のものとは全然違う、冷たく刺々しい声だった。
「でも……私のプログラムじゃ、真島さんの言う通りにはできなかったし……」
「手持ちのプログラムで使えるものがなければ、フィールドにあるものを上手く使う。電依戦の基本でしょそんなことは」
その言葉に何も言えないでいると、透子は今まで聞いた中で最も深いため息をつく。
「……もうお願いだから、あなたは何もしないでフィールドの隅っこにでもいて。敵は全部私が倒す」
「それじゃタッグマッチにならないよ……」
「さっきみたいに邪魔されるくらいならその方がマシだから」
まるで10対0で全面的にこちらが悪いとでも言うようなその発言に、結衣は流石に我慢できなくなる。
「そんなのこっちのセリフだよ。大体さっきだって真島さんが私の前に出なければ――、」
「うるさい! この役立たず!!」
それまで雨音しか聞こえなかった部室に机を叩く大きな音と透子の怒声が響き渡る。
突然、怒りを爆発させた透子に対して結衣は驚き戸惑う。動揺で視界が揺れた。
遠くの方で先輩たちが、何事かという顔でこちらの様子をうかがっている。
「…………真島さん?」
結衣は震える声で透子の名前を呼ぶ。
名前を呼ばれて我に返ったのか、透子はハッとした顔をして口を両手で覆う。だがやがて、その表情が後悔と悲しみの入り混じったものへと変わる。
「あのさ……真島さん……」
まずい、何か言わなきゃ。そう思ってとりあえず名前を呼んでみたものの、それ以上言葉は出なかった。
一時の静寂の後、透子の震える声が聞こえる。
「……あなたが」
「え?」
「あなたがさっさと電依戦を辞めればこんなことにはならなかったのに!」
それだけ言い残すと、透子は椅子から立ち上がり、まるで逃げるようにして部室から飛び出す。
その場に残された結衣は、廊下を走る音を聞きながら、ただただ呆然と開け放たれた部室の扉を見つめるより他になかった。
* * *
先輩たちは全員帰ってしまい、誰もいなくなった部室。
結衣は一人、そこに残っていた。
彼女が見つめる視線の先には、透子が置いていったバッグと傘が置かれている。
こうして待っていれば帰ってくるかと思っていたが、結局透子が部室に戻ってくることはなかった。
外はすっかり暗くなっていたが、相変わらず大きな雨粒が窓を叩いている。まさか透子は、この大雨の中を傘もささずに帰ったのだろうか。
「……帰ろう」
これ以上待っていても仕方ないような気がして、結衣は自分の荷物を持って部室を出る。
「よ、渡瀬」
薄暗い廊下に出た瞬間、いきなり声をかけられて結衣の肩がびくりと震える。
声の方には、涼がいた。
「篠原先輩、いたんですか!?」
結衣は驚きの声を上げる。それまで廊下に人がいただなんて気づかなかったのだ。
「今日はオレが鍵の係だからな」
そう言って涼はターミナルを立ち上げると、慣れた手つきで手早く操作する。
部室の扉から鍵のかかる音が聞こえた。
「もしかして私が帰るのを待っていたんですか……?」
そこで結衣はようやく先輩を待たせてしまっていたことに気づいて、慌てて頭を下げる。
「すいません! 私のせいでお待たせしてしまって!」
そんな結衣に涼は首を振る。
「あーいいよいいよ、一年生はまだ鍵貰えてねえからな。それにな、オレは渡瀬と話がしたかったんだよ」
「私とですか?」
「まあ、立ち話もなんだし歩きながら話すか」
そう言って涼は、ニッと白い歯を見せて笑う。
結衣と涼の二人は、並んで夜の学校を歩く。
かすかな明かりは点いているものの、他に残っている生徒はおらず、廊下はしんと静まり返っている。
もし涼が待っていてくれなければ、この中を一人おっかなびっくり歩く羽目になったかと思うと彼女には感謝しかない。
しばらく無言が続いたが、やがて涼が口を開く。
「それにしても今日は災難だったな」
「……すいません、変なところを見せちゃって」
「ま、アレはお前のせいじゃねえだろ。急にキレ散らかす真島が悪い」
涼が慰めの言葉がかける。そんな彼女に結衣は力なく笑った。
「篠原先輩は優しいですね」
「ん?」
「他の先輩たちは声もかけてくれずに帰っちゃったけど、篠原先輩はこうして残って待っててくれてた」
「あー」
涼は困ったように笑う。
「綴はまあ、あれであいつも一応男だから女子同士のいざこざに首を突っ込みにくいんだろうな。橘もあんな状況で声をかけられるような性格じゃねえし。別に二人共、お前のことを考えてないってわけじゃねえと思うぞ」
「そう……ですよね。すいません……」
結衣は肩を落とす。
気が弱っているからと言って、本人たちのいないところで文句を言う。そんな自分に自己嫌悪したのだ。
二人は校舎を出る。
外は相変わらずの大雨だった。透子はこの中を傘もささずに帰ったというのだろうか。
「……雨降ってんなー」
濡れるコンクリートを見て涼は陰鬱そうにため息をつくと、傘を開いて足を踏み出した。
結衣も自分の傘を開いて涼の後をついて行く。校庭に赤と白の傘が咲いた。
「渡瀬はどうしたい?」
となりを歩く白い傘から声がする。
「どうしたい、というのは?」
「これからも真島とやれそうかどうかって話」
「ああ……」
涼の言葉に結衣は曖昧な返事をする。
正直なところ自信はない。元から自信はなかったが、あんな風に喧嘩になってしまってはなおさらだ。
「もし真島と一緒にやるのが無理そうだったら言ってくれよ。オレの方から綴に言っておいてやるからさ」
「でもそれじゃ親善試合が――」
「親善試合より大事なのは、お前たちの関係だ」
結衣の言葉を遮り、涼ははっきりと言う。
「…………すいません」
なんだか申し訳なくなり、結衣はうつむく。
傘を叩く雨の音がいやにうるさかった。