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比翼の電依戦プレイヤー  作者: 至儀まどか
vol.2 無敗の逆行分析者【完結済み】
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第22話 逆転の一手

 ゲームに敗れた透子の意識は、現実へと戻ってきた。

 帰ってしまったのか、はたまた薫に帰らされてしまったのか、会場に彼女の取り巻きの姿はない。

 ここにいるプレイヤーたちも出ようと思えば出ることが出来る。別にこの大会は最後までいなければいけない決まりはない。帰りたければいつでも帰ることが出来るのだ。

 しかし彼らの姿は、会場内に残ったままだった。全員が会場のディスプレイに齧り付いて、試合の行方を見守っている。

 誰もが見届けたいのだ。この戦いの行く末を。この場所で。

 透子はふと薫へと視線をやる。彼女はパーカーのフードを目深に被ったまま、うつむきながら椅子に腰掛けていた。


『踏み込みすぎよ、馬鹿』


 自分にとどめを刺す間際、薫の言い放った言葉を思い出して透子は目を細める。

 きっと以前までの自分なら、あんなこと言わなかった。


(そうね。私らしくも無かったわ)

「よう、真島」


 不意に肩を叩かれ、透子は背後を振り返る。

 そこには、涼の姿があった。


「おつかれさん」

「……すいません、負けちゃって」


 珍しく恐縮した様子の透子に、涼は剽げたように肩をすくめてみせる。


「気にすんなって。と言うかオレの方が先に負けたんだ。そんなオレが、あそこまで頑張ったお前のこと責めらんねえよ」


 そう言ってから涼は、ディスプレイへと目をやる。


「渡瀬は……厳しいかな……」


 涼にだって後輩を信じてやりたい気持ちはある。だが今回ばかりは流石に相手が悪い。

 片腕が使えないとは言え、相手はあの青山薫なのだ。ウィザード級のプレイヤーで、実力は折り紙付き。その上、透子を正面から圧倒し、一瞬で倒してしまった。

 結衣の実力では到底敵わない相手だ。

 だが透子の意見は違うようだ。


「そうとも言えませんよ。結衣は親善試合で、格上であるはずの不知火彰人に勝利した」

「あいつなら青山に勝てるってか? 言っちゃ何だが実力じゃお前の方が――」

「確かに実力なら結衣より私の方が上です。それは断言できます。でも私にはそれしかありません。それに……実力なら青山の方が上です」


 震える握りこぶしに悔しさを滲ませる透子だったが、やがて「ふう」と息を吐く。


「でも結衣は私に無いものを持っています。意外性って言えばいいんですかね?」

「認めてるんだな。渡瀬のこと」


 嬉しそうな笑みを浮かべる涼に、透子は頬を赤くして膨らませて見せる。


「変ですか?」

「いや、嬉しいんだよ。一ヶ月前はあれだけ反目し合ってたお前らが、こうして互いを認めあってるっていうのが」

「……そんなものですか?」

「お前にも手のかかるような後輩が出来れば分かるさ」


 そう言って涼は、未だに戦っている後輩の方を振り返る。


「頼むぜ、渡瀬。別に勝てだなんて贅沢なことは言わねえ。ただ一発、青山にぶちかましてやってくれ」




 * * *




 爆風によって吹き飛ばされた結衣は、ダメージを受けた身体を押して元いた場所へと戻ってきた。

 そこでは薫が一人、何やら難しい顔をして空を見上げている。透子の姿は見当たらない。

 その光景を見て結衣はすべてを悟る。


(ああ、そうか……。透子は負けたんだ……)

「お帰りなさい」


 薫はその金色の瞳を結衣へと向ける。

 その表情に、先程まで僅かにあった緊張や焦りの色は微塵も無い。

 結衣にはよく分かる。間違いなく薫は、自分のことなど歯牙にもかけていない。

 でもだからと言って、それで不思議と腹が立つようなことはなかった。


(そりゃそうだよね……。透子も勝てなかったって言うのに、私が勝てるはずあるわけがない)


 ならここで諦めるか?

 ふとそんな考えが頭をよぎって、結衣は慌ててぶんぶんとかぶりを振る。

 ここで自分が諦めたら、透子や涼の頑張りが無駄になってしまうではないか。


(それだけは絶対できない!)


 結衣は武器を召喚するべくターミナルを立ち上げ、自分の持っているプログラムの一覧に目を走らせる。

 だが薫に対抗出来るようなプログラムは何一つ無い。

 大体すべてのプログラムを自動で解析してしまう薫に有効な武器なんてあるはずが――


(いや……、一つだけ可能性がある!)


 結衣の目に、ある一つのプログラムが留まる。唯一、逆転の可能性を秘めた存在。

 ただこのプログラムは酷くリソースを消費してしまう。透子からは駄作の烙印を押されたプログラムだ。

 目論見が外れれば最後、無駄にリソースを消費しただけに終わり、薫に勝てる見込みは無くなるだろう。

 だけど自分には最早これしか残されていない。

 覚悟を決めて、結衣は逆転の一手となるであろうプログラムを選ぶ。光と共に、少女騎士の手の中にプログラムが構築されていく。


 一方、決然とした結衣の表情を見て取っていた薫は何を仕掛けてくるかと警戒していた様子だった。

 だが少女騎士の手に召喚された武器を目にした瞬間、嘲ったような笑いを浮かべる。

 結衣が召喚したのは何の変哲も無い、一本の長剣だったのだ。


「はっ! 何を出してくるかと思えば、今更長剣なんて――……」


 そう笑い飛ばしかけた薫だったが、その表情が凍りつく。

 表情だけでなく身体まで固まってしまい、彼女は棒立ちのままピクリとも動かない。


(やっぱり……!)


 ただならぬ薫の様子に確信を得た結衣は、正面へと駆けていく。だが薫は向かってくる結衣に対して迎撃を仕掛けようとしない。杖を片手に凝然としたままだ。

 ついに二人の距離は互いが手を伸ばせば届く距離にまでなった。

 だがそれでも薫は攻撃と防御いずれの行動も取ろうとはしない。まるで心ここにあらずと言った様子で呆けたままだ。

 そんな薫目掛けて結衣は長剣を大きく振りかぶって、


 ――そして斬りつけた。

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