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比翼の電依戦プレイヤー  作者: 至儀まどか
vol.2 無敗の逆行分析者【完結済み】
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第14話 戦いの理由

修正の関係で、一話の文字数が思ったより増えてしまったので、分割となりました。

 やがて二人の元に涼が戻ってきた。幸いなことに彼女は無事なようだったが、どこか浮かない顔をしている。


「どう……でした?」


 恐る恐る声をかける結衣に、涼は小さく空を仰ぐ。


「残ったチームが一時的に連合チームを組んだらしい」

「連合チーム?」

「協力して青山を倒すんだとよ」


 涼の言葉を聞いて透子は嘆息してから、やおら立ち上がる。


「青山の存在が他のチームの連中に知れ渡った……ってところかしら。予想通りの展開になったわね」

「それにしたってここまで警戒されることってあるの?」


 透子の言葉を聞いて結衣は疑問の言葉を口にする。

 参加者だって電依戦を始めて二、三日の素人ばかりではない。RSIが招待した優秀なプレイヤーたちなのだ。

 いくら薫が高校電依戦を二連覇している強者だからと言って、彼女一人を叩き潰すために連合チームまで作るというのは少々過剰な対応であるような気がしてならない。


「青山はね、ウィザード級の電依戦プレイヤーなの」

「ウィザード級?」


 聞き慣れぬ言葉に小首をかしげる結衣。そんな彼女に透子が説明してくれる。


「ウィザード級っていうのは、電依戦の運営『アンリーシュ』が実力を認めた優秀なプレイヤーのみに送る称号のこと。ウィザード級の認定を受ければ、レベルの高い大会に招待されたりシード枠で大会に参加することもできるし、何より自分の実力を知らしめることができるのが大きい。ちなみに葵さんも認定されているわよ」

「お姉ちゃんも……?」


 初めて知る事実に結衣は目を丸くする。

 葵は電依戦についてあまり話をしなさすぎる気がする。


「だけど認定を受けるのはそう簡単なことじゃない。国内でウィザード級に認定されているプレイヤーはほんの十人程度。認定基準もいまいち判然としてなくて、認定されるのは飛び抜けて優秀なプレイヤーか、何かに秀でているプレイヤーってことくらいしか分かっていないの」

「認定されたい、と思って簡単に認定されるような称号じゃないってことだね」

「そういうこと。それでも青山は十七歳……最年少でウィザード級に認定された。だからみんな嫌でも警戒するのよ。それにウィザード級の電依戦プレイヤーを倒したなんてことになれば、次は自分が認定されるかもしれないでしょ?」


 なるほどそんな思惑や事情があるのか。腑に落ちた結衣は涼の方に顔を向ける。


「連合チームって全部で何人いるんですか?」

「連合チームは四チームから構成されている。一チーム三人だから、十二人ってとこだな」


 結衣の質問に涼はその辺の小石を蹴りながら答える。


「流石にそれだけの数に襲われたら青山さんも負けちゃうかな?」


 一対十二というのは恐らくどんなゲームであっても勝ち目のない数字だろう。

 だけどそれでも何故か、青山薫ならば十二人を相手にしても勝ってしまいそうだと……そんな風に思ってしまった結衣は確認するように透子に尋ねる。

 結衣の質問にしばらく何かを考えるようにしていた透子だったが、やがて小さくうなずく。


「そうね……100%とは言えないけれど、物量には勝てないかも。物量こそが逆行分析者の能力の弱点だってのは、恐らく連合チームの奴らも知ってるだろうから」

「弱点? 青山さんに弱点があるって言うの?」


 思いがけず出てきた情報に、結衣は期待混じりの声を上げる。


「一番最初に奴が現れた時、目を覆っていたのは覚えている?」

「うん。確か布で隠してたよね……アレ?」


 そこで結衣は首をかしげる。

 そう言えば初めて薫に出会った時、彼女は自分の視界を隠し、わざわざプログラムの目を介して物を見ていた。

 よくよく考えてみればなんでそんなことをしていたんだろう。

 考え込む結衣に透子は人さし指を立てて見せる。


「まず初めに、バイナリアンシンドロームの人間は自分の意思では能力のオンオフができない。そして次に、これは電依戦界隈じゃ散々言われていることなんだけど、恐らく青山の脳はその目で見たプログラムのメモリを反射的に自動で解析している」

「うぇっ!?」


 透子の口から出たトンデモ話に結衣は思わずひっくり返りそうになる。


「だってそうでなければ、あの速度で私たち三人のスキルプログラムを解析して回避したことの説明がつかないでしょ?」

「それはそうだけど……」


 そう口ごもりながらも疑いの念は晴れない。だってそんなもの、はっきり言って人外の(わざ)だ。常人の域をはるかに超えた演算速度と言えよう。

 だが透子の目は本気だ。確かにバイナリアンシンドローム患者のナノポートには、読み取ったプログラムのメモリデータは残らないので、プログラムを使って読み取ったメモリを解析しているなんてことはないのだろうが――……。


「でもだからこそ、青山はその能力を自分で制限することができない。電脳空間内で直接プログラムを見ているだけで、彼女の脳には凄まじい負担がかかっているはずなの」

「だからああやって、普段は目を隠して直接周りのプログラムを見ないようにしていたっていうこと?」

「そういうことね、多分。連合チームを組んだ連中もそれを知っていたんじゃないかしら。十二人から一斉にプログラムを使われたら、流石に処理しきれないでしょう。それに逆行分析者の能力無しじゃ、青山も十二人相手に勝つのは難しいだろうし」

「じゃあこのまま連合チームと青山さんがぶつかったら、やっぱり青山さんが負ける……のかな?」

「……その件で一つお前たちに相談したいことがある」


 不意に、それまで静かに後輩二人の会話に耳を傾けていた涼が口を開く。


「なんですか?」

「そうだな……説明するより見てもらったほうが早いかもな。ついて来い」


 そう言って涼は、怪訝な顔をする結衣と透子を手招きした。




 * * * 




 涼に案内されて結衣と透子は森の開けた場所へとやってきた。そこは学校の体育館くらいの広さをした広場のようだった。

 このフィールドにこんな場所があったのかと、周囲に視線を巡らせた結衣はそこであることに気づく。

 眼前の巨樹。

 そこにまるで鋭いもので抉られたような痕があるのが見えた。

 昔これと似たようなものをテレビで見たような記憶がある。あれは確かクマの爪痕だったか。

 だが目の前のそれは、クマの爪痕なんかよりも遥かに鋭く、大きく、そして高い位置にあった。


「これ……」


 爪痕に呆然としている結衣をよそに、透子が小さくつぶやいて地面に片膝をつく。

 釣られるようにして足元に視線を落とした結衣は、そこでようやくあるものの存在に気づいた。

 広場の地面は(くぼ)んでいた。まるで今まで、重く巨大な何かがそこに鎮座していたかのように。よくよく見てみれば、地面にも巨樹に刻まれていた爪痕と同じようなものがあった。


 それらの光景に結衣と透子は揃って喉を鳴らす。

 直感してしまったのだ。


 ――ここには先程まで何かがいた。そしてそれは絶対にロクなものじゃないと。


 涼は爪痕の残る樹にそっと触れる。


「オレがここに来た時、既にここには何もいなかった。ここにいた何かが青山と関係あるかどうかは分からないが……」

「いえ、間違いなく青山と関係があります。考えてみれば、参加者たちが共闘することを彼女が見越していないわけがない。多分ここにいた何かは、青山にとって連合チームに対抗する切り札だったんでしょう」


 そんな透子の言葉に涼は首肯する。


「実はオレは連合チームの連中に誘われてたんだ。『一時休戦にして、まずは青山から倒さないかどうか』ってな。だけどこれの存在を知っていたオレは返事を保留にした。これを見てもらった上で決めたいと思っていたんだ。これからどうするかを」


 期待するような目が二人を見つめていた。


「青山のことは連合チームに預けるのか、それともオレたちも連合チームに加わるのか。あるいは……」


 そこまで言ってから涼はかぶりを振る。


「オレたちはチームだ、皆で決めよう。ちなみにオレの腹積もりはもう決まってる。もっとも最終的にどうするかは、お前らの意見を聞いてからだが」

「……透子はもう決まってるの?」


 透子の方を振り向いてから、結衣はそれが愚問であったことに気づく。


「ええ。篠原先輩の言葉を借りるならば、私の腹積もりは奴とこの電依戦フィールドで出会った時から決まっているわ。私は青山薫を倒す。そして私の高校電依戦優勝の足がかりとする」


 そう言う透子の瞳はとっくの昔に『あとはあなただけよ?』とこちらに語りかけていた。


 ――そうだった、彼女が先に見据えているものは常に変わらない。真島透子というのはこういう女だった。


 結衣は内心そうひとりごちてから笑う。

 そして、ゆっくりと息を吐いてから思い出すように言葉を紡ぎ始める。


「……私ね、中学までは先輩ってそんなに好きじゃなかったの」


 結衣が中学の電依部に入部して間もなく、彼女が渡瀬葵の妹だという事実はすぐさま知れ渡った。

 当時彼女の通っていた中学は電依戦の強豪校であり、そこに入学してきた伝説的なプレイヤーの妹に先輩たちは大きく注目してもてはやした。

 だがやがて結衣の実力が彼らの期待に応えられるほどのものでないことを知ると、彼らはすぐさま手のひらを返した。まるで裏切り者に対して制裁を加えるかのように、冷たく当たられたり無視されるようになったのだ。

 その時初めて結衣は、渡瀬葵の妹というレッテルは想像以上に重く厳しいものなのだと実感した。

 そして先輩なんてものは、所詮年齢が一つ二つ上なだけの存在なのだと思い知った。


「でも高校生になって篠原先輩や秋名先輩たちと出会って、先輩って年齢が上ってだけじゃないんだって知った」


 ――初めて知った。


 先輩というものが、これほどまでに親身になってくれる存在なのだということを。

 これほどまでに多くのことを教えてくれる存在なのだということを。

 これほどまでに暖かい存在なのだということを。

 結衣は続ける。


「確かに青山さんにとって秋名先輩は憎い存在かもしれない。ただそれでも、私にとっては生まれて初めてできた大好きな先輩の一人なの。そんな先輩のことを人殺しだなんて言われたのは嫌だったし腹が立った。私はこのまま青山さんのことを他人任せなんかにしたくない。私の手で青山さんに一泡吹かせてやりたい」

「……」


 結衣の言葉を聞き終えた透子と涼は虚を突かれたとでも言うように、しばらく目を丸くして彼女のことを見ていた。

 だがそれから僅かに間を置いた後、どちらからともなく吹き出す。

 一方で自分としては過去の話も含めて結構真面目な発言のつもりだったにも関わらず、何故か二人から笑われてしまったことに対して結衣は頬を赤らめて膨らませる。


「もう! 結構真面目な話をしたんだけど!?」


 そんな彼女の肩に涼が触れた。


「いや悪い悪い。あまりに渡瀬らしい理由だから思わずおかしくなっちゃってさ」

「むぅ……もしかして馬鹿にしてます?」

「拗ねるなって、別に馬鹿にしてねえよ。それに自分の手で……ってところはオレも同意見だ」


 そう言って涼は手のひらを拳で叩いてから白い歯を見せる。


「電依戦で青山に目にもの見せてやろうぜ!」

「……はい!」


 そんな二人のやり取りを見届け、透子はふっと笑って口を開く。


「それじゃチームの方針も固まったことだし、結衣と篠原先輩のご希望どおり()()()()()()青山薫に一泡吹かせてやろうかしら」

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