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比翼の電依戦プレイヤー  作者: 至儀まどか
vol.2 無敗の逆行分析者【完結済み】
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第7話 凶器百般

 深鈴と累の二人はこちらに向かって一斉に駆けてくる。

 電依戦フィールドにジャックインして十分も経たない内に敵と交戦、それもいきなり訪れた二対二の戦闘。

 それに対して、『どう戦うべきか』と結衣が決めあぐねていたその時、透子が大鎌を担いだ深鈴の方を指さして見せる。


「じゃ、あっちは任せたから」

「あ、え? で、でも……」


 突然透子からそう振られて、結衣は言い淀む。

 ここでダメージを負った方を相手にするのは、なんだか透子にお膳立てをしてもらったような気がしてあまり気が進まない。自分としては累の相手をするべきなのではないだろうか。

 そんな結衣の心中を察したのか透子は言う。


「奴はもう片方よりも強い。奴を任せるのは、最近のあなたの成長をそれなりに認めてのことなんだけど?」

「…………分かったよ、もう!」


 ――まったく、そう言われちゃあ仕方ないなあ。


 誰にも悟られぬよう顔がニヤけそうになるのを我慢しながら、結衣は深鈴の前に立ちふさがる。


「へえ、アタシの相手はそこの可愛らしい騎士さんか。なんかどこかで見たことがあるような顔だけど、まあいいか」


 結衣の前に立った深鈴が威嚇するようにして鎌を振るう。瞬間、彼女の周囲を舞い散る葉を銀閃がすべて容赦なく切り裂かれた。


「ほんじゃまあ、サクッとその可愛らしい首狩らせてもらいますかっ!」


 そう物騒な言葉を叫ぶやいなや、深鈴は紫色のポニーテールを渦巻かせながら、軽々と大鎌を振るいながらこちらへ突進してくる。

 ぶつかり合う結衣と深鈴。

 腕に傷を負っている上に大鎌はそれなりの重さがあるはずなのだが、それらを感じさせない立ち振る舞い。透子の言う通り、かなりの技量の持ち主ということか。


(やりにくいな……!)


 大鎌相手に火花を散らしながら、結衣は内心舌打ちする。

 深鈴はその武器のリーチを存分に活かし、絶妙な距離から攻撃を仕掛けてくる。

 長剣と大鎌――物にもよるだろうが、彼女の扱う大鎌は結衣の長剣よりも僅かばかりにリーチが長かったのだ。

 風切り音を上げながら襲い来る鋭刃の連撃をすべて捌ききることができず、打ち漏らした刃によって結衣の体力ゲージが削られる。

 あえぐ結衣を見て深鈴の口元が歪んだ。


「なはは。リーチの違い……それだけで戦いが決まるなんて言うつもりはないけど、どうやらアタシたちにとっては勝敗を分ける十分な要因になったようだね」


 そう破顔一笑する深鈴を結衣はムッと睨む。どうやら向こうは既に勝ったつもりでいるようだが、ならば目にもの見せてやろう。

 隙を見て深鈴から距離を取ると、結衣は水平に剣を構える。刃が眩い翡翠色の光を帯び始めた。

 スキルプログラム【リソースエッジ】によって、結衣の振るった剣の切っ先から翡翠色の刃が飛び出し、深鈴めがけて襲いかかる。

 大鎌を前に突き出し、余裕綽々でリソースエッジを受け止める深鈴だったが、


「む……おっ!」


 肩の傷も影響したのだろうか、その手から大鎌が弾かれて遠くに放られる。更にリソースエッジを完全にさばき切ることはできなかったらしく、深鈴の脇腹と太ももに鮮血色の大きな傷が入り、彼女は片膝を地面に着く。


 ――ここがチャンスだ。


 剣を振り切った結衣は、そのまま無手となった深鈴へと身を躍らせる。

 しかし深鈴は焦る素振りを見せることなく、やおら地面から何かを拾い上げる。手に握られているその何かを見咎めた結衣は、ギョッと目を見開いた。

 深鈴の手には、妖しく紫色に光る鉄の(むち)が握られていたのだ。

 慌てて身体をのけぞらせる結衣。だが、かわしきることは叶わず、鋭い紫色の輝線に穿たれ、鎧の手甲が遠くへと弾き飛ばされる。

 腕の痺れを感じながら、結衣は深鈴から再び大きく距離を取った。


「よく避けたね、アタシのスキルプログラム【ピックウィップ】を。直撃すれば場所によっては即死もあり得たのに」


 不敵に笑って、深鈴はまるで結衣を威嚇するようにして鞭を振るう。

 銀色の曲線が周囲の巨樹の鱗を削っていく。どう見ても金属製だというのに、鉄で出来ているとは思えないようなしなりよう。そして先程の鎌以上のリーチだ。


 先程、撫でられただけで感じた死の予感に結衣は喉を鳴らす。

 直撃すれば即死というのはハッタリでもなんでもなく、当たりどころが悪ければ今度こそ一撃で死んでしまうだろう。不用意に近づくことはできない。


(都合よくあんなところに鞭が転がってる……なんて考えづらいし、やっぱり事前に準備して隠してたんだろうな)


 思い返せば、自分たちをここまで誘導したのは彼女の鎌だ。それは十分考えられる。

 深鈴の扱う電依『エイル』のクラスは凶器百般。古今東西のあらゆる武器に対して適性の高い電依だ。

 電依には、クラスごとに武器への適性が存在する。適性が高い武器を扱う際は、武器の力を引き出すことができる。あらゆる武器に対して適性が高いということはつまり、あらゆる局面において多種多様な武器を扱えるということになるのだ。


「ほらほら、第二ラウンド開始だよっ!」


 深鈴が鞭を一つ振るう度に鞭の先端から爆発のような大きな音が聞こえ、地面の土や樹の鱗が弾ける。結衣は樹を壁代わりにしながら、まるで蛇のように襲い来る鞭を懸命に剣で弾き返す。

 それにしても、こんな風に樹々の立ち並ぶ空間では鞭などもっとも扱いにくい武器だろうに、それを彼女はまるで手足のように意のままに操って攻撃を仕掛けてくる。透子の評価通り相当の実力者らしい。


(どうする? またリソースエッジを仕掛けるか?)


 そんなことも考えたが、深鈴ほどの強者を相手に同じ技は通じまい。リソースは有限。決して無駄にはできない。

 それに深鈴のことだ、遠距離攻撃に対してとっくに何かしらの対策を講じていることだろう。


 ――こんな時、透子ならどうするだろうか。


 一瞬、通信で彼女に指示を仰ごうかとも考えたが、結衣はかぶりを振る。透子だって今は戦闘の真っ最中なのだ。それに何よりこれは自分の戦いだ。ここは自分でなんとかするべきだろう。


(あの動きが読めない鞭は近づき(がた)いし、かと言って私が遠距離攻撃を仕掛けるのなんて向こうは読んでるだろうし――)


 そこまで考えて、結衣は透子から教わったあることを思い出す。


 ――そうだ、手持ちのプログラムでどうにもならないならば、周りにあるものを使えばいいのだ。


 再び結衣の剣が翡翠色の光に包まれる。その光景に、先程のリソースエッジの威力を思い出したのか深鈴の顔に警戒の色が浮かぶ。

 しかし結衣は彼女に背を向けると、そのままあらぬ方向めがけて翡翠色の刃を振り切った。

 その一見無意味とも思える行動にしばし唖然としていた深鈴だったが、やがて失笑する。


「なはな、突然どうした? おかしくなっちゃったか? 悪いけどアタシにフェイントは効かないぞ~?」


 だが次の瞬間、深鈴の耳が軋むような音を捉えた。それと同時に、彼女の身体を黒い影に覆われる。

 嫌な予感を感じつつ恐る恐る顔を上げた彼女は、眼前に迫りくる()()を見て、顔を青ざめさせる。

 見上げた視線の先には、深鈴を押しつぶそうと迫りくる大樹の姿があったのだ。

 そこで深鈴はようやく結衣の狙いに気づく。あの時、あらぬ方向に空振ったと思っていたスキルプログラムは、自分めがけて大樹を倒すためのものだったのだ。


「突拍子もないことをする子だなぁっ! 一番怖いタイプだ!」


 今手にしている鞭ではこの重量のものをどうにもできない。かと言って、この大きさのものをかわし切ることもできない。

 そう判断した深鈴は、すかさずある物を目指して跳ぶ。彼女の目指す先には、先程弾かれた大鎌が転がっていた。大鎌ならばこの大樹をどうにか出来ると踏んだのだろう。

 深鈴の指があと少しで大鎌に届くというところで、彼女の視界の端から何かが飛び出す。そちらに視線をやった深鈴は、自分に迫る結衣の姿を見て表情を強張らせた。

 慌てて結衣に向かって鞭を振るおうとする深鈴。だが即座に『しまった』というような顔をして硬直する。今この瞬間、結衣と深鈴の距離は鞭を振るうにはあまりに近すぎたのだ。


「やっぱりこっちに来たね!」


 結衣の予想どおり、案の定大鎌を拾いに出た。やってくる場所さえ分かっていれば先回りはできる。

 今度こそ、結衣は深鈴に向けて翡翠色の刃を振り下ろした。

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