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比翼の電依戦プレイヤー  作者: 至儀まどか
vol.2 無敗の逆行分析者【完結済み】
34/55

第5話 RSI電依戦大会

 三人は受付を済ませて大会の会場である部屋に入る。

 学校の教室二つ分ほどの広さの部屋は薄暗く、天井の青い照明と、前方に設置された大型ディスプレイの明かりによって煌々と照らされている。部屋の四隅に設置されたスピーカーからは、何故か重低音のクラブミュージックがかかっていた。

 四角い長方形のテーブルが等間隔に並べられており、既に他の参加者たちが席についている。


『お、もう一チーム到着しましたね』


 RSIの社員だろうか、壇上からスーツ姿の男性が入り口の結衣たちを見て微笑む。

 彼の声に反応するように、参加者たちの視線がこちらへと向く。

 参加者たちの年齢は十代から四十代くらいと、その年齢層は幅広く、これが学生だけの大会ではないことを改めて実感する。

 会場中の注目が自分たちに集まってしまい、少し恥ずかしかったが仕方ない。

 周囲にぎこちない笑顔で会釈しながら、結衣はそそくさと案内されたテーブルへと座る。

 テーブルには『H』と書かれた白い旗が立てられていた。よく見れば書かれているアルファベットは違うものの、他の参加者のテーブルにも同じような旗が立てられている。きっとチームを分けるための目印のようなものなのだろう。さしずめ自分たちはHチームというわけだ。


「なんか怪しい雰囲気だね」


 結衣は辺りを見回しながら透子に耳打ちする。

 薄暗い部屋にクラブミュージックというのは、中学生の頃参加したような大会とはだいぶ違う雰囲気だ。まるで本当にどこかのクラブにやって来てしまったのではないかと錯覚してしまう。いや、実際にクラブに行った経験は一度も無いのだが。

 部屋の奥には参加者席とは別にパーティションで区切られたテーブルがあり、スタッフと(おぼ)しき男女が何やら忙しなく動き回っている。


「企業主催の大会って場所にもよるけど大体こんな感じよ。海外のセキュリティのイベントとかがこういう雰囲気なんだけど、それを参考にしてるんだって」

「へー……。でもこううるさいと、集中できないんじゃないの?」

「流石にゲームが始まれば止まるわよ」


 そう言いながら透子は、なんだか落ち着かない様子で周囲を見回している。ひょっとして緊張してるんだろうか。

 いくら彼女であっても、強者の集うこの大会では少しばかり神経質になっているのかもしれない。

 何だ思ったより可愛いところもあるなと、結衣はほくそ笑む。


『さて、残りもう一チームがまだ到着してないようですね……』


 男性スタッフの困惑気味の声に結衣は部屋を見渡す。

 よく見てみれば隣の『I』の旗が立てられたテーブルが空いていた。どうやらあと一組、まだ来ていない参加チームがいるようだ。

 大会開始の時間は刻一刻と近づいている。決められた時刻までに来なければ失格になってしまうところだが、一体どこで何をしているのだろうか。


「すみませーん、遅れましたー」


 不意に入り口の方から間延びしたような声が聞こえる。

 そちらを見ると、黒いパーカーのフードを目深に被った一人の少女と思しき人影が立っていた。彼女は両隣に二人の少年を引き連れている。

 彼女たちはギリギリに会場入りしたことなど気にも留めていないかのように、堂々とした様子で部屋の奥へと進み、残った『I』のテーブルに腰を下ろす。


「何だあの不気味な奴……」


 その様子を見ていた涼が眉を寄せる。

 少女たちの登場に会場がざわつく中、結衣は一人首をかしげる。


(青山さん……?)


 少女の羽織っている黒いパーカーには見覚えがあった。あれは先程行ったカフェで会った青山が着ていたものと同じパーカーだ。

 ということはあそこにいるのは青山なのだろうか。

 しかし、先程カフェで話した時は電依戦の話こそしたものの、この大会に出るなんて彼女は一言も言っていなかったはずなのに。


(それになんであんな格好してるんだろう。まるで顔を見られたくないようにして……)


 そんなことを考えながら少女の方を見ていると、こちら視線に気づいたのか彼女は結衣の方へと顔を向ける。

 その時、一瞬だけ暗がりの中で照明に照らされたフード下の顔が見える。その顔は間違いなく青山だった。

 青山は結衣に向かって口に人差し指を当てて微笑む。あれは、『何も言うな』というサインだろうか。




 結局、結衣たちのチームを含めて九つのチームが会場に集った。


『さて、それでは全チーム揃ったところでルール説明を行います』


「なんとか全員揃った」というような安堵の表情を浮かべ、男性スタッフがマイク片手にルールの説明を始める。

 ルール自体は、前もって綴から聞いたものとほとんど同じだった。


 ・今回は三人一チームのサバイバル形式の試合。試合時間は二時間。

 ・リソースは一人3000。

 ・プログラムの使用可能数に上限なし。

 ・フィールドはランダム。

 ・降参はいつでも可能。降参する場合は、チーム単位でなくプレイヤー単位の降参となる。チームの一人が降参しても、残りのメンバーはプレイを続けられる。

 ・今回は『ロケーション・ディスクロージャー』というシステムが採用されており、これによって各チームリーダーの()()()の位置情報が二十分ごとに開示される。

 ・リーダーが死亡、または棄権した場合、残ったメンバーが自動的にリーダーとなる。

 ・最後に残った一チームが優勝となる。


 以上がこの大会のルールであった。


(でもこれ思ったんだけど、試合終了間際まで逃げ回ってたらいいんじゃないかな?)


 ロケーション・ディスクロージャーをひたすらやり過ごして、最後に弱りきった残り一チームを狙う。そんな漁夫の利作戦も有効ではないかと結衣は思う。


(いやいや、そうだよ。今考えた作戦だけど、これはこれで中々いいんじゃないかな?)


 一人悦に入る結衣。だが、次のスタッフの言葉にそんな彼女の考えが揺らぐ。


『また、敵プレイヤーをより多く倒したプレイヤーには、ゲーム終了後MVP特典を用意しています』

「MVP特典?」


 結衣は首をかしげる。特典というのは初めて聞く話だ。


『ちなみに、特典の詳細につきましてはゲーム終了後発表させていただきます』


 世界的なセキュリティ企業であるRSIが出す特典ということで、参加者たちの目の色が変わる。

 なんだかそんなことを言われてしまうと、結衣もその特典とやらが気になってしまう。先程までは漁夫の利作戦もアリかと思っていたが、特典が()()()()()()()()()だった場合、がんばった方がいいのではないだろうか。


(いやでもみんなもそう考えるだろうし、そこを突いてやっぱり漁夫の利作戦の方が……)


 そう戦いが始まる前から一人苦悩する結衣を見て透子は、


「乗せられてる、乗せられてる」


 と苦笑いする。


『さて、ここまでのルール説明で何か疑問のある方はいらっしゃいますか?』


 スタッフの言葉に、参加者の男が手を挙げる。スタッフに指され、男は席を立った。


「リソースは一人3000と言ったが、チーム内外でのリソースの譲渡はできないのか?」

『たとえ同じチーム内であってもリソースの譲渡は不可能です。また、死亡したプレイヤーのリソースは消滅しますのでこちらを使うことも不可能となります』


 スタッフの説明に納得したのか、男は礼を言って再び椅子に腰を下ろす。


 電依戦のルールには、プレイヤー間でリソースの譲渡が可能なものや、倒した相手プレイヤーのリソースを奪うことができるというものが存在する。

 このルールはリソースが重要な役割を果たす電依戦において、ある種ゲームの潤滑油的な役割を果たすというメリットを持っている。プレイヤーたちは他のプレイヤーよりも優位に立とうと、序盤から積極的に他のプレイヤーと戦闘を始めるのだ。


 ただしこのルールには同時にあるデメリットも孕んでいる。

 それは、強いプレイヤーがリソースを独り占めできてしまうというものだ。

 強いプレイヤーが一人で大量のリソースを保有している状態はまさに鬼に金棒といった状態で、そうなった場合他のプレイヤーでは太刀打ちすることができず、どうしてもワンサイドゲームになりがちになってしまう。

 また今回のようにチーム戦である場合、チームの中の一人が()()()()()()()()()()()()()()リソースを引き継ぎ、一人で戦い始めるという状況にもなりかねない。

 プレイヤーが死亡した場合にリソースが移譲されないのは、チーム戦であるにも関わらずそういった状況になることを避けたい運営の意図があるのだ。


『他に質問はございませんでしょうか?』


 壇上のスタッフが会場を見渡すが、他に手を挙げる参加者はいない。

 スタッフは、部屋奥のパーティションで区切られたテーブルにいる別のステップに目配せすると、マイクを握る。


『それではこれよりゲームを始めます。各チーム、受付の際にお渡しした情報を参照して、速やかに用意された電依戦フィールドへのジャックインを行ってください。ジャックインしてから五分後より、戦闘開始となります!』


 まるでその指示が合図であるかのように、参加者全員が一斉に電依戦フィールドへとジャックインした。

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