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比翼の電依戦プレイヤー  作者: 至儀まどか
vol.1 比翼の電依戦プレイヤー【完結済み】
27/55

幕間 ヒカリと透子

「ちょっと待って。あなたに聞きたいことがある」


 昼休みの食堂で、突然真島さんに制服の袖を掴まれた時、私は死を覚悟した。

 だって、私を睨みつける真島さんの目がすごい怖かったから。


「ま、真島さん……?」

「とりあえず座って」


 椅子から立ち上がったままの姿勢だった私の袖を真島さんは下に引っ張る。

 正直さっさとここから立ち去りたいのだが、こうなっては仕方ない。私は椅子に戻る。


「……き、聞きたいことって何?」

「そうね……」


 真島さんは、しばらく何かを考えるようにしていたが、やがて口を開く。


「あなた、友達は多い方?」

「え?」


 この時、私の口から出た声は結構間抜けだったと思う。

 だって、真島さんの質問はかなり唐突で予想外のものだったから。


 そんな私の困惑などお構いなしに、真島さんは詰問するように尋ねる。


「どうなの?」

「そりゃまあ……それなりにいる方だとは思うけど……」

「友達とはよく喧嘩するタイプ?」

「いやそんなことはないけど、まあたまにすることもあるかな……」

「そう、なら丁度いい」


 私の答えに、真島さんはどこかホッとしたような顔をしている。

 なんだろう。何を言いたいのか、いまいちよく分からない。心理テスト?


「そんなあなたに聞きたいことがある」

「ええと……友達が多いかどうかじゃなくて?」

「それとは違う」


 そう言ってから真島さんは、少し間を置いてから――


「他人に謝る方法……私に教えてくれない?」

「へ?」


 間抜けな声、第二弾。だからなんだ、その質問は。

 思わず私は真島さんの顔を凝視してしまう。どうやらふざけている……わけではなさそうだ。それは、彼女の真剣な顔を見ればよく分かる。


(謝る方法ねえ……)


 誰に謝りたいのか大体察しはつくが、一応聞いてみることにする。


「それってもしかして、結衣に?」

「ええ、あなた中学からの結衣の友達なんでしょ? 彼女のことにも詳しいかと思って」


 確かに真島さんの期待通り、私は結衣とはかれこれ三年以上の付き合いになるし、竹馬の友とまではいかなくても、大抵のことなら気軽に話し合える仲のはずだ。


「んーそもそも真島さんは、どうして結衣に冷たく当たってたの? そいで二人はどういう流れで普通に話をするようになったの?」

「それ|どうやって他人に謝るか《私の質問》と関係あるの?」

「理由によっては謝り方も変わってくるじゃない。まあ私の単純な興味でもあるんだけど」


 結衣に聞く、ということもできたとは思うが、どうもこの件について彼女は説明することに抵抗があるような気がする。友達が話したくないことは無理に聞かないのが私の信条だ。


「どうせ分からないわよ」

「いいからいいから」


 食い下がる私に、真島さんは「はあ」とため息をつく。


「最初は結衣が持っているものが、彼女に相応しくないような気がして……。それがムカついて、少しだけ厳しく当たって、彼女からそれを奪おうとして……。でも結局、最後には結衣の方が自分より相応しいってことが分かって、というか分からされて……」

「エラい抽象的かつ遠回しだね……」


 なんだかものすごく言葉を選んだような説明だ。だけどその曖昧な言葉から分かったことが一つだけある。


「要するに徹頭徹尾、真島さんが悪かったってことだね」


 私の言葉に真島さんは、痛いところを突かれたというように喉を鳴らす。


「そうよ、結局アレに関しては私が間違っていた。だからあなたに謝り方を聞いてるのよ」

「なるほどね。でも自分から謝ろうって気になったんだね、偉いよ」


 真島さんって、もっと自分本位で、自分の間違いは絶対に認めないとかそういうタイプだと思ってたのに。


「しょうがないじゃない。だってあの子、私のこと全然責めてくれないんだもの!」

「え?」

「何よ、あの子! 学校で会ったら少しくらいは、なんか言ってくれると思ってたのに! 少しくらいは、罵ってくれると思ってたのに! どうなってるのあの子! どこまでお人好しなの! おかげでちょっとやりづらいったらない!」


 そう言いながら真島さんは、私の肩を大きく揺する。おかげで私の視線は天井、真島さん、床、真島さん、天井……と往復を繰り返してしまう。


「ストップ! ストップ! 真島さん、ストップ!」


 さっき食べたばかりのあんぱんと牛乳が悲惨な形で飛び出してしまいそうな予感がして、私は慌てて真島さんを止める。彼女がその手を止めてくれたおかげで、最悪の事態を回避することはできた。


「ま、まあ……少しは気持ち分かるかも……」


 こみ上げてくる何かを必死に抑えながら、私は首を何度か小さく縦に振る。

 物事が落ち着くところに落ち着いたら、それ以降は引きずらないのが結衣のいいところでもあり、そして悪いところでもあるような気がする。


「要するに真島さんは、自分のしてきたことを結衣に責めてもらいたいけどそれが無理そうだから、自分から謝ってスッキリしようと考えてるんだ」

「そう。もうじき結衣と組んで親善試合だってあるから、それまでにはなんとかしたいの」


 まあ動機はさておいて、自分から謝るつもりになったのは悪いことではないのかもしれない。


「分かった。真島さん、結衣を遊びに誘いなよ」

「遊び?」

「そこで今度こそ謝るの。『あの時はごめんなさい』とか言って。あの子なら、それで許してくれるから」


 まあそんなことしなくても、あの子のことだからとっくに気にしてなんていないんだろうけど、真島さんが気になると言うならそうした方がいいと思う。


 ところが真島さんは、私の言葉に難しそうな顔をしてから目を伏せる。


「そんなこと言ったって遊びに誘う理由が……」


 意外と奥手だなこの子。もっとグイグイ行くタイプだと思ってたけど、こういうのは苦手なのだろうか。


「そんなのなんだっていいんだよ。頭いいんだからそのくらい考えなって」

「そんな頭の使い方したことないわよ」

「あのね、真島さんは知らないかもしれないけど、結衣は勇気を出して真島さんに会いに行ったんだよ? 真島さんだって、少しくらいがんばらないでどうするの?」


 私がそう言うと真島さんはこちらを睨みつける。相変わらずの突き刺すような鋭い目。

 調子に乗ってつい言いすぎちゃったかな。内心でそんな心配をする私だったが、真島さんはやがて口を開く。


「……そうね、分かったわ。がんばってみる」




 * * * 




 私と真島さんは教室に戻ってきた。

 結衣の姿は教室にない。まだ職員室にいるのだろうか。

 ふとクラスメイトの何人かが、私たちに興味津々というような視線を向けているのを感じる。

 多分、今度は私と真島さんが一緒にいるのが気になるのだろう。


「もういいわよ、用は済んだから。いつまでも私と一緒にいると、折角たくさんいる友達を失うかもよ?」


 真島さんはそうこちらに視線もくれずに言う。

 彼女なりにこちらを気遣って、あまり私と目線を合わせないようにしてくれているのか。そう考えるとなんとなく可笑しくなってしまう。


「いいよ、乗りかかった船だし。それにこんなことでいなくなる友達なら、最初からいないも同然だね」


 そう言う私に、真島さんは小さく鼻を鳴らす。だけど、なんだろう。ここから見える彼女の横顔は、少し嬉しそうにも見えた。


 まあとは言え、なんかこのままだとただ巻き込まれて終わりになってしまうような気もする。

 そこで私は一つ閃いてしまった。

 折角ここまでがんばったのだから、少しくらいのいたずらは許されるはずだ。


「ねえ真島さん、正しい謝り方は知ってる?」

「正しい謝り方? そんなもの、正面に向かって頭を下げて――」

「そう簡単に言うけど、真島さんはいざ本番で面と向かって頭を下げられるの?」

「……」


 真島さんは黙りこくる。どうやら彼女の賢い頭は、一秒にも満たない時間でシミュレートを行い、そして無理だと判断したらしい。


「あのね、そういう時は相手のとなりに座るの。それなら正面を向いて謝らなくていいから少しは気が楽でしょ?」

「相手のとなりに座る……」

「そしたら謝る側が相手の肩にもたれかかる」

「相手の肩にもたれかかる……」

「で、謝るの」

「それ、もたれかかる必要はあるの?」

「正面向いて謝る時は、相手に向かって頭下げるでしょ。となりに座ってる相手に謝る時は、相手の方に頭を下げて謝るの。それ欠かしちゃ駄目だからね」

「わ、分かった」


 私の適当な言葉に、真島さんは慌ててうなずく。どうやら完全に信じ切っているようだ。なんだか少し面白い。少し面白いけど悪い人に騙されないかどうか心配にもなってしまう。


(ああ、心配と言えば――)


 そこで私はあることを思い出す。そうだ、これだけは真島さんに言っておかなくてはならない。


「真島さん、こっから一つ真面目な話」

「……何?」

「結衣ってさ、中学の頃に友達と喧嘩別れしてるんだよね。本人は気にしてないように振る舞ってるけどさ、あれで結構トラウマになってると思うんだ」


 中学時代、結衣と電依部の友人との間で起きた喧嘩。あれがなかったら、今回の真島さんとの件もそこまでこじれてなかったんじゃないかと私は思う。多分あの一件は、本人でも気づいていないくらい深い傷を彼女の心に残してしまったのだろう。


「だから、もしこれから結衣を傷つけるようなことしたら、真島さんのこと許さないから」


 半端な気持ちで彼女とつき合って、傷をえぐるなんてことしてほしくなかった。


「……考えておく」


 真島さんはそう小さくうなずく。返事の内容は不安だったけど、まあ今のところは大丈夫そうか。


「よし! それじゃ最後に謝り方の復習をしておこうか!」


 笑顔で真島さんの肩に手を置いて言う私に、彼女は嫌そうな顔をする。


「やっぱ本当にやらなきゃいけないの、それ?」

「じゃあ真島さん、結衣に謝るのは諦めるんだ?」

「やらないとは言ってないでしょ!」


 そう言って真島さんは、()()を始める。意外と扱いやすい子だ。


「ええと、相手の横に座る……それから……」

「それから最後は肩にトンだよ。覚えた? 肩にトン」

「肩にトンね……分かった」


 ちょうどその時、何も知らない結衣が教室に戻ってくる。

 私は慌てて彼女にバレないよう、この話を切り上げた。

17時くらいのタイミングで次話投稿させていただきます。

それが最終話となります。

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