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初めての遠足

 おじい様のお屋敷は、王都から1日がかりの保養地にある。そこは貴族の別荘があったりする風光明媚なエリアらしい。おじい様の暮らすお屋敷も元々はバルケネンデ家の別荘だったそうだ。王都のバルケネンデ家の屋敷に突然現れたおじい様が、私とルートを送り出す前に朝の食事を共にしながらそう説明してくれた。

 なので、私は結構楽しみにしていたのである。状況は状況だが、この小さな手から離れて任せたといえばもう任せたのだ。赤子の頃からせっせと通ったおかげで懐いてくれている可愛いルートと初めての旅行!目的地にはお兄様もいる。3人で遊ぶこともできるのではないか。

 そんな期待に胸を膨らませながらうきうきとおじい様のお屋敷へと向かったが、もう少しで目的地という山沿いの道を通ったとき、ゲームの中で回想シーンとして描かれていたワンシーンを思い出した。・・・ここがあの悲劇の場所。防ぐことができるだろうか、私は。思わずぐっと掌を握ると、

「ねえしゃま?」

 隣のルートが不思議そうに覗き込んできた。何でもないと首を振ると、初めての遠出にはしゃぎっぱなしのルートの注意はまた窓の外にそれた。ほっとして一緒に窓の外を見ながら、私は、これからのことを少し憂えていた。

 それでも何事もなく旅を終えると、おじい様のお屋敷ではいつもよりのびのびとした雰囲気のお兄様が出迎えてくれた。馬車から降りようとすると、

「ほら」

お兄様が手を差し伸べてくれる。素直にお兄様に抱き上げられた私を馬車から下ろすと、お兄様は次にルートに手を差し伸べた。これまであまりお兄様と触れ合ったことがないルートはもじもじしている。

「おいで、ルート」

それでもお兄様の優しい声に促されてお兄様の腕に納まった。お兄様は、ルートのことは下ろさずそのまま屋敷のエントランスに向かう。抱き上げられたままのルートは嬉しそうにしている。・・・うらやましくなどない。私の中身は大人なのだ。

 と思っていると、

「ほら、シルヴィア」

お兄様が私に手を差し伸べた。・・・お兄様はいいお兄様だな。

「はい、お兄様」

 ありがたく私は手をつながせていただいた。兄弟と3人で過ごすなんて初めてだ。お兄様だって前世の感覚からいえば全然子供だし、現世であってもまだ成人前のはずだ。状況は状況なんだけど、それはやはり大人であるおじい様に任せればいいとさくっと今は子供になることにして、私はこの別荘生活を楽しむことに決めた。

 そうであればやることは決まっている。

 到着した翌日の朝、私は早速お兄様に言ってみた。

「遊んでください、お兄様!」

「くだしゃい、おにいしゃま!」

 隣に並んでルートも瞳をキラキラ輝かせてねだる。弟妹揃っての初めてのおねだりに、お兄様はちょっとたじろいでから、それでもすぐに笑ってくれた。

「そうだな。近くに湖があるから、ピクニックにでも行くか」

「はい!」

「あい!」

私が思わず手を挙げて賛成すると、隣でルートもマネをする。お兄様はますます楽しそうに笑った。だけど、お兄様は続けて、

「でも今日は私もやらねばならないことがあるし、お前達もまだ疲れているだろう。準備もあるから明日行こう」

と言った。

 冷静なお兄様の提案にちょっと不満だったけど、仕方ない。というかお兄様はこんなところでも勉強をしているのだろうか。偉すぎる。私はここは大人になって受け入れることにした。

 でも、隣のルートはぷくっと膨れている。ふむ、まだまだ幼いな。それではこれはどうだ。

「今日は屋敷の探検をします!」

まだ幼い弟を姉として導いてみた。

「あい!」

ルートは素直にまた手を挙げてよい子のお返事をしてくれる。・・・うちの弟可愛すぎる。ゲームだとあまり仲の良い姉弟ではなく、ヒロインにルートが攻略されるとルートは姉に容赦なく攻撃的になるのだが、こんな可愛い生き物を可愛がらないなんてゲームのシルヴィアの気がしれない。まあ、あの両親のもとで兄弟とも家族になれていなかったのだろうけど。

 それでは体が休まらないだろうというお兄様の視線はこの際無視して、私とルートは屋敷の探検にでかけることにした。貴族の別荘というのはなかなか広いもので、探検のしがいがありそうだとわくわくする。

 さあ、兄弟3人での楽しい別荘生活の始まりだ!

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