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不意打ちな初対面

 お兄様の言ったとおりフリッツは信用できたようで、あれからすぐにルートの乳母は変えられた。フリッツは赤子のルートに気がつかなくて申し訳ありませんでしたと謝っていたし、確かに信用できるんだと思う。フリッツが頭を下げたから目の前にきた髪の毛をルートがキャッキャと楽しそうに掴んだら、ルート様こんな私めに笑ってくださるのですねと涙してたのには、いやそれ何もわからない赤子だからと心の中で突っ込んだけど。

 乳母が変わってから毎日私はルートの部屋に行っていた。最初は今度は大丈夫か見極めるためだったけど、今はもう単に弟が可愛いからだ。赤子ってほんと可愛い。

 今日も早速ルートのところに行こうかと思っているとフリッツが来た。執事である彼が子供に関わることは本来はないから珍しい。首を傾げていると、

「シルフィア様。今日はおでかけです」

と穏やかにかつきっぱりと告げられ、怒涛の身支度が始まった。幼い身にドレスを着せられ髪を結われ、何だか気合たっぷりの恰好にされた。あっけにとられている間にフリッツに抱き上げられ、馬車に乗せられる。

「シルフィア様。先生に教えられたご挨拶、できますね?」

 フリッツの言う先生とは、やはり私が前世の記憶の奔流による卒倒から目覚めた翌日から1日に1刻ほどやってきて、マナーのようなものを教えてくれる女性のことだろうか。この年齢からマナー教師?と内心ひいてたんだけど。教えてくれること自体はそんなに難しいことではさすがになかったけど。

「シルフィア様?」

にこやかに問いただしてくるフリッツに、

「はい」

思わずよい子の返事をした。

「さすがルカス様の妹君です」

・・・ここでお兄様の名前をあげるフリッツに含みを感じる。フリッツは先代からの使用人だとお兄様は言っていたけど、現当主には思うところがあるんだろうか。ちなみに先代であるおじい様の実子はお母様のほうで、現当主のお父様は婿養子だ。フリッツは、お父様にではなく、公爵家に忠誠を誓っているのかもしれない。それがいつか私の助けになってくれるかも。このことは覚えておこう。

「ああ、見えてまいりましたよ」

フリッツが馬車の窓の外を指差して教えてくれる。そこには。

「おしろ・・・?」

前世でフランスに旅行に行ったときに観た宮殿のような建物がそびえたっていた。

「この国の王家の住まう王宮です」

「・・・おうきゅう?」

それはつまり問題のラウレンス殿下のおわす場所ではないか。同い年のはずだからまだ幼児だけど。

「らうれんすでんか・・・?」

「おお、覚えておいででしたね。ご当主様がシルフィア様をラウレンス殿下のお遊び相手として王城にお連れするとおっしゃいましたね」

そのおかげで前世でやりこんだゲームのことを思い出せたのだ。覚えているとも、名前だけは。そうか私を王城に連れて行って会わせると言っていたのか、あの父親は。・・・何も対策を考えていなかったぞ。・・・よし!出たとこしょ・・・じゃない臨機応変で行こう。そう、あくまで臨機応変だとうんうんとうなずいていると、馬車が止まった。

 先に降りたフリッツの手を借りて馬車を降りると、別の馬車で来ていたらしいアンナが後ろに来た。フリッツが、衛兵らしき人物に家名を告げると、侍女が呼ばれ案内に立つ。この短い脚で歩いていくのかなと思っていたら、またフリッツに抱き上げられた。ふむ、そのほうが良いだろう。よきにはからえといった気分でフリッツの腕の中から周囲を見渡す。

 やはり王城とは立派なものだ。そこかしこに衛兵が立ち番をし、飾られている絵画や花器の類は高価なものだ、たぶん。しばらく廊下を行ったところで、フリッツはアンナを従えて建物の外に出る。

「わぁ」

 そこは見事に手入れされた庭園だった。さすが王城、かけられている手が違う。

「お下ろししますよ」

感心していると、フリッツに声をかけられた後、腕から下ろされた。ここからは歩くのだろうか。首をかしげてフリッツを見上げると、左の方を見るように視線で促された。

 そこには、テーブルとイスが用意されていて、察するところお茶の準備がされているらしい。テーブルには1人の女性と私と同じ年頃の幼子が座っていて、その周りに侍女と衛兵が控えている。あれは王妃とラウレンス殿下、かな?

「さあ」

 小声で促されて、私はとたとたとテーブルへと歩み寄る。まだ少しおぼつかない足取りではテーブルまでずいぶん遠く感じる。ようやくたどりつきやれやれと思っていると、

「かわいらしいお嬢さんだこと」

声をかけられた。背後からさあ今こそ挨拶をというフリッツのプレッシャーを感じ、カーテシーをしながら名乗る。

「しるふぃあ・ばるけねんででしゅ」

あ、噛んだ。その人は私の挨拶にふふっと優しく笑って

「わたくしはダフネ・ブルクハウセンよ。顔をあげて」

名乗ってくれた。やっぱり王妃だったのか。お言葉に甘えて顔をあげると、幼児がじっとこちらを見ていた。ラウレンス殿下、だよなー、これ。たしか兄弟はいないはずだし、同じくらいの大きさの生き物を見るのは初めてなのかもしれない。私を凝視している幼児を抱き上げて私の前におろすと、

「さあ、ラウレンス、挨拶なさい」

 王妃は促した。言われてラウレンス殿下は、挨拶をしてくれるのかと思いきや、なぜかぐっと両手を差し出してきて私の体を押した。あっという間に私は尻もちをついてしまう。何かを思う前に涙がにじむのを感じ、そのまま私はわっと泣き出した。幼いこの体をコントロールできず私は泣き続けた。

・・・何て出会いだ。最悪だ。そう思いながら。

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