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やっぱりお兄様は正しい

 ラウレンス様は、私が休んでいる間に我が家にお手紙をくれたらしい。体調が悪いというていだった私宛ではなく、お兄様宛だったそれへの返信で、お兄様は私が学院に帰る日と時間を教えたみたいだった。

 もうすっかり体調は良くなったと私は言ったけど(そもそも体調が悪かったわけではないのだし・・・)、ラウレンス様は心配だと言って、いつもより私のそばにいてくれた。

 りょ、良心が・・・。結果的に仮病を使ったみたいになった私は、ラウレンス様の言葉に良心が疼いたが、それよりもやっぱり嬉しいと思ってしまった。ラウレンス様が私を心配してくれることが嬉しい。他の生徒や教師達にも体調を気遣われて、ますます良心は咎めたが、普段の行いのおかげか疑われることはないみたいだった。

 が、油断をしてはいけない。私は、学院に帰った日からラウレンス様と一緒にいないときは特に、1人にならないように行動した。寮へ帰ってしまえば、出入りはチェックされているし、ヒロインとは寮が違うから、そこからはたぶん大丈夫。もし何か冤罪をかけられてもアリバイを証明できるはず。それ以外の時間には、なるべく人目の多いところにいるようにして過ごした。

 それでも、それは起こった。

 その日、私はお昼をカフェテラスでとることにした。ラウレンス様もそうすると言ったけれど、教師に呼び止められ私だけ先に行くことになった。連れはいなかったけど、お昼休みのカフェテラスは多くの生徒達でにぎわっている。だから、私は完全に油断していた。

「ああっ!!」

急に大きな声がしたかと思うと、何かが私にぶつかる衝撃があり、手に持っていたトレイのスープがこぼれる。何事・・・!?と思ったが、これはもしや・・・。

「何で・・・」

目の前でことさら悲しげな顔をしていたのは、案の定ヒロイ・・・ミア・カルスだった。これはもしや冤罪をかけられようとしているのだろうか。確かゲームの中で悪役令嬢に食堂で嫌がらせにぶつかられて、制服を汚されるというイベントがあったはず。が幸いトレイを抑えたおかげでミア嬢の制服が汚れることはなかったし、大体そもそも私からぶつかっていない。

 懸念してはいたが、まさかのヒロインによる冤罪、のようだ。さて、どうしてくれようか。

「どうして、いつも私に嫌がらせするんですか」

涙目になっている彼女の演技は見事なものだが、さらにまさかのざっくりと他にも嫌がらせをしている冤罪をかけてくれたようだ。ここは落ち着いて対処しなければと私が冷静に口を開こうとしたとき。

「シルフィアは嫌がらせなんてしないだろう」

横からエルベルトが会話に入ってきた。一番ヒロインに惹かれているように見えたけどなと私が不思議に思っていると、ミア嬢がいよいよこぼれんばかりに涙を浮かべて、

「エルベルト様・・・でも・・・!私がラウレンス様と親しいから・・・」

エルベルトに言い募った。本当に見事な演技だ。が、

「シルフィア様は、嫌がらせなんてするような人間じゃない」

エルベルトは迷うことなく言った。・・・言ってくれた。エルベルトがそう言ってくれたことに密かに感動していると、

「大体ラウレンス様は、君に惹かれてなんかいないのに、何でシルフィアが嫌がらせをするんだ?君のほうがシルフィアより優れているところも特にないし」

エルベルトは言い放った。心から不思議そうに。

・・・そうそうエルベルトはこういうところがあった。まっすぐでいい子なんだけど、天然というかたまにバカなのかな・・・?と思うというか。端的に言うと、今、特に後半の部分言う必要あった?

「なっ・・・!」

エルベルトの言いぐさに、抜群の演技力を発揮していたミア嬢の表情が崩れる。

 そこへ、

「まあ、そうだよね」

さらにコルネリスも会話に入ってくる。

「もっと楽しませてくれると思ったのに、こんなシルフィアを陥れるようなことをするなんて残念だよ」

「コルネリス様・・・?」

信じられないものを見るようにミア嬢がコルネリスを見ている。薄々そうじゃないかと思ってたけど、こいつの性格がこうなのはトラウマのせいじゃない。元々のキャラクターだ。

「君はその立場では知らないはずのことを言いだしたり、複数の男に、しかも高位の男ばかりに媚びを売ったり、揚句ラウレンス殿下にまで近づこうとしてただろう」

だから、警戒していたんだ、とコルネリスは言う。

 意図を探ろうと近くにいたってこと?そんなことを思っていると、

「シルフィア」

気が付くとフロリーナがそばにいて、意味ありげに微笑んで、

「取り替えましょう」

と手に持ったまま立ち尽くしていたトレイを取ってくれた。あ、なるほどコルネリスの思惑をフロリーナは知ってたのね。

「あ、ありがとう?」

何だか私の出番がない・・・。いやそろそろ私が・・・!

「そもそも今のもそちらがシルフィアにぶつかってきたんだろう」

勢い込んだ私が口を開く前に、さらにラウレンス様まで入ってくる。わ、私の出番は・・・!・・・いやでもそういえば前世でお世話になった先輩の先生が、弁護士が本人訴訟をするとろくなことにならないって言ってたわ。ヤバい相手に懲戒されたときも他の弁護士を代理人にたてたほうがいいって言われたしな。ここは自分で出て行かないほうがいいのかもしれない。

 うんうんと自分を納得させている間に、ラウレンス様は私の隣りに立った。

「ラウレンス様、そんな・・・!」

懲りずにすがるような目で見ているミア嬢に、ラウレンス様は、

「もう十分だ」

とだけ言った。

「学院側とは既に話をしている」

「え?」

思わず私が首をかしげたところへ、新たな人物が登場した。

「あ」

 それは学院一厳しいマナーのノルデン先生だった。幼いときから、途中からは王妃教育の一貫としてマナーを厳しく仕込まれた私は、叱られることこそなかったが、それでも彼女がいると背筋が伸びる。

「ノルデン先生・・・」

 学院に入ってくるまで厳しくマナーを仕込まれたことがなかったらしいミア嬢に、ノルデン先生はそれが使命とばかりに厳しく指導するから、ミア嬢はノルデン先生が苦手のようだ。・・・ノルデン先生は、悪い人ではないとは思うんだけどなぁ。

「ミア嬢。ちょっといらっしゃい」

大勢の前で叱ったりはしないし。・・・個別指導も怖そうだけど。

「・・・はい」

ノルデン先生に逆らえる者はこの学院にはいない。ミア嬢も先ほどまでの見事な演技での食い下がりが嘘のように素直にノルデン先生についていった。

 ・・・何だったんだろう。・・・特に断罪に備えて気負っていたはずの私の出番のなさは。

「さあ、シルフィア、ランチにしよう」

何事もなかったようにラウレンス様に促されて、

「はい・・・」

とっさにぼんやりとうなずいてしまった。・・・まあ、確かにお昼休みは有限だ。とりあえず食事にしよう。

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