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一度は逃げ出してみた。

 あれから私はお兄様に手紙を出して、学院に私の帰宅を申請してもらった。ヒロインの転入でゲームの登場人物が揃ったとき、ゲームのストーリーが進行してしまいそうになったら、しばらく学院を不在にすることをお兄様と決めていた。今がそのときに思えたから、私は打合せどおりお兄様に連絡をした。

 お兄様はすぐに対応してくれて、私は手紙を出した次の日には、寮を離れて帰宅することになった。ルートには帰る前に何となく話しておいたけど、ラウレンス様達には会う勇気がなくて、何も言わずに寮を出た。

 私を出迎えてくれたお兄様は、何も聞かずにぽんぽんと私の頭をなでてくれた。

「しばらくゆっくり過ごすといい。お前はいつも学ぶことに熱心だから、今くらいはいいだろう」

優しいお兄様の言葉に私は甘えてしまうことにした。学院は出席より成績重視だから、しばらく欠席したからといって出席日数の不足で進級できないとか卒業できないとかはない。・・・出席を取らない大学の授業みたいな感じかな? 寮から帰ってきた翌日から、私は、自宅で勉強を進めることにした。ぼんやりしていても余計なことを考えてしまうだけだったし。

 わからないところはお兄様やおじい様に教わりながら、自宅で勉強をして2、3日過ごすと、このままでもいいかななんて思い始めた。独学で足りなければお兄様にお願いすれば家庭教師に来てもらうことはできるだろうし、試験日とか最低限の日だけ出席して卒業することにしようかな。

 そうすれば、嫌がらせをしたとかの冤罪もかけられにくくなるだろう。私はそう考え始めた。・・・ああでもフロリーナに冤罪をかけられたらどうしよう。

 我ながらうじうじ考えていた、4日目。気を紛らわせようと勉学に励んでいた私の部屋に、お兄様が現れた。そして、言った。

「明日学院に戻りなさい」

お兄様にしては有無を言わせない言い方に戸惑っていると、

「殿下ときちんとお話しなさい。これまで積み重ねた時間を信じてあげないとお可哀相だ」

お兄様はいつもの優しい口調で続けた。

「・・・それは」

本当は私だってこのままでいいとは思っていないし、ラウレンス様を信じたい。

「明日は学院に行きなさい」

「でも・・・」

「万が一駄目だったら帰ってくるといい」

やっぱりお兄様は妹弟には甘くて、結局は優しく言ってくれた。

「・・・はい」

だから、私は勇気を出すことにした。

 そうしてお兄様に助けられて決意したものの、翌日学院に向かう途中の馬車の中で、私は不安で一杯だった。授業の準備のために学院に着いたのはかなり早く、いつもならまだ眠いと思ってしまう時間だったけど、さすがに今日は眠気を感じない。

 我ながら緊張していると思いながら馬車を降りると、

「おはよう、シルフィア」

ラウレンス様がそこにはいた。

「お、おはようございます、ラウレンス様」

戸惑う私に、ラウレンス様が面白そうに笑う。

「ルカス殿に教えてもらった。すっかり体調が良くなったから今日から戻ると。それに授業の準備のためにこの時間だとも」

「・・・お兄様に」

お兄様ったら、いつのまに。心はもうシルフィアの年齢そのものな気がしてるけど、前世も含めれば経験値は私のほうが高いと思うのにお兄様には敵わない気がする。

「ここのところ元気がなかったから心配していたが、元気になって良かった」

「ラウレンス様・・・」

「さあ、行こう」

そのままラウレンス様にエスコートされて、私は学院に戻った。

 思いがけずラウレンス様が迎えてくれて、単純なことに私の心は軽くなっていた。ラウレンス様との関係は変わっていないし、ここは現実だから、ゲームのとおりになんてならないのかもしれない。私は、ラウレンス様が隣にいれば、以前のように前を見て進んて行ける気持ちになっていた。

・・・そんな簡単にはいかなかったのだけれど。

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