お兄様は正しい
お茶会とは、要はセレブの子供向けのパーティだった。いや前世でのイメージの話で、実際に行ったことがあったわけではないけど。手品師や演奏家を招いて子供達を楽しませ、豪華な食事やおやつを用意するパーティは、前世でイメージするセレブの子供向けのパーティみたいだった。
王家や高位貴族の子供とはいえ、子供は子供だ。お母様が気合いをいれて招いたエンターテイナー達に招待客は大喜びで我が公爵家主催のお茶会は大成功だったと思う。
私にとってもフロリーナと仲良くなれ、文通や個人的なお茶会の約束ができたので大成功だ。お茶会の間のフロリーナの様子を見ていたところ、やっぱりコルネリスへの思いは一目瞭然だった。そのことをこっそり振ってみると、無事に恋バナで盛り上がることができ、仲良くなれたのだ。
女の子っておませなんだなぁ。フロリーナの視線の先で手品に夢中になっている、王太子とその側近候補を見ていると、男子3人の様子とフロリーナの恋バナのギャップに思わずそんなことを思う。
しかし、こちらに「でんかのことがすきなの?」と聞いてきたので、そういう気持ちはないと答えたら、何だかお姉さんぶった目で見られたのは、私の中の大人には堪えた。・・・ただ前世でも資格取得のために彼氏と別れたことがある私だ。前世とあわせても恋する力は確かにこのまだ幼い子より劣るのかもしれない・・・。思わず遠い目になりつつもフロリーナと親交を深めることができ、私にとってもお茶会は大成功だった。
が、非常に残念なことにお茶会で起こったのは、それだけではなかった。王妃様に連れられてきたラウレンス様に挨拶をしたとき、ラウレンス様が言い出したのだ、私の中の悲劇の記憶につながりかねない言葉を。
我が家に現れたとき、ラウレンス様は少しご機嫌がななめのご様子だった。そう、まるで拗ねているような。心当たりのなかった私が内心首をかしげながら挨拶をすると、ラウレンス様は、
「みずうみに行ったらしいな」
挨拶もそこそこに言い出した。完全に拗ねた口調のラウレンス様に、思わず実際に首をかしげてしまう。
「わたしもみずうみでなど遊んだことがないのに」
ああ、そういうことか。・・・遊びに行ったわけでもないんだけどなぁとも思うが、それは言える話ではない。
「ラウレンス様もいつか行けると思います」
あの保養地に王家の離宮があるとは聞いていないが、王家であればいくらでも何とかなるのではないか。と私はてきと・・・無難に返事をした。すると、ラウレンス様は、
「私もバルケネンデ家の別荘に行きたい!」
恐ろしいことを言い出した。
「それは・・・」
「行きたい!」
今まで見たことがないほどぐいぐい来るラウレンス様に思わずひいてしまう。
「でも・・・」
「私も行ってみたいのだ」
これは断りづらい。そこで、私はとりあえずこの場をしのぐことにした。
「おうちの人にきいてみます」
私の答えにラウレンス様は大層不満そうな表情になったが、子供にとっておうちの人に聞いてからは基本だろう。そこにエルベルトがやってきていったん話は終わった。
やれやれと思ったが、あの勢いでは王妃を通して我が家にお願いなどしかねない。何とかしなければと思った私はお兄様に相談することにした。お茶会の翌日、週末で学院から帰ってきたお兄様を早速捕まえて相談する。しかし、お兄様は、
「一緒に行ってもいいのでは?」
のんびりとした口調で返してくる。
「それはだめです!」
なぜならば、それは王妃の死亡フラグだから。ゲームの中では、どうしてもラウレンス様の婚約者になりたいシルフィアと、家のために王太子妃にしたい父親のほうからの提案だったと思うが、子供時代のラウレンス様が王妃と共にバルケネンデ家の別荘に行くエピソードがある。
「そのときに事故が起きるのです」
「事故?」
「前日の嵐のせいで途中の道の崖が崩れて・・・ラウレンス様をかばって王妃が・・・」
バルケネンデ家のほうから招かなければこのイベントは発生しないかもと期待してたけど、そうはいかないみたい。だったら、やっぱり事故は起こってしまうかもしれない。
「だから、来てほしくないの」
「なるほど」
お兄様は、私の話を聞いて、ひとつ頷いた。しばらく考えた後、お兄様は笑った。あまり見せたことのないちょっと悪戯な微笑み。
「じゃあ、王太子殿下におねだりしてみたらどうかな?」
「・・・おねだり?」
お兄様の口から意外な言葉がでてきて、思わず首をかしげる。
「シルフィアは海も見てみたいと言っていたね」
「はい」
「王家の離宮が海のそばにあると教えてあげただろう?我が家の別荘ではなく、そこに一緒に行きたいと王太子殿下におねだりしてごらん」
「・・・それでうまくいくの・・・?」
とっても疑問だ。
でもお兄様は自信たっぷりに頷いた。
「今度お招きいただいたときに試してみるといい」
敬愛するお兄様の提案だったけど、私は内心その効果をとっても疑っていた。
が。結論からいうと王子はちょろか・・・提案にのってくれた。次に王宮でのお茶会に招かれたときに、湖にまた行くのではなく、まだ見たことがない海に行ってみたいと言ってみた。すると、ラウレンス様は、
「わたしは行ったことがある。あんないしてあげよう」
と嬉しげに言い出してくれた。そのやり取りを見ていた王妃は、
「楽しそうね。ぜひご一緒しましょう」
と微笑んだ。
・・・こうして、無事に我が家の別荘に行く話はなくなり、海辺の離宮に私がラウレンス様とお邪魔することになった。
やっぱりお兄様は正しかった。