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そして、もう1人の親は

 良い領主でもなく良い家族でもなかった父親は、公爵、領主としての地位とこの屋敷から去った。これで没落への一因がなくなって一件落着だ。・・・いや父親がもう余計なことができないという意味では、あの事件ももう起こらないから、二件落着か。

 そう安心していたが、ふと気がつく。母親はどうした?

「おじい様、お母様はどうしたの?」

おじい様とお兄様に秘密を打ち明けて受け入れてもらって、少し落ち着いたところで私は何気なく疑問を口にした。

 すると、

「お母様は・・・」

お兄様が何とも言えない表情になってしまった。あ、聞かないほうが良かったかな?でも父親と一緒に領地に行ったとも言ってなかったし気になったのだ。

「王都の屋敷に残ることになった」

 父親と違って不正をしていたわけでもないし、そうなるか。事務的に頷いた私に、おじい様は、少しためらった後言葉を続けた。

「あれのことについても説明しなければならないと思っていた」

あれって・・・おじい様の娘のことでしょうに。

「お前達を守り育てなかったということでは、バルトルトと同罪だ。公爵家に生まれた者として婿を取ったからといって夫の不正に全く気付いていなかったことも本来であれば許されない」

おじい様結構厳しいなぁ。まあ私達に無関心であったのは事実だけど。

「だが、あれは・・・アレイダの母は、アレイダを産んだときに亡くなったのだよ・・・」

 そして、おじい様も仕事にかまけ、子供に関わることなく時が過ぎた、と。おじい様は母親のフォローを始める。いや、おじい様やっぱり甘いわ。

 歯切れの悪いおじい様の話をまとめると、こうだ。母親を亡くし、父親の愛を感じずに育った私達の母親は、若かりし頃恋した人がいた。その人とは結局結ばれることはなく、父親と結婚した。そのとき夫婦になろうと歩み寄る気持ちはあったらしいけど・・・まあ、あの父親だからなぁという結果に終わり、立派な仮面夫婦となった。配偶者と共に親になることができず、子供の頃に親に育てられた記憶がないから、親として私達にどう接したらいいのかわからず、産むだけ産んだら後は放っておいた、と。

「これからはもっと親として向かい合うように話したから、お前達のお母様と一緒に暮らしてほしい」

1度だけチャンスをあげてほしい。

 おじい様はそう言う。

 まあ、わかるよ、親の愛を感じることなく育ち、恋した人と温かい家庭を築こうとしたけど叶わず、政略結婚の相手と冷たい家庭を築くことになってしまったという事情は。お母様は、寂しく育った、恋や家庭に夢見る乙女だったのでしょう。それが悪いわけではない。可哀そうな人だとも思う。

 思うが。それを子供に言われても。私の中身は子供ではないからいいが、お兄様とルートにこれを受け止めろというのか。いや、ルートはまだあんまりわかってないからともかく、お兄様にお母様の事情を斟酌しろというのは何か違う。

 そんな内心の不満が表情に出ていたのか、おじい様は辛そうな顔をし、お兄様は苦笑した。

「お兄様はいいのですか?」

「そうだね。公爵家には女主人としてお母様が必要だ。お前がこれから社交界に出るときにもきっとお母様の助言が必要になるよ」

お兄様は私に諭すように言った。

「本当にあの人が子と向き合えるのなら、ルートにとっていいことだ。もちろんお前にとっても」

・・・お兄様はご自分のことは言わないのね。お兄様は人生2周目の私とは違う。この世界ではみんな早く大人になるのかもしれないが、前世の感覚で言えば、思春期の難しい年頃だと思うのに、お兄様は哀しいまでに大人だ。

「お兄様がいいのなら」

私が不承不承頷くと、お兄様は、

「いい子だ」

笑って私を抱きしめてくれた。・・・本当にこの人は哀しいまでに大人だ。


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