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もう1人じゃない

 王都の屋敷に帰ってお菓子をもらって一休みしている間に、やっぱり移動は負担だったのかルートはことりと眠ってしまった。乳母がそんなルートを部屋に連れていった後、おじい様は私にこれからのことを教えてくれた。

 結論からいうと、お父様は病気だから引退して領地で静養し、お兄様がおじい様を後見人として領主を継ぐことになったということにして、王家の許可も取って既に公にしたそうだ。さらにお父様は、私達がいない間に既に療養のためと称して領地へと出発済みだった。・・・展開が早い。外にお父様の不正が知られないうちの処分だったんだろうけど、おじい様は素早い。

 それにしても、ルートほどではないが、私もまだ幼い。私によく教えてくれるなと思いながらおじい様の話を聞いていると、

「ルカスから聞いている。お前は年齢以上に聡い子のようだ」

おじい様は見透かしたように言った。そのままじっと私の目を見てくるおじい様に内心たじろぐ。

 私は内心相当身構えたけど、

「抱えているものを話してみないか」

おじい様は、問い詰めるのではなく、優しい声で言った。

「・・・はい」

 おじい様の優しい瞳と、隣で見つめるお兄様の心配そうな瞳に、私は隠し事をやめることにした。

 2人のことは信じられると思ったし、まだ幼い身で、これからしばらく1人ではできないことのほうが多い。自分だけのためじゃなく、家族のためにも未来を変えるために今からしたいことはたくさんあるのにそれでは叶わない。

 だから、私は全てを話すことにした。父親の隠していた書類を見つけたとき、お兄様に何を隠しているのかと聞かれた時には答えられなかった。でももう隠し事をするのはやめにしよう。私達は家族なんだから。そう素直に思えた。

 前世の記憶のこと、その中で今生きる世界のことをなぞるような物語(ゲームというものを現世の世界観の中で説明できる気がしなかったので、そこは改変した)を読んだこと。今まで変えようと思って行動してきたその中身。

 話の途中でおじい様はメイドを呼んで飲み物を変えてもらった。話を遮ったのはその時だけで、2人は時折相槌を打つだけで、言葉を挟まず聞いてくれる。

 まだ全てを話し切ったわけではなかったけど、今までの自分の行動の理由となった記憶については全て話した。

 そう思っていったん話を終えた。信じようと決めたけど、2人の反応が怖くて俯くと、誰かが近づく気配がして顔を上げた。次の瞬間には、私はおじい様に抱きしめられていた。

「おじい様?」

「良く頑張った」

「おじい様」

 おじい様の言葉と、抱きしめてくれるぬくもりに泣きたくなる。ぎゅっと抱き着くとお兄様のため息が聞こえる。思わずびくりとしてお兄様を覗く。

 そうしたら不安に反してお兄様は優しく笑って、私の頭をなでてくれた。

「おじい様に先を越されてしまった」

私のほうが先にシルフィアと話し始めていたのに。

 拗ねたようにそんなことを言うお兄様に、私は思わず笑ってしまう。

「笑顔になったね」

「お兄様」

 お兄様の優しさが嬉しくて、思わずお兄様に抱き着くと、お兄様はしっかりと抱き留めてくれる。そして、おじい様が私達をまとめて抱きしめてくれた。

「今まですまなかったね。当主の地位を譲ったのだからと遠慮していた」

おじい様の声が少し苦く響く。

「これからは私がお前達のことをきちんと守ろう」

力強いおじい様の声に自責の念がにじんでいる。

 言葉を選べず私がただ頷くと、

「私もお前とルートを守るよ」

今度はお兄様の優しい声。

「・・・ありがとう、おじい様、お兄様」

お兄様とおじい様にぎゅっと抱き着いて私は心から感謝した。

 もう1人じゃない。それが嬉しかった。

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