3人で一緒に
別荘での3人の時間は、穏やかで幸せなものだった。お兄様が勉強の合間に私に本を読んでくれたり、私がルートに絵本を読んであげたり。こんな時間が続けばいいなと思ったけど、数日経ったある朝、お兄様は王都に帰ると言った。
「お兄様だけ?」
「ああ。でもお前達もすぐに帰ることになるよ」
「そうなの?」
いつまでも続くものではないとわかっていたけど、ここでの暮らしが終わるのは寂しいような。
「・・・戻っても3人で過ごす時間を作るよ」
お兄様は、私の気持ちをわかってくれたようで、そう約束してくれて私とルートをまとめて抱きしめてくれた。
「先に帰って待っているから」
「はい!」
「あい!」
お兄様が約束してくれたから寂しくなる必要はない。私が元気よく手を挙げて返事をすると、ルートも隣で真似をした。それでも朝食を終えて帰っていくお兄様をお見送りすると、少し寂しくなった。つられてしまったのか少ししょんぼりしているルートに、これではいけないと思う。
「昨日のご本の続きを読んであげるね」
ルートの手を取ると、ルートは私を見上げて嬉しそうに笑って頷いてくれた。
「じゃあ、ご本のお部屋まで競争!」
よーいどん!と走り出すと、ルートもよちよちと走ってついてくる。その表情が楽しそうで、ちょっとほっとする。
お兄様が先に帰った後も、ルートと2人で仲良く過ごしてたけど、お兄様の言うとおりそれほど長い間ではなかった。私達も帰ることになったと聞くと、王都とは違う自然の中で過ごしたり、私がずっと一緒にいる環境が楽しかったのか、ルートがつまらなそうな表情になる。
「また来られるよ」
私がなだめると、
「ほんと?・・・つりできなかった」
ルートは悲しげにつぶやいた。そうだ、結局釣りには行けないままになってしまった。だが、また機会はあるだろう。
「お兄様も一緒に釣りに行こうね」
「うん。にいしゃまもいっしょ」
だから、今はお兄様のところへ帰るのだ。そうさとすと、ルートは元気を取り戻して、
「あい!」
嬉しそうに手を挙げて返事をしてくれた。・・・気に入ったのかな?・・・私の弟が可愛すぎる・・・!
帰りの馬車の中でも、お兄様のところへ帰るのだとルートは楽しそうにしていた。私は、行きにも通ったあの場所を通るのがちょっと怖かったけど、帰りも何事もなくそこを通過する。
何となく行きよりも早く着いた気がするなぁと王都の屋敷の玄関の前で馬車を降りようとすると、今日はおじい様とお兄様が揃って出迎えてくれた。
「さあ、シルフィア」
おじい様は私に手を差し伸べてくれた。素直におじい様に抱き上げられた私を馬車から下ろすと、おじい様が次にルートに手を差し伸べる。ルートはにこにこと伸ばされたおじい様の腕に納まった。
「私には初めは少し戸惑っていたのに」
お兄様が少し不満そうにつぶやいたのを聞いて、おじい様は、
「私はおじい様だからな!」
と楽し気に笑った。
「どういう意味ですか」
あきれたように首を振りながらもお兄様は私のほうへと手を伸ばしてくれたので、今日も喜んで手をつなぐ。おじい様は当然のようにルートを抱き上げたままだ。
「疲れただろう。菓子なども用意させたし、少し休むといい」
おじい様、お甘い・・・。両親の無関心対応に慣れていた身からするとびっくりするくらいおじい様は溺愛対応である。・・・でもそれが嬉しい。大人として生きた記憶を持っている心の中に、それでも確かにある小さな子供の心が満たされる心地がした。
そして、私は、お兄様やルートの心も満たされていく環境が整うといいなと願った。